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クラルテとフォルグーンさんが魔力回復に専念し、道中の安全を考慮して魔馬に身体強化させずに走らせること数時間。ハウデムに続く街道の分かれ道を俺たちは無事に進み、日が暮れてきた頃になってようやく集落らしき灯りが見えてきた。
「どうやらそれっぽい村が見えてきたぜ。フォルグーンさん、あれがハウデムでいいんだよな?」
「……ああ。間違いない。ハウデムだ」
「やった! じゃあ今日は野宿しなくてよさそうだね!」
日数にしておおよそ八日間と数時間。やっと俺たちは目的地に設定したハウデムに到着しようとしていた。
────つっても、本題はここからなんだよな……。
俺たちの旅の目的はラスバブとアリルドが待ち構えるとされる“東の神殿”を見つけることであり、それに加えて拐われたユーリィさんとルーマの居場所を突き止めることだ。ハウデムに来たのはその手掛かりを探す為でしかない。
「ところで二人に提案なんだけど、ハウデムに着いたら今日は一度ゆっくり休んで情報収集すんのは明日からにしねぇか? そりゃあ旅の間は適度に休みを取ってたけどさ。結局野宿が多くて精神的には全然休めてねぇ訳だし。ほら、見ろよ。村の人も全然魔物とか魔獣を警戒してる感じしないぜ」
ハウデムに続く道の道中には農園が広がっており、人の姿もしばしば見られた。遠目から見ているので確実な事は言えないが恐らく農作業に勤しんでいるのだろう。
また、ハウデムに住んでいるであろう子供たちが農園内を駆け回っていたりもしている。中には魔馬車が珍しいのか背の高い作物の陰に隠れて此方を覗き見ている子供もおり、挨拶がてら俺が手を振ってみると驚いたのか頭を引っ込めてしまった。
「これってその辺で子供が遊べるくらいにはハウデムの周囲が安全って事だろ? きっとハウデムには手練れの狩人とかがいるんだろうな」
「……子供? オチバ・イチジク、君は何を言って……。ああ、そういう事か。……そうだな。確かにしっかりと休息を取るのも大事か。少し警戒を緩めるとしよう」
「あ、本当だ……⁉ 全然気づかなかっ……じゃなくて……! えっと! そ、そーだねー! そんなに強い人がいてくれるなら直ぐにでも安心して寝られそうだよー!」
「はぁ……? なんだ二人とも? 俺、いま何かおかしなこと言ったか……?」
二人の反応がおかしいのは直ぐに分かった。特にクラルテなんてあまりにも分かりやすいバレバレな演技をしている。
二人はどうしてそんな反応をしたのだろうか……と疑問を抱いたその時、突然魔馬車の進路上に小柄な人影が飛び出してきた。
「っ……⁉ あっぶねぇ⁉」
慌てて手綱を引いて魔馬車を停止させる。魔馬車が人影と衝突した感触はない。
とはいえ、それは感覚の上での話だ。きちんと容態を確認しない事には断定できない。
俺は御者台を降りながら飛び出してきた人物を探して目を走らせ、魔馬車の前に小柄な人物が立ち尽くしているのを見つけると急いで駆け寄る。
「大丈夫か⁉」
「…………」
しかし、魔馬車の前で立ち尽くす小柄な人物は俺の声に一切反応しない。
────背格好からすると……。子供、だよな……?
