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濡れ衣ヒドインですが、ラスボスに執着されています  作者: 紗雪ロカ


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16.『聖女要らず』を讃えて

 そのしおらしさを意外に思い、独り言も気になってよく見ようと一歩踏み出したその瞬間――、


「罠に捕まっちゃったわけですね」

『ええ、お恥ずかしいわ……』


 その後は、イノリもよく知っている通りだ。真相を確かめるため、しばらく傍にいて事の成り行きを見守っていたらしい。

 イノリもこちらの事情をざっくりと話す(乙女ゲームの件は伏せたが)。双方の共有が終わったところで、カタリーナが気づいた点を上げる。


『すると、わたくしとイノリさんの魂の移管はほぼ同時刻に起こったことになりますのね』

「ですね。現状を整理すると――こう入れ替わっている」


 ペンを取ったイノリは、紙に『いのり→リーシャ』『カタリーナ→ネズミ』と図を描く。


「となると、こう考えるのが妥当ですか」


 その横からペンを抜き取ったネクロスは、その図式に矢印を一つ書き加えた。完成した図式を見下ろし、2人と1匹はしばし黙り込む。


 ――いのり→リーシャ→カタリーナ→ネズミ


「……」

『……』

「見事に押し出されてますねェ」

「と、ところてん……」


 一言だけ呟いてイノリは絶句する。もしこの仮説が本当なら、ヒドインリーシャは土壇場でカタリーナに成り代わり、自分自身でやってきた悪行を何食わぬ顔で裁いたことになる。


『うぅぅ~~、そんなことってありえますの?』


 痛む頭を押さえるように、ハム令嬢は額に小さな手をやる。

 そこでハッとしたイノリは、先ほどの答えを見つけたような気がしてこう問いかけた。


「もしかして、先生があの子を嫌がってたのって」

「あぁ。私を見る目が、王太子たちに媚びを売るリーシャそっくりだったのですよ。この、翠の瞳がね」

「ちょ、やめ……、その時はわたしじゃありませんからっ」


 隣に座るイノリのまぶたを、二本の指でこじ開けようとするので全力で掴んでググググ……と、遠ざける。

 そんなやりとりを『ぷゃ』と、呆れたように見ていたカタリーナだったが、気を取り直したように立ち上がると、勇ましく宣言した。


『とにかく! 黒幕は現在わたくしに入っている輩でほぼ確定ですわ! こうなれば、治癒ポーションがイノリさんの功績だと公表するべきかと!』


 その話も、カタリーナはちゃんと聞いていたのだ。恨みがましい目をしたハム嬢は、ふっふっふと黒い笑みを浮かべた。


『そうすれば、わたくしに入っている犯人はきっとイチャモンを付けてくるはず……その時こそ、とっ捕まえて真実を吐かせるのですわ!』

「ほう、勝算があると?」


 どこか愉快そうにネクロスが尋ねると、公爵令嬢はグッと背筋を伸ばした。


『言葉を取り戻したからには、いくらでもやりようがあります。イノリさん、あなたにも力になって貰いますわよ!』

「は、はいっ。もちろんです!」


 キリッとした黒い目を向けられ、力が湧いてくるのを感じる。イノリは差し出された小さな手と合わせるように指先を差し出した。


 ***


 夏に差し掛かろうかと言う初夏のある日の昼下がり、王城では国に多大なる貢献をした者を表彰するパーティーが行われることになった。

 その功労者とは、北の塔に住まう隠賢者。かつては王族を始めとした有力貴族の魔術の師として在席していたネクロス・ルードその人であった。噂だけは独り歩きしていたが、ここひと月で爆発的に普及し出した『治癒ポーション』の考案者だと、ついに本人が認めたのだ。

 かの薬の効果はすさまじかった。簡単な外傷なら立ちどころに治るので、『聖女要らず』の異名が付いたほどだ。――薬が流行る直前、その光の聖女が盛大なスキャンダルを起こして失脚したのも、その皮肉めいた命名を後押ししていた。


 そんな中、会場入りをした公爵令嬢は苛立っていた。

 なにせ、今日の主役であるネクロスに治癒ポーションの件で資金面の協力を申し出たのに、やんわりと断られてしまったのだ。狙い通りにいけば今日この場で、彼と並んで表彰されているのは自分だったはずだったのに。


(屈辱だわ……だけど今からでも遅くない、この場で改めて陛下に進言すれば、きっと賛同して下さる。あたしの聡明さが国中に知れ渡るのよ!)


 扇で隠した口元をニヤリと吊り上げる。そう……『悪役令嬢カタリーナは挫けない』。そんなヒロイン無双物語がここから始まるのだ!


(それにしても、攻略対象が軒並み居なくなっちゃったのには困ったわね。悪役令嬢を主人公にした『ディアプレⅡ』が始まるのを期待してたんだけど……。あ、もしかしてここに隣国の皇子さまとかがお忍びで来てるんじゃ?? キャー! ベタぁ、だがそれでこそディアプレ)


 澄ました顔をしながら脳内で思考を巡らせる。その時、会場がどよっとざわめいた。消化イベントが来たかと振り向いたカタリーナは、視線の先の光景を目にしてピシリと固まった。


「……は?」

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