食堂では
リアナ達は午前の授業を終え、食堂に向かっていた。
すばらしいことに第一食堂では何を食べても全て無料である。お金に余裕のないリアナにとってはありがたかった。
味は雑で繊細さが欠けている、とはアデリーヌの談である。なんでも、彼女のは二つ上の兄がいて騎士科の生徒らしい。
騎士科の生徒も同じ建物で勉強しているが、座学より実技が多くしょっちゅう校外演習で外に出ているのであまり会うことがない。しかし、長期の校外演習以外は彼らも食堂で食べる。だから食堂は彼らと知り合いになるのにはうってつけの場所ということだ。
素材採取には護衛が必要となるので早めに彼らと仲良くなっておいた方がいいらしい。
アデリーヌは彼女の兄から色々と聞いているようで、リアナは頼もしく思った。
リアナとユイリーの懐事情から第一食堂へとやって来たのだが、以外にも人が多くほとんどの席が埋まっていた。裕福な生徒が大半を占めているのだから、味が評判の第二食堂に皆が行っているのだろうと予想していたリアナは驚いた。
「ねえ、アデリーヌ。アデリーヌのお兄さんによると第一食堂より第二食堂の方がおいしいはずだよね? わたしやユイリーのようにお金に困っていないのにどうしてこんなにも人が多いの?」
「味は確かにいいのですけれど、第二食堂の食事はバターを多用していて、毎日食べると飽きるそうですわ。それに値段もばかにならないようで、それだったら無料の第一食堂で食べて浮いたお金を装備品やアイテムなどにまわしたい、と兄が言っていましたわ」
なるほど! 毎日フランス料理のフルコースをたべるようなものか。だけど、一回くらいは食べてみたいなあ。ううぅ、ばんばんアイテム作ってどんどん売ってお金貯まったら絶対食べてやる!
ちょうど四人グループが食事を終え席を立ったので、リアナ達はそこに素早く座った。
しばらくすると、上下真っ白な服を着た男がメニューを持ってきてリアナ達に渡す。
リアナは日替わり定食を。アデリーヌとユイリーも同じく日替わり定食を選択した。男は一礼して去って行った。
食堂なのに、まるで高級レストランに来ているかの対応にリアナは戸惑った。しかし、アデリーヌもユイリーも平然としていたのでこれが普通なのだろう。
ユイリーには貧乏仲間ということで親近感を覚えていたのだが、やはり貴族なだけはあった。
今日の日替わり定食は、白身魚がメインである。それにパンと野菜のスープが付く。
リアナはこの世界に転生してから魚を一度も食べた事がなかった。まあ、肉でさえ満足に食べることが出来ない生活だったが。
だから魚が出てきたのを見て喜んだ。
ただ塩で味付けしただけだったが、それで十分だった。あっさりした味で素材の良さが引き立っている。王都は海に面しているので海産物が豊富にとれ、新鮮で特においしいらしい。
「おいしい! 生きててよかった!」
「えっ!!」
リアナの感動のこもった言葉にユイリーとアデリーヌの二人は驚き絶句した。
二人にとってそこまでおいしいとは思えなかったのだ。大して味付けにもこっていないし。
リアナが話す食生活は彼らの想像の遙か上をいったらしく、衝撃を受けていた。ユイリーなどは「僕はリアナと比べたら貧乏と言うのはおこがましい」などと失礼なことを言っていた。
二人は生暖かい目ではぐはぐと食べるリアナを優しく見守った。
ほのぼのとした雰囲気をやぶる声が割って入った。
「アデリーヌ! 楽しみにしていた初授業はどうだったかい? そこにいるお友達をお兄様にも紹介してくれないか?」
甘さを含んだ声で男はうながした。
アデリーヌの兄は肩まである美しい黄金色の髪の毛を緩く紐で束ねていた。リアナはもともと男の長髪が大嫌いで、長髪というだけでどんなに顔がよくても二割マイナスだと思っている。スーツは二割増しだが。そんな考えを持つリアナだったが、アデリーヌの兄を見たとたん白旗を揚げた。
似合いすぎていた。肩まである長い髪も彼の美貌を際立たせる要素でしかなかった。騎士らしくぎっちりとついた筋肉は服の上からでもうかがえる。身長も高く130センチしかないリアナにとっては見上げるほどだった。アデリーヌには優しい目を向けていたが、リアナとユイリーには観察するような目を向けていた。
「お兄様! わたくし初めての授業で毒のアイテムを作るのに成功しましたの。それと友達も出来ましてよ。リアナとユイリーですわ」
アデリーヌは弾んだ声でリアナとユイリーを紹介した。
「それは、よかったね。リアナ嬢はずいぶん幼く見えるのだが年はいくつなんだい?」
「十歳になりました」
リアナは声を緊張に滲まし答える・
「その年で試験を合格できるなんてとても優秀なんだね。アデリーヌとも仲良くしてやってね」
リアナはこくこくと頷いた。
「そしてユイリー君だったね。君もくれぐれも節度を持ってアデリーヌと友達になって欲しい」
「はい! 節度を持って友達として仲良くさせていただきます」
ユイリーは顔を青ざめさせ声を張り上げた。
アデリーヌの兄もユイリーも『節度』と『友達』の単語を妙に強調していた。
「アマデオは相変わらず、シスコンだなあ。初っぱなからそんなに脅すとおまえの可愛い妹に友達が出来なくなるぞ」
そう言ったのは燃えるような赤い髪をもつ男だった。身長はアデリーヌの兄であるアマデオよりもわずかに高く、ニッとリアナに向けた笑顔はやんちゃな印象を与える。
「黙れ、オイゲン。アデリーヌの事に口を出すな!」
丁寧な言葉を使っていたアマデオの乱暴な口調にオイゲンとの仲の良さが表れていた。しばらく言いをした後にアマデオは爆弾を一つ落としていった。
「アデリーヌ、素材採取の護衛が見つかるまではお兄様に頼りなさい。もちろん、リアナ嬢とユイリー君も歓迎するよ」
「ありがとうごさいます、お兄様」
リアナとユイリーはアマデオ達が去った後、大きく息を吐いた。
「緊張したよお、アデリーヌのお兄さん迫力ありすぎだよ」
「僕なんか盛大に目をつけられて釘を刺されたし。なによりあの目が笑ってなかった」
アデリーヌは訳がわからないといった風でリアナとユイリーの言葉に戸惑っていた。
「お兄様は、とっても優しくてよ」
「うん、それには同意する(アデリーヌにだけ)」
「僕もそう思うよ(アデリーヌさんにだけ)」
あの目はまるで、リアナとユイリーがアデリーヌに有害かどうか見極めているみたいだった。アマデオが二人を有害だと判定を下したらアデリーヌとは離される予感がリアナはした。
素材採取の申し出はアデリーヌを心配する気持ちはあるだろうが、本当の目的はリアナとユイリーの性格を探るためだろう。
アデリーヌは呑気に喜んでいたが、リアナとユイリーは胃が痛む気がした。