断定できないのは顔も声も分からないからだ。その小柄な人物は襤褸布のような外套を頭から被っていて素顔を確認できない。辛うじて背丈から子供だと予想するが、単に背の低い人物、或いはそういう特徴を持つ種族という可能性もあり得た。
「けど……。ふぅ、取り敢えず怪我はねぇみたいだな……」
見たところこの小柄な人物にこれと言った外傷は見受けられない。何とか事故そのものは避けられたと見て良いだろう。
そう俺がホッと胸をなで下ろした直後……。
「え……? うおっ⁉」
急にその小柄な人物は俺との距離を詰め、俺を押し倒そうとし……。
「うげっ⁉」
押し倒されたかと思えば地面に背が着く前に何者かが俺の襟首を引っ張り、俺は魔馬車の方へと尻もちを着いていた。
「はい、そこまで。オチバも無茶するなぁ。囮役なんて」
「お、囮役……?」
俺の襟首を引っ張ったのはクラルテだった。
「……だが助かった。オチバ・イチジク、君が先んじて敵の存在を教えてくれなければ魔力回復に専念していた私たちは敵に囲まれていた事にすら気づけなかっただろう。そして君が手を振って敵の注意を引き付ける囮役となってくれたから私たちは敵情分析に集中できた。お陰で私たちを囲む敵の位置は既に把握済みだ。隠れている数は九。左右それぞれに三。後方に三。それはそれとしてクラルテ・フライハイト、君の演技には少々肝を冷やしたぞ」
フォルグーンさんも魔馬車から降りてきて訳知り顔で会話に加わる。
「酷い! ボクなりに頑張ったんだけど! でも相手が魔力を使ってなかったからオチバが教えてくれなきゃ本当に危なかったかも……。助かったよ、オチバ!」
初めはクラルテとフォルグーンさんの会話にピンと来なかったが、話を聞いている内にようやく俺にも現状が見えてきた。
「俺が手を振った相手って……⁉ それじゃあ……⁉」
それは先ほど農園で駆け回っていたり、隠れて魔馬車を覗き見ていた子供たちの事だ。その子らは俺が手を振ると驚いた様子で頭を引っ込めていたが……。
────あれはこれから襲う獲物に手を振られて驚いてたって事かよ⁉ なら魔馬車の前に飛び出してきたこいつも……⁉
先ほど俺を押し倒そうとした小柄な人物へ視線を向かわせる。
すると、いつの間にかその小柄な人物は頭に被っていた襤褸布を取り去っていた。
────やっぱり子供……⁉ しかも亜人……⁉
襤褸布の下には獣を想起させる特徴的な耳がついている。
相手が魔力を使ってないというクラルテの発言から薄々予感はあった。
亜人は総じて魔力があまり強くない傾向にある種族とされているからだ。警戒心を薄めているとはいえクラルテとフォルグーンさんの二人に探知されず魔馬車を包囲したその高い隠密能力は亜人だから出来た芸当だと言えよう。
そして俺たちに看破された以上、最早彼らが隠密し続ける意味はなくなった。
彼らは周囲の物陰から次々と姿を現し、魔馬車を囲むようにして俺たちに敵意を向ける。
「まさか⁉ ハウデム周辺で旅人を襲うって事は……⁉ こいつらの正体って……⁉」
「……間違いない。あの商人の言っていた盗賊とは彼らの事だ。どうして子供だけの盗賊なのかは疑問だが……。それは捕縛して聞き出せば済む話だな。左右の相手は私が対処しよう」
「じゃあ後ろはボクが受け持つね! 来るよ……‼」
クラルテの言葉が終わると同時に俺たちを囲む子供の亜人たちが一勢に襲い掛かってきた。
「えっ⁉ その感じだと俺は正面……⁉ うおっ⁉」
異論を挟んでいる余地はない。既に眼前にいる亜人の子供は俺を倒す気満々で迫って来ているからだ。
地に両手をついて走る亜人の子は一瞬で俺との距離を詰めてくる。
だが、クラルテとフォルグーンさんが周囲を相手取ると宣言してくれたお陰で俺も目の前の相手だけに意識を割くことができていた。
────こいつ⁉ また俺を押し倒そうとしてやがるのか……⁉
接近する亜人の子は又しても俺を押し倒すつもりなのだろう。迷いのない走りで俺に突進し、飛び掛ってきている。恐らくそれは初撃で体格差による優位を俺から奪う為だ。至近距離での格闘戦となれば身体強化が物を言うが、押し倒されてしまえば一方的に防御する他ない。
正攻法はきっと距離を取って仕切り直すのが正しいのだろう。一般的に亜人はあまり魔力面で秀でていない種族とされており、魔法戦に持ち込むことで逆に一方的に攻撃する事も不可能ではないからだ。
とはいえ、魔力のない俺にそんな上等な手段が取れる筈もない。一応遠距離戦の手段に魔剣はあるが効力を発揮する前に接近されてしまうのが落ちだ。使うには邪魔が入らない状況が好ましい。
