その12
「おばあちゃま!」
驚き声を上げるメイに、華音は、その肩にそっと触れ、通り過ぎた。
「龍にいさま、そろそろ種明かしの時間なのではないかしら」
「いや、紗由がつまらながるだろ」微笑む龍。
「相変わらずね。そういうところが誰より西園寺らしいけど」
「とりあえず…華織さんのご宣託の意味をご存じな人が最低二人ということですね」
ミコトが微笑むとメイが言う。
「龍おじさまと、おばあちゃまだけっていうのは不自然だし…要するに、その世代の人は全部ご存じということかしら」
「そういうことになるのかなあ」
「じゃあ、相手の弱みを片手に尋問するっていうのはどうかしら。お祭りまで日にちもないし…」
淡々と述べるメイに、華音が眉間にしわを寄せる。
「メイ。あなたをそんなふうに…」
言いかける華音を強い口調で遮るメイ。
「育ててもらった覚えはありません。西園寺の都合でママや歩と一緒にアメリカに追いやられ、西園寺の都合で呼び戻されました。しかも無理難題を強いられています」
「メイさん…」ミコトが困り顔になる。
「それを言ったら、メイ、俺らの世代は全員同じ境遇だよ」鈴露がきっぱりと言う。「俺もミコトも祭も」
「おばあちゃんに弱いのね、鈴露は」
苦々し気に言うメイに、祭が大笑いする。
「マザコンならぬ…ってやつね」
「祭ちゃん、考え直したほうがいいんじゃない? 紗由さんや、うちのおばあちゃまと、いちいち比べられたら超うざいわよ」
「おい! メイ、勝手なこと言うなよ」少し声が小さくなっていく鈴露。
「大丈夫だ、祭。いつでも帰ってきていいから」微笑むミコト。
「その辺で勘弁してやってくれないかい、ミコトくん」
「悠斗さん!」
後ろから現れたのは悠斗だった。
ミコトの脳内に一瞬流れたのは、幼い悠斗が叫んだ「しげじい!」という、西川重治を呼ぶ声だった。
「あ…」
「ミコトさんも…聞こえたの…?」
メイがミコトを見つめると、ミコトは不思議そうにメイを見つめた。
「同じ声が聞こえたのかな…? 祭は?」
「ん? 何?」
「俺も別に聞こえてないけど…」鈴露が答える。
“そうか…何かの条件で、メイさんと俺は共鳴するってことなんだ…”
“そうみたいね…”
“メイさん!”
二人の表情と反応を見つめる一同。
華音が震える声で小さくつぶやいた。
「まるで紗由ねえさまたちみたいね…」
「ああ…」華音の肩を抱く悠斗。
「あの…悠斗さん。あなたの声が聞こえたことの意味を教えていただけませんか?」
「私にはわからないよ」
「でも、おじいちゃま。それなら、なぜ聞こえたの?」
「それを見つけるのがおまえの仕事なんじゃないかな」
「んもう!」メイが悠斗の胸を叩く。「結局中途半端。無責任よ!」
「ああ。私はおまえの将来に責任を持てないからね」
「おじいちゃま…」
「メイさん! 俺たちで探そう。まだ行く場所もあるわけだし」
「う、うん…」
「ただ、皆さん、その前にひとつだけ教えて下さい」
真剣な表情のミコトに、視線を集める龍、大斗、華音、悠斗。
「これからメイさんと僕が行く先、グランフェスタ・ドラゴンブル、西園寺聖人邸、高橋悠斗邸で、僕たちは何を探せばいいんですか?」
「これまた、直球だね」笑う龍。
「“カケラ!”」
「ドラゴちゃん!…」メイが足元にいたドラゴちゃんを抱きかかえた。
「メイさん。大丈夫だよ。俺たちにはドラゴちゃんがついてるんだ」
ミコトが笑うとドラゴちゃんが叫んだ。
「“ダイジョブ!”」
「ほらね」
「…うん」クスクス笑うメイ。
「メイさん。私と鈴露さまは東京へは行くのやめるわ」祭が言う。
「あ…そうよね。お腹の赤ちゃんのこともあるし」
「そうじゃなくて、二人で解くことなんだと思ったの、今」
「うん。わかったよ、祭」
「でも…鈴露だけでも手伝ってもらえれば。日程的に、今から東京に行って3か所回って、清流に真大祭前に戻って、さらにお祭りの準備をするって、かなりきついんじゃ…」
「…ちょっとだけショートカットさせてあげるよ」龍が言う。「ここには、どこでもドアがあるからね」
「どこでもドア?」一緒に首を傾げるミコトとメイ。
「ああ、そうだったわね、龍にいさま。ここには、まーくんちにつながる道があったんだったわ」笑う華音。
「でも、誰にでも通れるわけではなかったのでは…?」悠斗が問う。
「もちろん、試験は受けてもらうよ。真大祭とも絡む、大切な試験だ」
楽しそうに微笑む龍を、メイはきつい表情で見つめた。
「わかりました。お受けします。その代わり…合格したら、どこでもドアだけじゃなく、魔法のランプをいただきたいのですが」
龍は、メイの眼差しに、天を仰いだ。
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