お隣ですよ間宮君
窓から吹き込まれる風が気持ちいい今日この頃。
私、春香は教室中の視線を集めながら教台に立っているわけですが。
クラス中の真剣な瞳を集めて思わず思ってしまう。
面倒臭い、と。
しかし、クラスの中に一人だけ。
こちらに興味も無い様に読書を続ける生徒がいる。
あたしはそれを見つけて思わず微笑んでしまった。
間宮君らしいなぁ…。
春香の微笑みによって一瞬ざわついた教室に気が付きもせず、春香は自分の役目を全うしようと声を上げる。
「今から2ヶ月に一回の席替えをします。」
凛とした彼女の声がした。
突如ワァァと騒めく教室。
よっ、待ってました!!
と掛け声をかける男子も有り。
拍手喝采を受ける。
ここで春香は気が付かれない様にため息を一つつく。
あぁー面倒臭い……
ーーーーーー………。
「あ、大島さん。俺の隣?」
ラッキーと笑う隣の男子に春香は小さく微笑む。
見るからにスポーツが得意そうで社交的な感じの男子。
それはお世辞では無く心底喜んで居る様だった。
しかしこの男子生徒はしらないのだ。
…この人の名前何だっけ?と、春香が必死に思い出そうと葛藤している事を。
『柳田君よ。』
コッソリと耳元に告げられた言葉に感謝する。
後で何か千明に奢らなくては。
「柳田君とはクラス一緒になるの初めてだね。」
「え?俺の名前しってんの?大島さん絶対俺の事しらないと思ってたのになんか嬉しいなぁ。よろしくね。」
「う、うん。よろしく。」
本当は貴方の予想通りです。なんてとてもじゃないが言えない。
ガタガタと机を引きずりながら何とか柳田君の隣に収まる。
「俺、下の名前涼って言うんだ。大島さんとは仲良くなりたいからさ。気兼ね無く涼って呼んでよ。」
「……?うん、わかったよ…涼君。」
首を傾げながら恐る恐る口にする春香に満足げに頬を染める涼。
「呼び捨てでいいのに。ね、春香ちゃんって呼んでもいい?」
「あぁー…えっと。」
ここで困った様に口籠る春香。
春香もあまり鈍くは無い。こうあからさまにアプローチをかけられれば関わりたく無いのが本音だった。
自分の名前を異性に呼ばれるのに抵抗もあるし、その気も無いのに無駄に気持たせる事もあまりしたく無い。
春香ちゃん…?
ちゃっかり下の名前で呼びかける涼に、遅かったかぁ…と苦笑いしながら
「いいよ。」と答える。
心底嬉しそうな表情を見て、春香は複雑な心境だった。
それは突然だった。
「やだぁ!!」
女のコのその声を聞いて、春香と涼は自然と振り返った。
部屋の隅にできた人だかり。
そこから何やら不服そうな声が聞こえて来る。
何か席替えに不備があったのだろうか。
席替え係りの者として行かなくてはなるまいと、春香は足早にその集団に近づいた。
「どうしたの?」
「席替えでまた梨沙子が間宮君の隣になっちゃったのよ。この間の事ですごく間宮君のこと嫌になっちゃったらしくてね、梨沙子が誰かと変わるって駄々こねてたところ。」
全く迷惑な、と千明は呆れた様な声をだして言った。
まぁ、確かに梨沙子の気持ちはわからなくも無いけれど、こういう風に騒ぎ立てずにことを収めることができないんだろうかと春香も思う。
間宮君にも失礼だし、そんな大袈裟に騒ぐから周りも困ってるじゃない。
ため息をつきながら、「で、代わってくれそうな人居るの?」と千明に尋ねた。
「それがあの一件以来、少し女子に間宮君怖がられててね。そもそもそんなに交友無い人だったし…。」
あんなに騒ぎ立てるから余計に、ね。苦笑いしながら千明はそう付け加えた。
成る程、みるからに悪循環なわけね。
梨沙子が嫌だと駄々をこねる。
すると周りの人間も自ら変わろうとは言い出しづらくなって、結局元に戻るのだ。
はぁ、こうなったら仕方が無いかな。
騒がれるのは嫌いなんだけど…。
楽そうでなった席替え係りを呪いたい。
苦笑いを浮かべる春香に千明が怪訝そうな瞳を浮かべるが、それに小さく「大丈夫。」と答えてから春香は輪の中心へと進んだ。
「梨沙子ちゃん…大丈夫?」
「春香ちゃん。」
春香が微笑みながら背中をさすってあげると少しばかり落ち着きを取り戻した梨沙子。
どこか安心した様な表情を見せた梨沙子に春香はホッとする。
「ね、もしよかったらあたし席変わろうか?」
「え?!いいの?」
「うん、かえって一番後ろの席になれてよかったかな。」
春香ちゃ~ん…と声にならない感謝を述べてコクコクと頷く梨沙子ちゃん。
そんな梨沙子をクスッと笑ってから間宮君に向かい合う。
「そんな訳で間宮君、あたしが隣でいいかな?」
「…君がいいのなら構わないよ。」
全く気にも止めていない様な言い方。
しかしそうはいいつつも間宮君は前の方から春香の机を運び出し、梨沙子のと交換してくれた。
そんな様子に思わず笑みがこぼれる。
「ありがとう間宮君。」
「いや、こっちこそ迷惑かけた。君も……。」
いきなり話を振られた梨沙子は驚いて動きを止める。
