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14・メッセージ

 2時のエリア・『巨人ウォークライダー』が支配していた、「ストーンヘンジ」の平原。

 春の風が、菜の花咲き乱れる平原を撫でていく。

 浄化されるまではススキに覆われ、死霊がうろついていたとは思えないほど牧歌的な光景だ。

 菜の花の中に乱立する奇岩のみが、汚染時と変わらぬ姿を残している。

 そんなイギリスの巨石群・ストーンヘンジをモデルにした奇岩のサークルに背を預けて、俺はへたり込んでいた。

 クロスは、俺がしなだれている巨石の反対側に、立ったままいるようだった。

 無理やり俺をここに連れてきてから、全く口を開いていない。

 ただ風が通って行くだけ。

 どれくらい時間が経ったか、先に口を開いたのは俺だった。

「……助けて、くれたのか?」

「勘違いしないで……って言うのも漫画のキャラみたいだけど……」

 クロスはおずおずとそう言った。

「このゲームを作ったアンタには……借りがあるから」

「借り……?」

「アタシは……本当のアタシは、全然こんなふうじゃない。怒ってても怒ってるなんて言えないし、殺してやるなんか口にもできない……なんにもできない」

 巨石の向こうから聞こえてくる声は、震えているようにも、聞こえた。

 そして、声のする位置が変わっていく。

 上から、下へと。

 座り込みながら、紡いでいる言葉――

「でも、そんな私も、『ガーデン』なら違う。「あの」中では、言いたいことが言えた。言える自分になれた……」

 あの、か。

 確かにそうだ。「この」じゃあない。

 そう俺も心中で相槌を打っていた。

「ふふ、おかしいでしょ? ホント漫画みたいなキャラクターな私……」

「そんなことは……」

「いいって。自分でもやりすぎだなーって思ってるから。でもね、昔好きだった漫画のヒロインそのままなの。その通り振る舞ってたら、同じ漫画のファンと仲良くなったりしてね……それが楽しくて……ぜーんぶ、作った姿よ。ふふっ……」

 そう笑う彼女の顔は、なんというか、作られたものとは感じなかった。

 不意に本音が漏れたその表情は、ヒマワリとはいわないまでも、タンポポのような、笑顔だった。

「……ごめんね。私こそ謝らないといけなかったんだ」

「えっ?」

「アンタを敵視していたこと」

「それは、もう謝ってくれたじゃないか」

「なんだろ、あの時は、まだキャラになってたような気がするの。矛盾して聞こえるかもしれないけど、クロスを演じている間は何でも言えるからこそ、本心からの言葉じゃなかったかも、って。だからこれが本心からのゴメン、かな」

「そう、か。だったら遠慮なくその謝罪を受けておくよ」

「ふふ、アンタ、変わってるわよね……だから、『ガーデン』を作れたのかも……」

「それは、そう、だろうな」

「『ガーデン』はアタシがアタシでいられる場所……」

「クロス……」

 そこまで『ガーデン』を愛してくれたことが、素直に嬉しい。

「だから、アタシは『ガーデン』の中にずっといた」

「え?」

 背骨を、稲妻が駆け抜けた。

 俺は、とんでもない勘違いをしていた。

 なんて……ことだ。

 なんてことだ……。

 全身が、一気に冷えていく。汗が吹き出す。

「アタシの居場所はあそこにしかなかった……」

 違う。

 待ってくれ。

 そうじゃない。

 そうじゃないんだ。

「それを作ってくれたアンタに……救われたって……言えるかもね。だから、それが借り。アタシが、アンタを、どうこうしない理由……」

「すまん!」

 俺はたまらず岩の後ろ側、クロスのほうまで回り込んだ。

そして、土下座していた。

 額が地面にめり込むほど、頭を下げる。

「なっ、なによ急に……!」

 クロスの驚いた声が、上から降ってくる。

「アタシが謝ったのは、アンタの全てを許したわけじゃないのよ! この世界のせいで、何人死んだと思ってるの! それは、土下座で許されるようなことじゃない……! アタシの謝罪とは全然話が別なんだから!」

「違う」

「違わないわ! アンタが作った世界が人を殺した!」

「そうじゃない! そこじゃない!」

 顔を上げ、肩を掴む。

「俺が『ガーデン』を通して伝えたかったのは……! 何度やられても頑張っていればチャンスがある、いつかは勝てるってことだ……! だから死に覚えのゲームだった! 俺は、あれを通して、何度も挑戦するすばらしさを知ってほしかったんだ……」

「……え?」

 俺が、『ガーデン』に拘ったのは、そのメッセージを伝えたかった。

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