七月一日【file. 8】
「伯爆!」
昨夜の自分を「間抜け」だと笑った冷めた視線は、今、指先に集まる熱い霊気の輝きに塗りつぶされていた。
黒く染まった左手の指先から放たれる衝撃波と、その周りにまとわりつく水色と青紫の影。
反動で軋む手首の感覚が、代償を払い、この不条理な世界で足掻き続ける自分の生存証明のように思えた。
「―――うん。この一ヶ月で指先から霊気弾を撃てるようになった……か。霊気総量も上昇してるし、良いね。
みやびちゃん、この短期間で成長しすぎじゃない?」
そう言って大和先生は、私の霊気弾を壁へとはじき飛ばした。
異能力と言うものは、発現時の言語化が必要だ。
だから私も伯爆、と言うし、この間の春日隊員だって、反逆と口に出して言っていた。
言語化を必要としない、手の動作だけで霊壁を出せる大和先生は、やはり天才以上の何物でもなかった。
「あ、ありがとうございます……!あ、そう言えば、今日公も呼んだんですよね?話があるって聞きましたけど、どうしたんですか?」
「あぁ、明日の話だよ」
「明日……七月一日の事ですか?」
「うん。Level.Kに書いてあったんだよね?七月一日に、霊の意志を持った寄生体がここ渋谷区全体を壊滅しに来るんだ」
「壊滅……」
先生が口にした『壊滅』という言葉は、窓の外で笑う女子高生たちの声に溶け、あまりに非現実的に響いた。
だが、私の手元にあるLevel.Kの冷たい表紙だけが、その死のカウントダウンが現実であることを告げている。
「G.H.O.は寄生体の出現場所を予測することで忙しいからさ、公とみやびちゃんにこの渋谷区の防衛を頼みたくて」
「防衛……!?無理、無理です……!私はまだ修行始めた所ですし、公だって守護系だし……!」
「そう言うと思って、今回は助っ人を派遣することにしたんだ。今日、ここに来るよ」
「助っ人?」
もう私は、Level.Kに記された無慈悲な未来を、ただの『予言』で終わらせるつもりはなかった。
だが、大和先生の口から漏れた『渋谷壊滅』という単語は、あまりに重く、窓の外を呑気に歩く人々との間に、埋めようのない断絶を作り出していく。
「―――ここがG.H.O.の本部かぁ〜!いつもは支部に留まってるから、新鮮だな〜。みやびにも、公くんにも久々に会えるよ!
お姉ちゃん、頑張っちゃうぞぉ〜!」




