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「それで捕まえたこいつらだけど……。いったいどうするよ?」

「……捕縛した盗賊の類は付近の街や村の責任者に引き渡すのが常だ。しかし、重罪人であれば領主の下に護送し、取り調べを行った後に裁判に掛けられる場合もある。とはいえ、現状の判断材料からすると彼らは前者だろうな」


 流石は騎士というべきか。こういった事後処理には慣れているのだろう。縄で捕縛された十人の亜人の子供らの扱いについて尋ねたところ、フォルグーンさんはスラスラと彼らの扱いについて説明してくれる。


「……今後の流れとしては彼らをハウデムに引き渡し、その後の処遇についてはハウデムの方針に任せる形になる。だが、引き渡す前に彼らからラスバブやアリルド・レイジアンとの関係性について確かめておきたい」

「そう言えばそうだったな……」


 突然の戦闘ですっかり頭から抜け落ちていたが、俺たちは行商人から聞いた盗賊の話がラスバブとアリルドの居場所を突き止める手掛かりに繋がるかもしれないと考えてハウデムまで来たのだ。


 ────けど、こいつらってセアリアス学園の生徒でもクルエル教徒でもないよな……。


 当初、亜人という点からてっきり彼らはアリルドを信奉してセアリアス学園を抜け出した亜人生徒たちなのだろうと思っていたが、捕縛された彼らを観察している内にその考えが違う事に気付かされた。

 というのも、彼らはセアリアス学園の生徒にしては明らかに外見年齢が低すぎるのだ。

 捕縛された彼らの中で一番の年長者は恐らく俺を攻撃した亜人の子だと見られるが、その子の年齢にしたってどんなに高く見積もっても十歳前後に違いない。セアリアス学園の入学年齢は十三からであり、彼らの誰一人として入学年齢に達している者がいるようには見えないのだ。

 また、直接言葉にするのは憚られるが彼らからあまり教養のようなものが感じられないのも理由の一つと言える。セアリアス学園に通っていたのならある程度の教養が身についていて然るべきであり、それが身についていないという点がセアリアス学園の生徒ではない根拠になっていた。 

 そして彼らがクルエル教徒でないと考えた理由は、クルエル教徒は一貫して何かしらの信条を持っているからだ。俺が今まで見てきたクルエル教徒を名乗る者の目には常に狂気が宿っていたが目の前の彼らにはそれがない。

 そうした点から彼らがセアリアス学園から抜け出した生徒ではなく、クルエル教徒でもないと俺は結論づけていた。


 ────とはいえ、こいつらがラスバブの情報を持ってないとは限らねぇか。利用されたって可能性はまだある訳だし……。


 いずれにせよ彼らから事情を聞くに越したことはないだろう。


「えっと、初めまして! ボクはクラルテ! よければキミたちの事を教えてくれないかな?」


 そんな訳で比較的年の近いクラルテが彼らの取り調べを買って出てくれたのだが……。


「何か事情があってこんな事をしたんだよね?」

「……………………」

「う、う〜ん……。答えづらかったかな……? それじゃあ名前だけでも教えてくれるかな……?」

「……………………」


 彼らは誰一人としてクラルテの質問に答えない。分かる事はと言えば彼らの目に強い反抗心が宿っていることくらいだ。


「うぅ、ごめん二人とも。ボクじゃダメみたい……」


 やがてクラルテは彼らとの対話を切り上げて俺たちの所に戻ってきた。


「いや、あの感じだと誰が聞いても結果は同じだったんじゃねぇか? 話すつもりなんて微塵も感じられねぇもん」

「……どうやら今すぐ聞き出すというのは難しいようだ。ならば続きはハウデムに着いてからにしよう。ハウデムに幾つかの空き家があったと記憶している。彼らの監視と尋問をする意味でも屋内の方がやりやすい筈だ。……どうした二人とも? そんな驚いた顔をして」

「あ、いや……。空き家とかやけにハウデムの事情に詳しい感じで話すもんだからさ。単純に驚いたんだって」

「うん。もしかしてフォルグーンさんって前にハウデムに来たことがあったりするの?」

「……ん? ああ、そうか。そう言えば伝えていなかったか。()()()()()()()()()だ」



 ◆◇◆



 ロイライハ帝国の東側に行く俺たちの案内役にフォルグーンさんが付けられた事を思えば、“フォルグーンさんの出身地がロイライハ帝国の東側にある”というのは何となく想像がついていた事だと言えよう。

 しかし、その出身地が目的地のハウデムだったというのはまるで想像していなかった。

 そして、もう一つ想像していなかった状況が目の前にある。 


「ハウデムにようこそ、皆さん。儂はテルグ。ハウデムで村長をしている。……よく帰ってきたフォルグーン。ふむ、フェリミリカさんとジークリットちゃんはいないようだな。どうだ? 向こうでは仲良くやっているか?」

「……ああ。ただいま、父さん。フェリミリカもジークリットも来ていないが二人とも元気にしているよ。それで此方はオチバ・イチジクとクラルテ・フライハイト。フェリミリカから同じ任務を受けている私の仲間だ」


