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13.断罪

 教会の扉の奥には、ゴールデンたちだけでなく、既に避難してきていたのだろう多数のプレイヤーの姿があった。奥は良く見えないが50人はいるだろうか。

 その100ほどの瞳が俺を射抜いている。


「……おい、マグマ。お前……」


 ゴールデンが絞り出すように言い、そこで止まる。

 その続きはわかっている。

 だから――


「俺はマグマじゃない。シ(・)グ(・)マ(・)だ(・)」

「!!」


 コアなプレイヤーなら、全員知っているだろう。


「シグマって……やっぱりお前! 開発者の童時雨磨か!」

「そうだ」


 ここで、嘘はつけない。

 つきたくなかった。


 それを聞いたゴールデンは、魂が抜けた様に放心し、口をぱくぱくさせる。

 アキヤマはばつが悪そうに、頭を抱えていた。


「だから、あーしも見たことのないモンスターを知ってたってコト。あってる?」

「ああ……あの火災鎧は未実装のボスだ」

「マジかー……マジかー……」

「そんなことはどうでもいいだろ!!」


 教会の中から、気の強そうな少年が飛びだしてきた。軽装剣士だが、金髪のリーゼントにドラゴンのタトゥーを入れ、ファンタジー世界のヤンキーといった風体だった。こういう姿にするプレイヤーは珍しい。もしかしたら、現実世界では親が厳しいなどの理由で出来ない格好なのかもしれない。


「コイツが元凶ってことだろうが!!」


 少年が叫んだ。

 それが引き金になったかのように、教会の中からわらわらとプレイヤーたちが現れ、口々に怒りを吐き出した。


「なんでこんなことをしたのよ!」

「人殺し!」

「ふざけるな! 早く俺たちを帰せ!」

「返してよ! 洋子を返してよ!」

「何人死んだと思ってるんだ!」

「責任をとれよ!!」

「人でなしが!」


 罵倒が続く。それが輪唱のように耳の中で響き続けた。

 それが重しのように上からのしかかって、自分が立っているのかわからなくなってくる。指先が冷たくなっていくのがわかった。


 でも、これは聞かなくてはいけない。

 俺が作った『ガーデン』だ。そのプレイヤーの声なんだ。


「なんとか言えよ!」

「私たちを帰してよ! 家に帰して!!」


 プレイヤーたちは怒りながらじりじりと迫ってきていた。

 罵倒が暴動へと変わりそうになった瞬間、その人垣を割って一人の女性が飛びだした。


「やめてください!!」


 歯車型の麦わら帽子の女性――リュウズだった。

 まるで子供を守る母親のように、俺の前に両手を広げて立つ。


「シグマ様がみなさんを巻き込んだのではありません! この方は、みなさんを助けるために……」

「お前はアイツに作られたNPCだろうが! 信用できるわきゃねえだろ!!」


 ヤンキー少年が顔を真っ赤にして叫び、リュウズに掴みかかろうとした。

 そんなリュウズを押しのけて前に出る。


「やめてくれ。リュウズは関係ない」

「かっこつけてんじゃねえ! 人殺しが!」


 ヤンキー少年の拳が、頬に突き刺さる。痛い、のだと思う。

 頭が麻痺してよくわからない。


「俺がなんとかする」

「何とかって何だよ! プログラムでも書き換えてパパーッと戻してくれるってのか?」

「……それは出来ない」

「ざけんな!」


 少年は再び殴りつけてきた。

 その熱に浮かされた様に、周りのプレイヤーたちも動き出す。


「俺も一発殴らせろ……その権利はあるはずだ!」

「お、俺だってそうだ! こんな目にあわされたんだ!」

「やっちゃって! 私の分もお願い!!」


 殴る蹴るの暴行が、始まった。

 麻痺した頭にじんじんと響いてくる痛みそのものよりも、胸の内に暗いものが湧いてくることのほうがずっと嫌だった。


 ――俺は何のためにこのゲームを作ったのだろう。


 そういう思いがよぎってしまった。


 ああ、それが何より、嫌だ。

 人生の全部を捧げてきたのに。


「やめてください! やめてください!」


 視界の端でリュウズがプレイヤーたちにすがっている。


 ゴールデンは鯉のように口をぱくぱくさせたまま立ち尽くし、ストリンドベリは何か絵に耐えるように俯いている。アキヤマは教会に背を預け、諦めたような様子でうなだれていた。


 そして、クロスは――


「やめなさいよ!!」


 剣を腰から引き抜くと、それをプレイヤーたちに突きつけた。


「今すぐ! やめなさい!!」


 切っ先を、一人一人に向けていく。


「な、なんだよ、お前だってコイツに巻き込まれたんだろうが!! 憎くねえのかよ!!」

「うるさい!! それを考えてるところなんだから話かけないで!!」


 無茶苦茶なことを言いながらクロスはじりじりと近づいてくる。

 なんだ。なにをしている。

 彼女の意図が、わからない。


「クロス、あーた、何をするつもり!」

「わからないって言ってるでしょ! あーもうっ!!」


 クロスは強引に俺の腕を掴んで引っ張った。


「お、おい。何を……」

「いいから来なさい!!」

「やめろやァ! そいつは元凶だぞ!!」


 ヤンキー少年が額に血管を浮かせながらクロスに突っかかる。止めようにも、体がきしんで動かない。その時初めて、自分が火災鎧との戦いで消耗しきっていたのを思い出した。


「知らないわよそんなの!!」

「へぶぁっ!?」


 クロスは剣の腹で少年の頬をぶっ叩いた。小気味良い音が辺りに響き渡る。


「邪魔すると斬る!! 邪魔すんな!!」


 その眼は真剣だった。

 彼女の気迫に圧されたのか、暴徒と化したプレイヤーたちもひるんでいる。

 そうしてできた隙に、彼女は俺を引っ張り、燃え盛る町に向かって走り出した。


 後を追ってくる者は、誰もいなかった。

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