プロローグ
夏の太陽がやっと力を弱め、ぐっと気温が下がったある秋の日のこと。私は、いきなり彼氏に振られた。
「……え?」
彼の形の良い口から紡ぎだされた言葉が信じられなくて、私は思わず聞き返した。
「だから、別れて欲しい、って」
彼があえてゆっくり言った言葉は耳にはしっかり届いたけれど、それを飲み込むのはすっとはいかなかった。……別れて欲しい? 私と? それってつまり……?
「なんでいきなり……?」
理解なんて出来そうになかった。理由を先に聞きたかった。私たち、クラス公認のお似合いカップルだったよね。昨日も仲良く放課後デートしたよね。私、良い彼女だったよね。……なんで? 何がダメだったの? 今からでも元に戻せないの? ねえ、なんで?
「……カスミは悪くないよ。ただ――」
「ただ……?」
淡々と語っていた彼がそこで少し言いよどむように口を歪めた。こんな時なのに、その表情に見とれてしまっている自分はきっと馬鹿だ。根っからの馬鹿なんだ。でも、彼はそんな私に構うことなく、それを口にした。
――ただ、他に好きな人が出来たんだ。
心の奥で、何かが割れた音がした。




