第二章その15 野山乃花 『 敗軍の将は、退却開始の相当前から、その運命を自覚したはずである。』
◇十二月末 全日本高等学校カーリング選手権大会 関東中部エリアトライアル予選
第四エンド相手チームに二点を取られ、四-二、二点のビハインド。
残りが二エンドしかないことを考えると、点数以上の差がある。
しかも、この第五エンドを二点取って同点としても、第六エンドは相手の後攻。
ある程度実力があるチームが、後攻で一点を取ることはそれほど難しい事ではない。
この第五エンドを点数なしのブランクエンドとすれば第六エンドで後攻は取れる。
だがそこで二点取れなければその時点で敗北だし、二点取って同点としても延長戦では相手チームが後攻。
その後は以下略、という展開だ。
つまり、この段階で九割がた先輩達に勝ちはない。
『氷上のチェス』
そんな言葉が頭をよぎる。
例えばチェスや将棋の対局でもキング、王将が取られるまで対局は続かない。
お互いに何手も先を読み合い、勝てないところで投了となる。
…カーリングも同じだ。
ある程度のエンドを残して、試合が決まってしまう。
もちろん相手がミスをするかもしれない。
先は分からない。
だが、あと二エンドを残して既に相手の勝ち筋が見えている。
それでも。
…それでも。
一縷の望みにしがみつき、一割の勝利を信じ、「それでも、それでも」と呟きながら石という名の希望を置き続ける。
まるで賽の河原で石を積んでは壊される子供達。
時として私にはカーリングというスポーツが、そんな残酷なスポーツに見える事がある。
長門先輩の一投目。
「もんじぃ、コーナーガードだ」
「分かっている。ドローウェイト…かなり遅めだな」
先輩のデリバリー。
「ラインは良い!後はウェイトだ…あっ!?」
全員が声をあげる。
…途中、何かを噛んでしまったのだろうか?
突然先輩のストーンは回転が変わり、ハウスのコーナーよりかなり外側で止まってしまう。
…運がない。
だが…クリーンと呼ばれるコースの掃除をしていれば、防げたかもしれない。
ここに来てのミスは致命的だが…。
「すまん!クリーンすべきだった」
「気にするな。カーリングに捨て石はないんだろ?」
言って長門先輩がこちらをチラリと見る。
…私はどんな表情をしているだろう。
笑っていたい。
選手に不安を与える表情はしたくない。
…眼鏡は…鼻息で曇っている。




