どうしたんですか間宮君
おかしい。
明らかに間宮君が変だ。
自分は間宮君とそこまで親しい間柄でもなければ、涼君の様に長年一緒にいたわけでもない。
彼の事をわかって居るのかと聞かれれば答えはNOだ。
しかしこのいつものサボり部屋でたまたま顔を見合わせた今日。
彼の様子は明らかに違って居るのだった。
「あの…間宮君?」
たまらず、窓の外を眺める間宮君に話しかける。
この部屋は学校の裏の細い道に面して居るので、誰かに見つかる事はない。
そんな窓辺に佇む事もう15分。
いつもの彼なら優雅に本を読んでいるだろうに、今日はその本自体もっていない。
これは明らかにおかしいだろう。
「……何?大島さん。」
「いや、あの…」
何?と聞かれてしまっては、変だよとは答えづらい。
春香は思わず口籠って持っていた小説を膝の上に置く。
それを間宮君がチラリと見て「なんの本?」と尋ねるから
「ドストエフスキーの罪と罰。」と答えれば
そう。と、再び興味なさげに窓の外に目をやる。
…あの間宮君が本に興味を示さない!?
「ねぇ、間宮君。今日は変だよ?涼君と何かあった?」
思い出してみれば今日は涼君が席までやって来なかった。
たまらずそう聞くと間宮君の体がピクリと反応する。
やっぱり。
ある程度の確証を得て原因は涼君であろう。
「大島さん、何で涼の事は涼君って呼ぶの?」
「………?」
「2人は知り合いだったの?」
「え?ううん。初めてクラスがいっしょになったけど。」
「ふーん。そう。」
あ、あれ?
何か間宮君機嫌が悪くない?
冷や汗をかきながら寝そべっていた大勢からしっかりとソファーに座り直す。
すると間宮君が窓辺からこちらへ近づいてきた。
「さっきの答えだけどね、僕が涼なんかのせいで気分がどうにかなる事は無いから。」
「あ、うん。ごめん…間宮君?」
ち、近いよ!?
どんどん近づいて来る間宮君は今は20㎝程しか間がない。
無駄のない整った顔がすぐそばまできて居て、その儚げな表情が実に色っぽい。
ちょっと待って…っ。
男に免疫がない春香は顔が熱くなるのを感じて
慌てて口元を手のひらで覆って隠そうとするがもう手遅れだった。
クスリと間宮君が間近で笑う。
「大島さん、顔真っ赤だね。」
「っ…わかってるなら、そこどいて。」
「やだよ。大島さん見てるの面白いし。」
「なっ…。」
今度は耳まで赤く染める春香に、間宮君は満足気に微笑んだ。
スッと顔に伸びて来る細い手。
それが頬に到達すると、春香の体がピクリと反応する。
「大島さんの頬柔らかい。」
スルスルと表面を撫でる動作は何処か色っぽくて目眩がしそうだ。
今日は一体どうしちゃったのよ?!
いつもの間宮君とは思えない言動にこの人は本当に間宮君なのか疑いたくなってしまうぐらいだ。
「…っ、間宮君も女の子の扱い馴れてるんだね…。」
嫌味として言ったのだがそんなもの間宮君には通用しない。
「まさか。僕は女の子にかまってる暇があるなら本を読んでる方がいいよ。大島さんが想像してる奴とは違うから。」
…うん、わかる気がする。
妙に説得力のある説明に思わず納得してしまう。
「ね、春香。」
「!?」
な、に…っ。この感じ。
思わず自分の体を抱きしめてその衝動にこらえてしまう。
間宮君に名前を呼ばれた瞬間ぞわぞわと身体中に電気が流れる様な心地がする。
それは嫌悪感などではなく寧ろ…歓喜。
なんで…あたし。
その美しい容姿で妖艶な微笑みを携え、甘い低い声でつぶやかられた自分の名前。
たったそれだけなのだが破壊力は凄まじかった。
一方、間宮君は間宮君でそんな春香の様子を伺い、嫌がってない事をしっかりと確認して居た。
「涼の自慢気に大島さんを呼ぶのがそろそろ鬱陶しくなって来たからね。あいつを大人しくさせようかと思って。」
「それにしたって…。」
むしろいきなり春香などと呼び捨てにすれば涼君は騒ぎ立てると思うんだけど。
「嫌じゃ無かったろう?」
「……うん。そうだけど。」
正直に答えればならいいだろう、と丸め込まれてしまう。
「そうだ、大島さん昼休みの間はここにいる?」
とっさに思いついた様に言う間宮君。
「そのつもりだけど…。」
なら、そう言って春香の腕をやんわり掴むと次の瞬間、
その柔らかな絹の様な髪が春香の膝の上へと乗る。
「間宮君?」
困惑気味に問う春香。
どう考えてもこれは膝枕であろう。
「ごめん。昨日徹夜で本読んでたから眠くって。僕枕が無いと寝れ無いタイプだからさ。昼休みが終わったら起こしてくれないかな?」
そういいながらふわっと小さくあくびを漏らす間宮君。
そういえば今日はいつもより眠そうだったなと思い出した。
「いいけど…間宮君って猫みたいね。」
「そ?」
「うん。口が悪くて人を寄せ付けない割に、慣れるとこうやって近づいて来てくれる感じが。」
ふふふっと笑うとそんな春香をチラリと見る間宮君。
「…さっきは真っ赤になった癖に今は余裕だね。僕が猫みたいだから?」
何となく低い声。
「ううん。うちに弟が居てよく膝枕してあげてたからコレは馴れてるの。」
「ふーん。弟、ね。」
自分から訪ねて来た癖にどうでもよさそうに、まあいいや。と呟いた間宮君。
「おやすみ…春香。」
「?!」
顔を反対側に向けているからわからないが多分そう言ってから目を閉じた間宮君。
最後にさらっと爆弾を落としてくれたと苦笑いする春香だった。




