勇者とメイドさん その92
手持ち花火は綺麗だからすき。
「夏といえば花火です」
「すごい嬉しそうじゃん」
「花火ですよ♪」
「いやわかったから」
なぜご主人様は心躍らないのでしょう、花火だというのに。バケツに水を溜めて、呆れ顔のご主人様の手を引いて庭に駆り出します。
「花火を探していたのですよ」
「いや、何言ってるの?」
「探していたのです♪」
「今火ついてるの持ってるじゃん」
ご主人様は疑問符を浮かべています。手持ちの花火を探していたのですけど。
「メイドさん浮かれすぎじゃない?」
「いやぁ、そのようなことはないですよ? ただ少し、子供の時みたいでいいなあ。って思えるのです♪」
「子供の時ねぇ」
「今も楽しいですが、思い返してみれば、あの頃もまた違った良さがあったので」
そんなことより、キラキラと手元から火を噴く花火が好きなのです。このために生きていたいですね。夏といえばこれですよ。セミなんてクソ喰らえです。ヒグラシは別ですが。
一一一一
「そうしてですね、放課後に告白をするのです。『あなたがずっと好きでした』って♪」
「一体何を聞かされてるの?」
「何って、甘々の少女漫画的妄想ですよ? っと、花火が切れてしまいましたね。ひと袋終えたので、今日はここまでにしましょう」
「……さっきまでのノリノリなメイドさんは何だったの?」
「言うほど変わっていましたか?」
「うん」
自分では普通と思っていても、傍から見たら普通ではない。そんなことってありますよね。
残り四袋。