「この間は少し言い過ぎた。怖がらせてたならごめん。」
一瞬何が起きたのかわからないといった表情を浮かべるが、次の瞬間今の自分の侵された状況を理解したのか
「…こっちこそ、騒ぎ立ててごめんなさい。」
と、俯きながら言った。
クラス中に変な空気が流れたが、何とか一件落着。
それから、
クラスメイトからの春香の株は急上昇して、梨沙子は少し大人しくなったのだが
当の本人は全くと言っていいほど気がついておらず。
また、実は密かに間宮君の評価もさりげなく上がったのだった。
ーーーーーー……
一言でいえば、彼の隣の席は何とも楽であった。
休み時間はひたすら読書。
それでも必要な時には普通に会話をするし笑もする。
彼の独特の雰囲気のせいか、あまり煩い輩がよって来ないし面倒なことが嫌いなはるかにとってそこは少なからず居心地の良いもよだった。
結果的には梨沙子に感謝ね。
彼女は小さく微笑むのだった。
しかし、予想外の出来事もまたある。
パタパタと早足でこちらに近づいて来る足音がすれば、読んでいた本からしかたなく目線を上げる春香。
すると予想通りの人物がそこにいて、春香は苦笑いを浮かべながら挨拶を交わすのだった。
「おはよう、涼君。」
「おはよう、春香ちゃん。今日も可愛いねー。」
うわぁ…さすが涼君。
毎日浴びせられる歯の浮く様なセリフにも免疫がてきてしまって、ありがとう、と適当に受け流す。
こんな免疫できればつけたく無かったと内心思うがそれも仕方がない。
この人見かけによらず女の子慣れしてるのよねぇ。
ニコニコと微笑む涼にそう思わずにはいられない。
一見、爽やか系の男子涼君。
予想通りのサッカー部のエースであるが、整った容姿も相重なって女子には困らないであろう人物であった。
そんな風には見えないんだけど…。
時々見せる態度とか台詞が妙に女の影を匂わせるんだよね。
全く面倒な人に気に入られちゃったもんだ。
そんな彼に妙に懐かれてしまった春香。
彼は朝の時間や休み時間など暇な時には必ずと言っていいほど春香の元を訪れるのだった。
さらに予想外なことが一つ。
「あ、ハルもおはよー。」
「…おはよう。」
「ハル元気ねぇーなぁ。折角春香ちゃんの隣なのに嬉しくねぇの?」
ニコニコしながら間宮君の読みかけの本を無理矢理伏せる涼。
ちょっと!
それはまずいでしょう!?
ハラハラしながら成り行きを見守る春香なんてつゆしらず。
間宮君の冷たい視線を浴びながら涼君はニコニコと笑顔を浮かべていた。
「…涼、僕が大島さんの隣を獲ったこと根にもってるだろう。」
ため息混じりにそういえば、まさかぁと、笑ながら間宮君の目の前に腰掛ける。
「でも春香ちゃんをあそこまで困らせたのはいただけないよねぇ。」
「…大島さんには迷惑かけたとは思うが、涼には関係無いことだろう。そういうお節介はどうかと思うけど?」
「関係あるよ、春香ちゃんは友達だし。」
ね?と相打ちを求められるからコクコクと首を縦に振る。
…お察しの通り、下の名前で呼び合うぐらい二人は仲がよかった。
一方的に話しかけて居るように見えても何だかんだで間宮君もちゃんと相手をしてあげてるし実は相思相愛なんだと思う。
「ハルはもうちょっと愛想よくしたら?折角綺麗な顔してるのにもったいない。」
「涼に綺麗とか言われるとおもわず泣きたくなるね。できれば普通の顔がよかったよ。」
「うわぁ、男の敵!てか、俺に言われるのがそんなに嫌か!春香ちゃんもコイツもう少し愛想よくするべきだと思わない?」
突然話を振られて戸惑うも、少しの間考えてみる春香。
もし、間宮君が愛想がよかったら?
……うーん。
「変じゃない?」
「え?春香ちゃん?」
「間宮君のイメージ固定しちゃってるからかもしれないけど、そんな間宮君は間宮君じゃ無いと思う。」
そう答えた春香に一瞬驚いた顔をするも、涼は面白そうなものをみつけたとばかりの顔をする。
「じゃあ、ハルのイメージってどんな?」
間宮君のイメージ…?
「いつも本読んでて、面倒ごとは嫌いで。見た目フワフワしてるのにちょっとはかな気で。それでも実はよく笑うし、ちゃんと自分の中に筋通してるし…。」
う~んと悩む春香。
挙げ始めたらキリが無い。
間宮君はいろんな顔をもってるから…。
「じゃあさ、春香ちゃんはハルが怖くないの?」
「涼!!」
珍しい。
間宮君がたしなめる様に大きな声を出す。
春香はそんな珍しい間宮君にクスリと笑ってから
「なんで?だって間宮君は理由ないことには怒らないし。」と当たり前の様に言ってのけた。
ここ数日間一緒にいてわかったが、彼は口は悪いが怖くはない。
本当に辛い言葉をいう時だって理由がある時だけだ。
それから春香は
大丈夫だよ。あ、でもあたしがいつ無意識で余分な事しちゃうかは恐いけど。
と付け加えた。
そんな春香に涼は満足気に。間宮君は複雑そうな表情を見せていた。
……一体なんだっていうのよ。




