されど地球はまわる
結局、私は夜中に目が覚めた。布団を被ったまま寝ていたから暑くて息苦しくて、これ以上無いほど目覚めが悪かった。顔は案の定腫れていて、泣いていたのがバレバレだったから、シャワーを浴びてすっきりした後はずっと氷で冷やしていた。そのおかげか学校に行く時間には、なんとか知らない人にはばれない程度には腫れは引いていた。
「もう、絶対泣かない」
鏡の前で自分自身を見つめながらそう決意して、私は学校へと向かった。
学校では何故だか私とリョウが別れた話がもう広まっていて、私たちは悪い意味で注目の的だった。
――本当に別れたの!? どっちから言い出したの!? なんで別れたの!?
不躾な質問の嵐が私を襲う。……そんなの、私に聞かれてもしらないよ。私が聞きたいくらいだよ……。
絶対泣かないって決めたのに、口を開けばまた泣いてしまいそうでただひたすら俯いていると、親切とお節介を混同しているとしか思えない女子グループが、カスミさんは失恋したばっかりなんだからほっといてあげなさいよ!とさも分かった風にドヤ顔でギャラリーを解散させてくれた。
一方リョウの方は、ギャラリーがいくら集まろうとも飄々とした態度を崩さなかった。あいつにはもっと良い人がいるよーだの、俺じゃ釣り合わないんだだのカッコつけた事を言っていて……それがまた、悲しかった。いつもは私のところに来てくれていたのに、もう同じ空間にいてもしゃべることもないんだなあ、と思うと悲しかった。
……そんな状態が何日か続いて、いつの間にか私がリョウを振ったという噂がまことしやかに流れだし、傷心のリョウには私よりも細くて色白で可愛くて、髪の長い新しい彼女が出来て、私は……ぼっちになっていた。元々地味だった私は、高校に入ってから急に派手目な女の子と友達になった。いわゆるクラスの中心となる女子の仲間入り出来たようで、ステータスが上がったようで嬉しかったのだけど、それは私がリョウの彼女だったからなのかもしれない。みんな、カッコいいリョウ君の彼女、と友達になりたかっただけなのかもしれない。
……私だってそれに気づいていなかったわけではなかった。こんな地味な私と友達でいてくれる訳が無いって知っていた。だからリョウと付き合っている間は必死で回りについていけるようにちゃんと流行りのメイクをして、先生に目をつけられながらもスカートの丈を短くして、とにかく頑張っていたんだ。
でも、リョウと別れたことでそんなことをする気も起らなくなってしまった。
急にダサくなった私を、最初は大丈夫!? と心配してくれて、愚痴とか聞いてくれたり、励ましてくれていた。でも……。
……カスミ、いつまでウジウジしてるのよ。次の恋見つけなさいよ。
……カスミ、あんまり重いと引かれちゃうよ。
……ほら、リョウだって新しい彼女が出来たんだし、リョウよりカッコいい彼氏作って見せびらかしなさいよ。
以前の私なら素直にホイホイ聞いていたかもしれない言葉を、どうしても心が受け付けない。……何を言っても変化の無い私に愛想をつかして、一人、また一人と私に構う人はいなくなっていった。そして、私はぼっちになった。