 フォルグーンさんと話すのは筋骨隆々の肉体を持ち、朗らかな笑顔を浮かべるお爺さんだ。

 このお爺さんがハウデムの村長テルグさんであり、なんとフォルグーンさんはハウデムの村長テルグさんの息子だった。

 フォルグーンさんの提案に従ってハウデムに到着した俺たちは、村長との挨拶の場で初めてフォルグーンさんが村長の息子だと知った訳だ。


「……父さん、いきなりですまないが仲間の宿と捕縛した盗賊らの留置所として空き家を二軒使わせてほしい」

「ふむ……。盗賊というとあの子たちか。手数を掛けたな。ああ、空き家はこの家の隣にあるのと、その向かいのものを使うといい」

「……助かる」

「ありがとう村長さん! じゃあボクはあの子たちを空き家に案内してくるね!」


 空き家の使用許可が下りるとクラルテが村長宅の外で待たせている子供らを隣の空き家に連れていくと言って出ていく。


「騒がしくしてすみません。クラルテのやつ、何だか凄いあの子供たちを気に掛けてるんですよ」

「いやいや、元気でよろしい事だ」

「……父さん、状況を教えてほしい。私たちはあの子らが行商人を襲ったという話を聞いているが、この村での被害はどれほどなんだ?」

「村の被害は大したことないさ。農作物が盗難されているが住民の食料が不足する程でもない」


 テルグさんの話によればあの子供たちがハウデム内で起こした盗賊被害は全て農作物の盗難だという。

 この盗難被害に関してハウデムは住民会議で“被害があまり甚大でない”こと、“相手が子供”という二点から先ずは話し合いの場を設けて事情を聞こうと考えていたらしい。


「しかし、残念ながらあの子らは儂らを警戒して話し合いに応じてくれんかった。後は知っての通りだ。あの子らが行商人を襲い、今に至る。……フォルグーンよ、儂の見立てではあの子らは()()()()()に住んでいた子らだ。恐らくあの子らの村に何かしらの問題が発生したに違いない」

「……南の亜人村か」


 と、ここで新しい村が話題に上がった。


「なぁフォルグーンさん。話の腰を折って悪いんだけどその“南の亜人村”ってのは何だ? 名前からして亜人が住む村ってのは想像つくけどさ」

「……私もあまり詳しくはない。知っているのはハウデムより南に位置する場所に亜人たちの村があるという事くらいだ。幼少期、村の狩人たちからたまに話を聞く程度で直接の交流はなかったと記憶している」

「そうだ。ハウデムと亜人村に直接的な交流はなかった。しかし、それは互いの領分を踏み越えないようにと互いを尊重した故だ。表向きにはしていないが、儂らハウデムと南の亜人村は協力関係にある」

「……そうだったのか。初耳だな」

「当然だ。この協力関係を知るのは代々のハウデム村長と狩人に就く者、そして亜人村の族長と、その族長が信を置く者に留めているのでな」

「……協力関係とは具体的に?」

「儂らハウデムが行商人経由で得た人間社会の道具を南の亜人村に供給し、南の亜人村がハウデムの周囲に現れた脅威的な魔物を駆除するという協定だ」


 今の話で合点がいった。ハウデム周辺に来てから強力な魔物の出現が極端に少なくった理由は南の亜人村が危険な魔物を常日頃から排除していたからなのだろう。

 だが、この協定には一つ不可解な点が見受けられた。


「あの、どうしてその協定って秘密裏なんですかね……?」


 それはこの協定が村全体で周知されるものではなく、限られた者の間でしか共有されてないという点だ。

 この協定は謂わばギブ・アンド・テイクな関係であり、両方の村人に秘密にしなければならないような内容でもない。わざわざ村人たちにこの協定を秘密にする理由が俺には分からなかった。 


「ほう。やはりオチバくんは亜人に偏見がないのだな。君みたいな若者が増えてくれれば良いのだが……。おっと、話が逸れたな。理由は簡単だ。ハウデムが危険に晒されないようにする為さ。ロイライハの東方領域にある村や街には未だ亜人と人間が対立している所もある。そうした思想を何より優先して考える者は亜人と人間の共生を良しとせず、共生を掲げる場所に不和の種を持ち込もうとするものなのだよ」


