第三章 その1 野山乃花『一期一会。その機会は日常に紛れているが、あまりにも分かり難い。』
◇新年 一月 野山乃花自室
年末に全日本高等学校カーリング選手権大会予選が終わるとあっという間に年が明けた。
しかし、受験生の哀しさ。
まったりしている暇はない。
私はBL執筆の傍らで息抜きに受験勉強をしていた。
変わった事と言えば、時折伊勢原先輩からゲームの誘いがあり、長門先輩、山城先輩とゲームをするという事。
スマートフォンでボイスチャットしながら、次の日に集まろうという流れになったのが一月二日の夜。
「私、受験生ですけど?」
という私の問いは。
「息抜きは必要」
という遊びを正当化する常套句によって一蹴された。
◇一月三日。
本来であれば、相も変わらず寒い部屋で絵に描いたような受験生を決め込んでいるはずだった。
窓も曇れば眼鏡も曇る。
灯油がほのかに香る部屋。
部屋の隅ではピンク色したブタ形の加湿器が、鼻から湯気を燻らせる。
この雰囲気は嫌いじゃない。
名作が産まれる予感だ。
次々と頭の中に浮かんでくるフレーズとシナリオ案をタブレットPCのアイデア帳(当然極秘文章)にまとめると、出掛ける準備をする。
すると私の部屋の襖がノックされる。
あ、いけない。
結構時間が過ぎていた。
「乃(花)、そろそろ出掛ける?」
「母よ。娘の名前を省略し過ぎるのは止めておくれ。うん、出るわ」
「年賀状、届いてるわよ」
「私に?後で見るよ。もう出ないと」
私に年賀状を送るなんて殊勝なヤツは後輩の黒崎諒くらいだが。
アイツの年賀状はしっかり一月一日に着いていた。
襖を開け、ずだんだんだんっと階段をおりる。
「我が家の姫がお出かけか?」
居間でコタツに入ったまま父が聞いてくる。
「父よ、年頃の娘がデートなのだ。もうちょっと驚いたら如何か?」
「そうか、友達と息抜きか。たまにはいいさ」
「…」
一応デートという言葉を使ってみたが、父には全く相手にされなかった。
「…その、カーリング部の中で二月に遠征あるんでしょう?行かなくて良いの?」
階段の上から母の声。
靴を履きながら、一瞬手を止める。
私は振り向きもしない。
…そんなお金、ないでしょう。
母よ。
我が家、特段貧しい訳ではないが、かといってそう裕福でもない。
そして恐ろしい事に、受験生でも遠征に行く奴がいるという事実。
「私、受験生、勉強、大変ネ」
手をひらひらさせて答える。
「ノヤマノハナ、腐女子、いっきま〜す」
今日の軽井沢も寒い、な。




