七月一日【file. 5】
公と食事を終え、風呂に入り、自身の部屋のベランダで、私は一人黄昏れていた。
ミーン、ミーン、と言う虫の音が、私の鼓動と同期する。
蒸し暑い夜風を浴びながら、ふと誰にも聞こえない声で呟いた。
「幸せは、幸せと言う状況を誰かが作り出しているから存在する……か。
貴方達の言う通りだよ、G.H.O.」
それでも人は、不幸を知らなければ、自分がどれだけ恵まれていて、どれだけ幸せなのかに気付かない。
不幸という「背景」があって初めて、幸福という「被写体」が可視化される事に、いつかみんなは気付くのだろうか。
そう考えると同時に、私も知らない側でありたかったと、無意識に思ってしまう。
ベランダから部屋へ移動し、窓を閉める。
そして、自分の白机に置かれた写真立てに手を掛けた。
こんなにも社会を俯瞰的に見てしまう様になったのは、きっとあの日からだろう。
机に置かれた霊や物怪を封じ込めるために使う、玉怪石を持って手を上に掲げると、石がキラリと輝いた。
そこまで考えて、はた、と私は自身の端末を立ち上げた。
時刻は午後二十三時八分。
深夜とまではいかないが、夜が深くなっていく時間帯。
そう、この時私が端末を立ち上げて時刻を確認したのは本当に偶然だったのだ。
ブー、ブーッ!
端末の右側にあるボタンを押しかけたその時、突然端末が規則的に震えた。
メッセージが差し込まれる。
そのメッセージは、隣の部屋にいるはずの公からだった。
『皐月っ!さっき話し忘れてたけど、明後日父さんから呼び出されてるんだ。皐月も一緒にって。
まぁ、詳しいことは明日説明するね!』
それを読んだ私は数分、端末を震える手で持ちながら黙っていた。
わなわな、と言う擬音が聞こえてきそうなほど震える手で私は独り言を長々と呟く。
「大和先生から直々の呼び出し?なんだろう……。
まぁでも、私の物怪・鈴鹿御前との相性もバッチリだし、公の大嶽丸とも共鳴するだろうし、大丈夫だよね……!?」
この時の私は随分と間抜けで幸せな事を言っていたと、今にしてみれば思う。
それはそうだ。
当時の私はここから先の、地獄と犠牲を知らなかったのだから―――……。




