お茶会に向けて作戦会議
「それにしても、アレクシス殿下の言ったとおりになったな」
「ああ、全く手が早いことだ」
オイゲンとアマデオが厳しい顔をして話し合っている。
そんな中で、リアナは目の前に置かれている甘菓子に遠慮することなく手を伸ばし、頬袋をパンパンに膨らませたリスのようにして貪っていた。
アデリーヌはそんなリアナの様子に微笑ましいといった笑みを浮かべていた。
ユイリーは居心地が悪そうな顔をして、どこか落ち着かないようだった。
そして、リアナと競うかのように甘菓子に手を伸ばしているのが、リトニアであった。
彼女は顔色一つ変えることはなかったが、甘菓子を口に運ぶスピードから好物であることは明白であった。
アマデオとオイゲンの話を真剣に聞かないといけなかったが、甘菓子の魅力には逆らえなかった。
甘いものなど村では年に一回、新年の日しか食べることは出来なかった。
砂糖は値段が高く、一人が食べてもいい量は当然のことながら決まっていて、今のように好きに食べることなんか不可能であった。
最初はリアナだって一応遠慮というものをしていたが、リトニアによってすごい勢いで減っていく甘菓子、そしてアデリーヌの「遠慮しているとリトニアに全部食べられちゃうわよ」という言葉で火が付いた。
バターの香りと砂糖の甘さ、卵が入っているのか、ふわっふわであった。
あまりの美味しさに舌が蕩けそうであった。
村で食べたことのある甘味とは大違いで、さすが大貴族であるアマデオが用意したものである。
そう、リアナ達はアマデオの部屋にいた。
アデリーヌに皇女であるエルザからお茶会の誘いがきたことが、六人がアマデオの部屋で顔を合わせて対策を練ることになった原因である。
おまけにその手紙にはリアナの名前まで入っていたのだから大騒ぎとなった。
アレクシスの言っていたとおり、接触を図ってきた。
エルザがアデリーヌを茶会に招待すること自体は珍しくもなんともない。
だが、面識もない平民であるリアナまで一緒に招かれるということはどう考えても不自然だ。
アデリーヌの友人だとはいえ、それだけで参加できるほど皇女が開く茶会は気安くはない。
アレクシスの話ではベアトリーゼの本性は彼女の手駒の中でもごく限られた者しか知らないらしい。
当然娘であるエルザも知らない。
リアナがお茶会に誘われているのも、ベアトリーゼがエルザに入れ知恵をしたのだろうとアマデオは睨んでいた。
頬をパンパンにして、呑気に甘菓子を食べている姿は小動物染みていて緊迫した状況を和ませた。
しかし、和んでばかりもいられない。
アマデオはこれから渦中に巻き込まれるだろう、二人に向けて口を開いた。
「アドレーヌにリアナ嬢、おそらく二人が招かれている茶会には王妃であるベアトリーゼ様もいらっしゃるはずだ。そして、いろいろと探ってくるだろう」
アデリーヌは不安そうな目でアマデオの話す言葉を聞いていた。
リアナは恐る恐る口を開いて提案した。
「あの~、ちなみに欠席することは......?」
「それは止めといた方がいい。余計な疑念を与えることになる。そもそも王族からの誘いにはよっぽどの事がない限り、断ることは出来ない」
リアナはガックリと肩を落とす。
「ただ、エルザ様は事情を何も知らないので、彼女の前ではベアトリーゼ様も執拗には聞いてこないだろう。我々はアレクシス殿下とは会わなかったということになっているが、同じ日に同じ行先で本当に会わなかったのか、と疑いを持っているだろう。はっきりとした証拠はないのが救いだが。リアナ嬢が心配だ。ベアトリーゼ様はおそらく際どい質問をして、こちらの反応を窺ってくるだろう。アデリーヌは貴族として顔色を読ませない訓練はしているので相手にそうそう悟られる真似はしないだろうが」
そう言ってリアナの方をチラリと見た。
うっ、と詰まった。リアナには表情を隠す自信が全くなかった。
というのも、肉体年齢に引きずられているのか、喜怒哀楽の感情の揺れ幅が激しく、子供っぽくなっている自分に気づいていた。
無理難題に頭を抱えたくなった。
「なるべく、悟られないように気をつけます」
リアナに言える精一杯の言葉だった。
「まあ、仕方ないよな」
オイゲンは気にするなというようにリアナの髪をガシガシと撫でた。
「あの~、これはこの前の採取で護衛をしてくれたお礼です。それとこれからに備えて」
リアナは収納袋からごそごそとアイテムを取出し、大きな机の上へと並べた。
「おいおいおい、どれだけ出てくるんだ」
次々と収納袋から出てくるアイテムにオイゲンは目を丸くしていた。
アイテムで机が埋め尽くされ、もう置き場所がないのを見て、リアナは収納袋に手を入れるのを一先ず止めた。
そして、唖然としている周囲を尻目にアイテムの紹介をし始める。
「ええと、まずはこの収納袋を。一応、八百アイテム程度入るのでお役に立てると思います。あと、時属性が付いているので入れてから半年程は時間経過しないので、生ものも腐りません」
そう言って一人、一人に手渡していく。
収納袋は何個あっても邪魔になることはないとリアナは思っている。
ユイリーやアデリーヌにもプレゼントで渡したが、その時はまだ時属性をうまく付けることが出来ず、三日程度しか時間停止出来ない代物であった。
その程度では、使い勝手が悪すぎると思ったので、あえて普通の収納袋を渡した。
