村の様子と試験官
「アルヴァ、元気だしなよ。僕たちもリオナがいなくて寂しいけど、もうちょっとしたら、リオナも帰ってくるよ」
座り込んでぼけっと子供達が遊んでるのを眺めているアルヴァに、ジーンが話しかける。
「別に俺は元気だし、寂しくなんかない......でもリオナがいないと変な感じがする。遊んでてもおもしろくないっていうか」
最初は否定の言葉を発したアルヴァだったが、その後に小さな声で付け加えられた内容が、本心を晒していた。
ジーンにはアルヴァの気持ちがよくわかった。「かくれんぼ」、「鬼ごっこ」、「だるまさんが転んだ」など多くの新しい遊びをリオナが教えてくれた。リオナが話す物語は大人気で、大人達でさえ続きを楽しみにしていた。そんな不思議で賢く優しいリオナは、子供達の憧れのリーダー的存在だった。ジーンもリオナがいない日々に物足りなさ感じていた。
「ねえ、アルヴァ。リアナは試験に受かっていると思う?」
「当たり前だろう!リアナって大人が知らないことだって色々知っているし、すっごく頭いいんだぜ」
アルヴァの瞳からはリアナへの絶対的な信頼が伺える。
「そうだよね。そうするとリアナは王都に住むんだよね。寂しいなあ」
「えっ、.........王都に住むって? リアナが?」
「それはそうだよ。学校は王都にあるんだから、王都から遠いこの村から通えるわけないよ」
「............」
アルヴァは呆然とした状態でピクリとも動かなかくなった。
白いローブを着た無表情の男は錬金術試験の受験者達から集めた解答用紙の採点を終え、学校にある彼に与えられた研究室で一息ついていた。
「セシル君、ちょっと今いいかね」部屋の外から声が聞こえてくる。
「ええ、いいですよ。どうぞお入りください」
「お邪魔するよ、君に是非とも話したいことがあってね」
きっちりと手入れされた自慢の白い髭をなびかせながら、老人が入ってくる。
セシルはソファーへ座ることを勧め、話しやすいように向かいに腰をおろした。
「すごい子がいたんだよ! なんと属性を六つも持っているんだ。あの第一皇子でさえ四つだというのに」
「本当ですか? そんな子が埋もれていたなんて・・・・・・。これは騒がしくなりますね」
セシルはわずかに目を見開き驚いた。無表情が標準装備である彼が、わずかとはいえ表情筋を動かしたことからして、大きな衝撃を受けたことが推測される。
「それで、ちょっと相談があるんだけど。その子は筆記試験が出来なかったようで--その......こんなに才能があるんだ! きっと彼女は超一流の錬金術師になるはずだ! だから、筆記試験も合格にしてくれないか?」
「学校長! 何をいっているんですか? いくら才能があるからって、そんな不正は許すことが出来ません。魔力検査を重視しているとはいえ、錬金術師はエリートです。受験者は皆、必死に努力し勉強しています。そんなことを許せば学校の誇りと品位を汚すことになります。落とすには惜しい才能ですが、錬金術師を目指すなら勉強してまた来年受ければいいことです」
学校長の頼みをセシルはきっぱりと断る。錬金術師の生み出すアイテムは強力だ。人気の職業であり、合格者も厳しく選別される。王族や貴族だって身分を笠に着ることは出来ない。だからこそ、特別扱いを許すわけにはいけなかった。
「でも、彼女は、リアナちゃんは来年の試験は受けないかもしれない。来年だけじゃなく永遠に。彼女はたぶん平民の中でもすごく貧しい家で育ったと思う。身につけているものが他の受験者とは全く違っていた。試験費用が高いのは知っているだろう? 誰でも受けられるといっても、受けに来る受験者は貴族や、平民の中でも裕福な者ばかりだ。君の信念はわかっているが、あれほどの才能をみすみす逃すのは惜しいと思わないか?」
「確かにそれは......ん? リアナ? もしかして.......」
セシルは突然立ち上がり、がさがさと採点の終わった解答用紙をあさり、その中の一枚を引っ張り出す。「見てください、これを」そういって学校長に手渡した。
「これは! こんなことがありえるのか?」驚愕の表情を浮かべる。
「そうです。満点なんです。二枚目の試験は残念ながら、合格にはほど遠い点数でしたが。私も彼女なら認めましょう」
一枚目の試験問題で満点を取った者は創立以来誰もいない。それほど難関なのである。
「まさか......信じられない。あの子の年はたったの十歳だ」
「............」
二人は無言で見つめあった。




