〜木の下の出来事[初めて話せた]〜
「仕方ないと思える?」
「正直、思えたら楽よ。」
「同感。」
二人はいつになく暗い。呪いの解けない可能性を突きつけられたのだから。
「シの神さん、俺はいつ死にますか?」
すこし震えた声で、狼は聞く。
無理もない。死とは狼の最も恐れてきた事なのだから。それが今、目の前にある。これがどんなに怖いかは、赤ずきんもシの神もわかれない。
「もうすぐ」
「そうですか。じゃあ、残りの時間は幸せに暮らします。」
「それじゃあ、また会う日まで。good luck」
「ありがとうございました。さよなら。」
「さようなら」
シの神が天空の館へ急上昇中して、飛行するのを見送ると、狼は赤ずきんの手を引いて巣へ急いだ。
赤ずきんの家から随分離れた巣穴には、瓶が入っていた。食べかけだが、まだ半分以上残っている。
赤ずきんのあげた木苺のジャムだ。
「まだ食べててくれてるの?嬉しい」
「うん。さすがだね、すごく美味しくって一口で我慢するのが大変だよ。」
「おばあちゃんの味なのよ。」
「おばあちゃん…か。おばあちゃんは好き?」
一瞬、おばあちゃんのあの寂しそうな顔と狼の顔が重なった。
「ええ。森の動物達もみんな。でも狼さんとおばあちゃんだけは特別だわ。」
元気付けようと、手を握ってみる。
「わぁそう言われると、ちょっと照れるなぁ。」
狼が握り返す。
夕暮れ前のかすかな木漏れ日が、二人を幸せに照らす。
******
一晩中語り合って、もう朝日が昇る。
今までのこんな事やあんな事。
家族や自分の夢、お互いの好きな所。
全てが盛り上がった。
でも朝方の冷たい風が、切なく通っていく。
「もうすぐっていつだろうね。」
狼はずっと考えていたことを口にする。
赤ずきんはどっと焦燥感に襲われる。
できればいわないで欲しかったと後悔するが、もう遅い。
「わからないけど、今までのかくれんぼの時間よりも、この短い時間の方が楽しい。…私は好きだな。」
「僕はもう少しだけ前かな。それまで君を見ていたけど、初めてジャムをもらった時が一番。生まれて初めて心の暖かさを感じた。でも…。」
群れの、一族の様子が脳裏に浮かぶ。
おばあちゃんを素直に好きと言える赤ずきんが、どこか羨ましく思えた。
「ああ、死に方か。もうすぐお別れだね。」
悲しさを押し込めて、笑ってみる。
「泣いてもいい?」
「いいよ。」
肩を貸すと、赤ずきんの涙に狼の涙が混ざる。
「…」
赤ずきんに見透かされていたようで、少し恥ずかしい。
しばらくすると、泣き疲れた赤ずきんの吐息が聞こえてくる。
狼は眠った赤ずきんの頬を、ジャムの瓶より優しく触れ優しく微笑む。
この時間が永遠に続けばいいのに。
無理だと知っている。
でも来世でまた会いたいと、今世で考えてしまっている自分がいる。
僕は本当に馬鹿だ。
そう思いながら、赤ずきんと同じように、ゆっくりと眠りにつく。