「まてまてまて、今さらっと恐ろしいこと言わなかったか? 八百個入るという言葉にも驚いたが、収納袋に時属性が付いているとかなんとか。」
オイゲンが真っ先に突っ込んだ。
その声で、あまりの事実に思考が一時停止していた者達も動きだす。
「流石はリアナ、すごいですわ」といって、アデリーヌはリアナが手渡した収納袋をぎゅっと抱きしめて無邪気に喜んだ。
「ははは、リアナだもんね」
そう言ったユイリーは遠くを見つめるような目をしていた。
アマデオは手渡された収納袋を信じられないといった目でまじまじと見ていた。
リトニアの収納袋を見ている目にはいつもと違う熱がこもっていた。
「はい、でもまだ半年しか時間を止めることが出来ないんですけど」
「いやいやいや、それだけで十分すごいって。国宝となっている無限にものを入れることが出来る収納袋だって時属性なんか付いていない。恐らく、時属性が付いた収納袋を持っている者など俺たちだけだろうよ。誰もが咽喉から手が出るほど欲しがるだろう。まさかこんな便利な代物ができるとはな。今まで、空間属性と時属性両方を持った者がいなかったから、わからなかったぜ。これこそ、国宝級に値する」
時属性が付いている収納袋を作れることが、どれほどすごいことか理解出来ていないリアナの様子に呆れながら、その重要性を説く。
リアナとしてはゲームに出てくるアイテムボックスと比べて、たった半年しか時間経過を止められないことに不満であった。
無制限にアイテムを入れることが出来、完全に時間経過を止めることが出来る収納袋を早く作りたいと思っていた。
そして作ることが出来れば、当然友達であるアドレーヌ達にも渡すつもりであった。
リアナは続けてアイテムの説明をしていく。
「もしかしたら、わたし達にも王妃が攻撃や毒を仕掛けてくるといけないので、ポーション、ポイズンポーション、ホーリーポーションです。あと襲撃者に対抗するために、レッドウォーター、ブルーウォーター、それと眠り薬、痺れ薬、目くらまし薬、目潰し薬、フレアボムを用意しました」
ポイズンポーションは光属性だけで作ることが出来、ほとんどの毒を解毒出来る。しかし、毒の中には光属性と水属性の両方がないと作ることが出来ないホーリーポーションでしか解毒することが出来ない、ウズグギルグモのような特別なものもある。
だから、リアナはもしもの場合に備えて両方用意した。
レッドウォーターは攻撃力を上げ、ブルーウォーターは守備力を上げる。
本当はスピードを上げるイエローウォーターも作りたかったが、あいにくリアナは雷属性を持っていなかった。
リアナ達のようにアイテムに頼り、直接戦うことが得意でない錬金術科の生徒にはそんなに助けにならないかもしれないが、騎士科に属する者は違う。
きっと大きな助けとなるだろう。
そして、状態異常を引き起こす薬は使い方によっては絶大な力となる。
フレアボムは小規模の爆発を引き起こすので、大人数に襲われた時に使うのにもってこいだ。
今回の採取で大量に素材が手に入ったので、それぞれのアイテムを一人に三個ずつ行き渡るように作ることが出来た。
そのため、いっぱい作って売ってお金ガポガポ作戦は中止となったが、皆の安全には変えられない。
リアナは王妃に仕掛けられた時の為に、迎え打つ気がマンマンであった。
「嬢ちゃん、よくこれだけの数を僅かな日数で作れたな。護衛の礼なんか気にすることはねえが、正直助かるぜ。錬金術師のアイテムは買うと高いからな」
オイゲンは呆れた顔をしながらも言葉尻から喜んでいることがわかった。
「わたくしにもまだ作れないアイテムをもう作れるなんて、リアナはすごいですわ!」
アデリーヌがキラキラと輝くような目で見つめてくる。
「こんなに貰っていいのかなぁ。はあ、僕も早くもっとアイテム作れるようにならないと」
ユイリーは遠慮しながら受け取り、礼を言った。
リトニアはリアナの近くにツツツと寄って来て、頭を撫でた。
彼女の感謝の表し方らしい。
「リアナ嬢、君の能力は誰もが欲しがるほど貴重だ。まだ入学したばかりだというのに、もうこれだけのアイテムを作ることが出来る。それにその属性の多さだ。君の優秀さはすぐに知れ渡るだろう。僕たちも君を守るが、多くの貴族に目をつけられ、王族さえ口を挟んで来るかもしれない。それを自覚してほしい。」
アマデオはリアナに心配の目を向けた。
「ええと、やっぱり隠した方がいいですか?」
「いや、君ほどの能力は隠し通せるものではない。中途半端に隠すよりは、実力を思う存分発揮してとことん優秀で手が出せないようにもっていった方がいい。それだけの力があるんだ。ちょっかいを加えて失うようなことは大損失だとわからせ、手を出した者に責任がいく状況にうまく持っていく」
リアナの言葉にアマデオは頭を振り、自分の考えを述べた。
リアナとしても自分から言いふらす気はないが、生まれ育った村を発展させる為に力を尽くしたいと思っていたので、隠さない方がいいと言うアマデオの意見には安堵した。
六属性持ちというアドバンテージを生かして、色んなアイテムを作ってやる! と気合を入れた。
皇女とのお茶会までは二週間、リアナ達六人はそれからもアマデオの部屋に集まり、話し合った。
そして、いよいよお茶会の日がやって来た。




