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その15

「あのお、そもそも、昇生おじさまがいらしたことで、私は何か楽をしたのでしょうか?」

 メイが尋ねると、朱雀は羽をばたつかせる。

「昇生は華音が預かっていた“カケラ”を持参しておる」

「え? おばあちゃまが預かっていた…?」


「左様。紗由は幼き頃、集めたカケラを分けて保管した。お菓子を補完する時と同じ要領じゃ。一か所だと龍に見つかった時、全部食べられてしまう危険を伴う」

 朱雀の言葉に不満そうな龍。

「お菓子を食べられていたのは私のほうですが」


「これが、そのカケラだよ」

 昇生は、着物の袂から巾着を取り出し、メイに渡した。

 その手触りにメイは言う。

「…さざれ石というか…小さな石みたいですね」

「龍神の卵のカケラということかな…?」

「ドラゴちゃん、その3ではないのね」考え込むメイ。


「これでおまえたちが訪れる場所はあとひとつだ。楽できたであろう」

「確かに楽できましたが、私が望んだことではありません。おじいちゃまが勝手にしたことなので、苦労させるなら、私ではなく、おじいちゃまのほうでお願いします」丁寧に朱雀に頭を下げるメイ。

「悠斗くん、報われないなあ…」しみじみ言う龍。


「メイさん。せっかくして下さったことなのに、そんな言い方はいけないよ」

 ミコトが言うと、メイはミコトににじり寄り、きっぱりと言った。

「ミコトさん…これ、フェイクよ」

「フェイク?」

「カケラはカケラだけど、私たちが求めているものとは違う気がするの」


「メイの中では、その二つはどう違うんだい?」龍が聞く。

「このさざれ石にも依り代がないと、カケラとして完全体にならないというか…」

「やっぱりドラゴちゃんが5つ必要ってこと?」

「5つかどうかはわからないわ」

「どうして?」


「西園寺涼一研究所で最初のドラゴちゃんが見つかった。ここ、西園寺聖人邸で次のドラゴちゃんも。でも、龍おじさまの家では見つけてないわ」

「ていうか、祭が卵を産みました事件に気を取られていて、いつのまにか、ここに来て…」

「探してないのよね、正確に言うなら」


「ならば戻るか、小娘。時間もあまりないがのう」

「どこでもドアなら一瞬で戻れますから」ニッコリ笑うメイ。

「でも、メイさん。一か所に一つずつあるとは限らないよね」

「じゃあ、何で龍おじさまの家に行く必要があったのかしら」

「どこでもドアを使わせてもらってショートカットするためと、二人で探す流れにするためじゃないかな」


「うーん。言うことには筋が通ってると思うけど…」考え込むメイ。「それだと、ドラゴちゃんがいくつあるのが正解かをわからずに探しに行くってこと?」

「全部そろったらわかるんじゃないのかな…」

「ふむ。それもそうね。じゃあ、ドラゴンブルへ行きましょうか」

「そうだね」

「“イク!”」

ドラゴちゃんが叫び、ドラゴちゃんその2も尻尾をぶんぶん振っている。


「この子たちも連れて行くってことだね」

「我もだ」

「朱雀さまも?」

 露骨にイヤそうな顔をするメイに、朱雀が羽をばたつかせる

「じゃあ、皆で一緒にってことで」

 ミコトは朱雀の羽を抑えながら微笑んだ。


  *  *  *


 ドラゴンブルへ向かう車の中、メイはぬいぐるみの朱雀に尋ねた。

「朱雀さまは、いつもそのお姿で昇生おじさまとお話なさっているんですか?」

「元の姿では言葉が通じぬからのう」

「なぜ、おじさまを開いてあげないんですか?」

「華織がわざわざ封じたものに手を出すつもりはない。それは他の獣神も同じことだ」


「おじさま本人が課題をクリアすれば勝手に開くんですか? 私がそうなるであろうと同じく」

「あやつは、その手の力を望んでおらぬ。多少の不便はあるが、別に不幸なわけでもないからな」

「じゃあ、私も力を望まない、開かれなくてもいいと言ったら、そのままにしておいていただけるんですか?」


「…! 今さら何を言いだすのだ!」

「前にミコトさんが指摘してましたよね。もし紗由さんが真大祭をやめたかったのなら、翔太さんもそれに同意していたのなら…って。

 その場合、少なくともお祭りのために、開くとか開かないとか考える必要はないわけですよね」

「まあ、真大祭を口実に、俺たち二人に何かをさせようとしているのかもね」


「私たちがそれに乗ることで…」メイが朱雀を見つめる。「朱雀さまには、どのようなメリットがおありですか?」

「…人間の欲を測る言葉を我に当てはめるな」

「私たちが降りてしまったら、誰が困ることになるのかしら」

「“コマラナイ!”」

「…そうなんだ」ミコトがドラゴちゃんを見つめる。


「みんな、“命”をやめちゃったわけだから、これ以上いじめられることもないし、伊勢がどうとか関係ないし…」

「昇生はまだ西園寺の“命”だが」

「そうなんだ…」ミコトが朱雀を見つめる。

「でも、龍おじさまや、聖人おじさまを介して、神様の言葉を受け取っていたのですよね。この先、どうするんですか?」

「……」


「まさか…!」

 メイは朱雀ににじり寄った。


  *  *  *


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