その11
ミコトは龍に尋ねた。
「華織さんも、ばあちゃんも、いったい何がしたかったんでしょう」
「ずいぶん唐突だな」
「俺の答えを言うと…全部、西園寺家のために動いているように思えるんです」
「それはまあ、おばあさまも紗由も家族思いだったからね」
「そうですね。華織さんが、マッチポンプを仕込んだのも、結局西園寺の幸せのため」
ミコトに抵抗するように鈴露が言う。
「まるで他のことを考えず、利己的に行動したみたいに聞こえるな」
「そういう意味じゃないよ」笑うミコト。「ばあちゃんは、どれもこれも、っていうのが好きだったから」
「そうね」祭が微笑む。「真里菜おばさんが言ってたわ。紗由ちゃんは子どもの頃、クッキーとチョコレートとおまんじゅうをいいとこ取りした、おいしいお菓子を作らせてたって」
「そう、それだよ。欲しいものを人に実現させるのが上手なんだ」
「でもさ」鈴露はまた反論する。「紗由ばあちゃんは人にやらせず、自分で卵を産んだじゃないか。自分のお腹の子供に影響があるかもしれないのに、一条家のために龍の卵を産んでくれた。それって、一概に西園寺のためとは言えないんじゃないのか?」
「回りまわって西園寺のため…っていうか、祭のためだったんだと思う。一条を救うことで、祭を幸せにできると、ばあちゃんはわかっていたんじゃないのかな」
「そうよね」メイが同意する。「鈴露の状態が良くなるなら、祭ちゃんをお嫁に出す時に安心だもの」
「西園寺は“写”の一門ってやつなんだし。ばあちゃんのことだから、自分に何ができるか、いろいろ実験的に写していただろうし」
「そういう描写は小説にもあったわ」
「祭が幸せになるためには、一条のもろもろを解決したい。もちろん自分の子供も大切。だったら“写”の力を使って、出来る限りのことをしたはずだ」
「…例えばどんなことをだい?」
龍が聞くと、ミコトはニヤリと笑った。
“この笑い方、まるで翔太だな…”心の中で笑う龍。
「全部の能力者の力を自分に写して集めたのでは」
「体は大丈夫なの? 紗由さんも駆おじさまも…」
「一度に入れたら、凛おじさんみたいなことになるかもしれない。別の形で保管して、卵を産むときにそれを自分に戻しながら、黄龍さまに差し上げる」
「だったら、卵を産まなくても、力を集めて直接黄龍さまへ献ずればいいじゃないか」
不服そうな鈴露にミコトが笑い出す。
「おまえ、本当にばあちゃんのこと大好きだよなあ」
「…何だよ」
「一条家のためにしたことなら申し訳ない。祭のためにしたことなら、何だよ結局そこかよって思ってちょっと悔しい」
「別にそんな…」
「ミコトさん。何だか冴えてる感じ!」両拳を握って満面の笑みのメイ。
「そうなんだよね…」ふと考え込むミコト。「ばあちゃんのこと、考えれば考えるほど、いろいろ内側から湧いてくるっていうか」
「翔太じいちゃんについては、どうなの?」
「ばあちゃんの後…な気がしてる」
「ふうん。そういう冴え方って、開いてるってことじゃないのかしら…」
「“開く”って、どういうことなんだろうな…」ミコトがメイを見る。
「そうねえ…」メイがふっと上を見る。「意外と単純なことなのかも」
「例えば?」
「周囲の人たちの気持ちがよくわかって、皆を幸せにして…とか。“命”の能力とは関係ないかもしれないけどね」
「うん。そんな気がする。でも…」くっくと笑い出すミコト。「それだと、今までの流れって何なんだよって話になるよね。せっかくメイさんにアメリカから来てもらったのに」
「そうよねえ。すんごく失礼な話なんですけど」笑うメイ。
「もしかして…」ハッとしたように顔を上げる鈴露。「俺がメイを呼び寄せるまでの流れも計算の内?」
「いや。そうは思いたくない」ミコトが鈴露を見つめる。「何から何までレールに乗せられてるとは思いたくないだろ。しかも、おまえのような能力者が」
「そんなの、どうでもいいんじゃないの?」メイが言う。「だって、私たちは亡くなった能力者たちのしたことで守られているわけで。あとは、この先、やらなくちゃいけないことを淡々とするだけでしょ」
「やらなくちゃいけないことって、メイは何だと思ってるわけ?」
鈴露の問いにメイは、きっぱりと答えた。
「ミコトさんを開くこと」
「ミコトは、おまえを開くのが目的だって言ったよな、さっき」
「でも、ミコトさんは開かなくちゃ」メイは微笑んだ。「私の中の…華織さんが、そう言っている…気がする」
「そうね。上出来な答えだわ」
一同が振り向いた声の先には、華音の姿があった。
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