 つまり、“敵と仲良くしている奴は敵”というような理由で他所から危険を招かない為にハウデムと南の亜人村は協力関係を表沙汰にしていなかったのだ。


「すみません。それは俺の考えが足りてませんでした」

「ははは! なに気にするな。そんな事を意識しないでいられる方がよっぽどいい」


 テルグさんは豪快に笑い飛ばすとフォルグーンさんと目を合わせる。


「さて、フォルグーン。ハウデム村長として決断しよう。あの子らの処遇についてはお前とフェリミリカさんに任せる。どうか力になってやってくれ」


 それは“フォルグーンさんとフェリミリカ大公になら子供らを任せても大丈夫”という確信がテルグさんにあるからこそ出た言葉に違いなかった。



 ◆◇◆



「……以上が本日の状況だ」

『分かりました。盗賊捕縛の件、ご苦労さまでした』


 子供らを空き家の一つに集めてクラルテにその見張り役を任せている間、もう一方の空き家で俺とフォルグーンさんはフェリミリカ大公と定時連絡を行っていた。


「……現在はクラルテ・フライハイトが彼らから話を聞こうと試みているが、先程の彼らの様子を見るにあまり期待は出来そうにない」

「でもテルグさんの予想だとあの子供たちは南の亜人村からやって来たんじゃないかって話みたいでしたね。まぁ、俺もその予想は合ってるんじゃねぇかなって思います。セアリアス学園の生徒にしては見た目の年齢が低すぎるって思いましたし、クルエル教徒にしてはおっかなびっくりな雰囲気を纏ってなかったんで」 

『そうですか。学園生徒でなかったことには取り敢えず安心しました。そうですね。その子らが南の亜人村の住民だとするなら、次に私たちがすべきは南の亜人村で何が起きたのかを調べる事でしょう。貴方たちにその調査を頼みます。それと子供たちの処遇についてはフロンツィエ辺境伯の管轄になりますので此方で一報を入れておくとしましょう。数日内に返事はあると思われますのでそれまで子供たちの保護を任せます。フロンツィエ辺境伯は亜人との共存を望む派閥ですので悪い返事にはならないでしょう』

「……了解した」

『では続いて此方からの伝達事項を。先ずは各地に散らばる捜索班からですが、残念ながら有益な情報は得られていません。引き続き彼ら捜索班にはこのまま東側各地にある砦や城塞の調査に当たってもらっています。次に今朝方、皇帝候補者たちがライハ神と共にヴィッツ公国を立ちました。彼らもハウデムを目指して移動しています』


 どうやらクラウディオたち魔力切れ組も魔力が回復して動き出したらしい。紛れもない朗報だ。


『ライハ神を連れている事で細心の注意を払っての移動となります。到着には時間が掛かるでしょう。状況に変化がなければ彼らとハウデムで合流し、協力して捜査を続けるように。それでは定時連絡を終了します』


 通信の魔道具からフェリミリカ大公の声が途切れるとフォルグーンさんが立ち上がる。


「……では私は父テルグに南の亜人村について他にも何か知らないか話を聞いてくるとしよう」

「了解。う〜ん、じゃあ俺はどうすっかな……」

「……そうだな。クラルテ・フライハイトに助力して子供らから情報を聞き出してくれると助かる。きっと彼女一人では苦労している事だろう」

「あー……。確かにそうだな。分かった。俺はクラルテの方に行くよ」


 そうしてフォルグーンさんはテルグさんの家に、俺はクラルテと捕縛された子供らが集められた空き家に移動し……。


「あ……! 助かったよオチバ〜! やっぱりボクじゃダメだった〜!」


 屋内に入って直ぐ、泣き言を口にするクラルテと警戒心全開の子供らが俺を迎えた。


「おいおい……。何があったんだ……?」

「えっと、それがさ。頑張って打ち解けようとしたんだけどボクの話に耳も傾けてくれなくて……」

「そういや、クラルテが交渉事で苦労してんのって初めて見るな……」

「うん……。ボク、今日初めて分かったよ。みんながボクの話に耳を傾けてくれたのって勇者の肩書きと強い魔力があって一目置かれてたからなんだね……」

「まぁ、否定は出来ねぇか」

「酷い⁉」

「別に酷くはねぇだろ。勇者の肩書きも強い魔力を使いこなすのもクラルテの実力あってこそのもんなんだからよ。実力に左右されない点で言うならそうだな……。容姿が良いって事とかか?」 

「も、もう! 照れるからこの話は終わり……! とにかく! この子たちは勇者なんて知らないし、強さの基準も魔力じゃなかったの! そういう訳で、ボクが強さの証明に魔力を使って見せてからはもうずっとあんな調子で……」


 改めて子供たちに目を配れば子供らは揃って軽蔑するような視線をクラルテに向けている。

 そう言えばテルグさんも互いを尊重する故に亜人村と直接的な交流をしていないと言っていた。

 なるほど、直接的な交流を避けていたのはこんな風に文化の違いがあるからというのもあったのだろう。


「まぁ、こうなりゃ時間かけて誤解を解いてくしかないんじゃねぇか?」

「はぁ……。そうだよねぇ。失敗しちゃったなぁ」 


 そうしてクラルテが落胆する中……。


「おい、おまえ」


 突如として知らない声が屋内で反響した。


「おまえだ、おまえ」


 声は捕縛された子供たちの中から出たもののようだ。


「そうだ。そっちのやつはだめだけど、おまえなら良い」


 “そっちのやつ”とはクラルテの事だろうか。

 いや、現実逃避は止めよう。目が合ってはっきりと分かった。声を発したその子供は先程の戦闘で俺と対峙した子だ。

 俺を殺しかけた子が、俺に話し掛けていた。

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