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ユリウス王子の清廉な眼差しが、信じられないものを見るように、わたくしを見つめた。
その蔑むような視線に、わたくしは一瞬、目をふせる。
「違うんです!」
とっさに、声が出た。
「わたくしは、シャナル王子と結婚だなんて。そんなこと、考えていません!」
王家のものに私心をもって近づく、不埒な人間だと思われただろうか。
未来の王となるであろうユリウス王子に、わたくしは忠義のハッセン公爵家の人間としてふさわしくないと……思われただろうか。
そんなのは、いや!
身体が、震える。
例え、わたくしのこの身に宿る魔力の量は大きくなく、ハッセン公爵家の一員であり続けることはできないとしても。
いえ、だからこそ。
この心は、ハッセン家の人間にふさわしく、高潔なものでありたい。
さすが、ハッセン公爵家に生まれた娘だと、少しでも認められたい。
特に、われわれの王たる人々には、そう思っていただきたいのだ。
……けれど、それだって、わたくしのさもしい願望にすぎない。
わたくしが真実、高潔な人間であれば、こんなふうに慌てて弁解するなんて見苦しい真似もしないのかもしれない。
王子は、それを見透かしていらしたのだろう。
わたくしの言葉を聞いて、ますます視線を厳しくして、わたくしをご覧になられた。
「それは、どういう意味だ?リーリア ハッセン。君は、シャナルを弄んだだけだというのか?」
語気も荒く、ユリウス王子がおっしゃる。
わたくしは、まちがえたのだ、と悟った。
けれど、ユリウス王子のお言葉は、わたくしには想定外だったのだ。
だって、もてあそぶ?
わたくしが?
シャナル王子を?
そんなの、ありえない!
いいえ。確かに、わたくしだって、自分の行動がそのようにとられても仕方がないことだとは思っていた。
けれども、他人に指摘されると、「ありえない」と思ってしまう。
「違います!」
悲鳴のような声が、わたくしの口からこぼれる。
うわずった自分の声が、はずかしい。
ひとつ、小さな息を吐いて、心を整える。
そして、ユリウス王子の目を見た。
「違います。わたくしは、シャナル王子をもてあそんだりなど、しておりません。恐れ多いことですが、かの王子のことを、大切な方だと思っています」
もてあそんだりなんて、するはずがない。
恋ではない。
わたくしにとっての一番の人でもない。
けれども、わたくしだって、シャナル王子のことを大切に思っているのだ。