────けど、狙いが読める分かえって楽になった……! ここは下がらねぇ……‼
俺は飛び掛って来る亜人から後ろに逃げたくなる気持ちを抑えつけ、逆に前へと──亜人の子が飛び掛かってきた事で生まれた真下の空間に向かって頭から飛び込む。
「……っ⁉」
そんな行動に出るとは考えていなかったのだろう。亜人の子から動揺する気配が感じ取れる。
「よし……! 初撃は対処……! 痛っつ……⁉」
押し倒されてしまうという最悪の状況は回避できた。
しかし、亜人の子の真下を潜り抜けようとしたすれ違いざまに攻撃を加えられたのだろう。背中にじんじんとした熱を感じる。
「でも怯んでる暇はねぇ……!」
亜人の子は飛び掛かる勢いをつけ過ぎたせいでまだ体勢が整っていない。次の攻撃が来るまで僅かな猶予があった。
つまり、俺から仕掛けられる瞬間は今を置いて他にない。ここが勝負所だ。
俺は久しく使っていなかった“とある道具”を取り出し、亜人の子に向かって投擲する。
亜人の子はその投擲物に僅かな警戒心を持ったようだが、投擲物が自らに届かないと理解すると直ぐに関心を無くしたらしい。投擲物から再び俺に意識を戻し、体勢を整え終えると即座に攻撃の姿勢へ移行する。
だが、投擲物が亜人の子の足下に落下して破裂した瞬間、状況は大きく変化した。
「っ⁉ なっ⁉ なんだ⁉ これ⁉」
今までひと言も言葉を発さなかった亜人の子がたちまち目を押さえ、苦悶の声を上げながら地面をのたうち回る。
「そいつは催涙風船爆弾だ……! 暫くは目も鼻も使い物にならねぇだろうぜ! って、何だか俺の方が悪者みてぇな絵面だな……」
催涙風船爆弾は破裂すると催涙効果のある粉塵を辺りに撒き散らす主に野生動物に対する防犯道具だ。
効能から一見して誰にでも通用する道具に思えるが実際のところそうでもない。何故ならこの世界では大抵の場合において物理攻撃は魔力を使えば簡単に対処できてしまうからだ。例えば魔法で盾となるような物を作るだけで用意に凌がれてしまう。
今回は魔法に頼らない上に闇雲に突撃してくる相手だったから上手くいったが、相手がもっと投擲物に警戒していたならこうも想定通りにはいかなかったに違いない。
「まぁ、どのみち催涙風船爆弾で弱体化を狙わなきゃ勝ち目がねぇから成功するまで挑戦するしか手はなかったんだけど……。ともかく、こっちは何とかなったな。さて、向こうはどうなって……」
そうして亜人の子から一瞬目を離したのが命取りだった。
「うぅぅ‼ まだ……! まだだ……‼」
「っ⁉ マジか⁉ まだ目は見えねぇ筈なのに⁉」
催涙風船爆弾で視覚と嗅覚が機能しない以上、亜人の子は聴覚で俺の位置を特定したのだろう。声に反応して振り向いた時には既に亜人の子は立ち上がって俺に向かって駆け出していた。
────駄目だ⁉ これは間に合わねぇ……⁉
亜人の子が動いた事に気づくのが遅すぎた。避ける時間はない。
「ぐあっ⁉」
俺は衝突された衝撃で倒れてしまう。
そしてこの状況で発生した転倒はあまりにも致命的だと頭が瞬時に理解する。受け身を取っていない転倒は相手の次の動きに対処できない。
────ヤバい……⁉ これは不味いぞ……⁉
大きすぎる隙を作ってしまった。これまでの戦闘経験から次の瞬間には致命の一撃を受けているだろうという確信がある。
だが、俺が予想していた致命の一撃は飛んでこなかった。
「くそ……! くそ……‼」
飛んできたのは追い詰められているような焦燥感が滲む悪態と、狙いも正確に定まらない爪による攻撃だ。一振り、二振り、三振りと亜人の子の爪の攻撃は空を切る。
────そうか……! 催涙風船爆弾で視力がやられてるから……!
視力が回復していない亜人の子は俺が大きな隙を作ってしまった事に気付いてすらいないのだろう。聴覚だけを頼りにがむしゃらに腕を振るって俺に爪の連続攻撃を浴びせようとしていた。
────逃げようとしても大きな物音を立てたら直ぐに場所は割れちまう……! 出来るだけ最小限の動きで対処しねぇと……! なら……!
四振り目の爪攻撃になってようやく俺に命中する軌道を描くが、それだけの時間があれば俺も起き上がって対処に動けるようになっていた。
俺は四振り目の爪攻撃を回避し、空かさず五振り目を振るう為に上げられた亜人の子の右腕を掴む。
「っ……⁉」
俺が四振り目の爪攻撃を回避した事は察せたようだが、直後に右腕を掴まれるとは想像していなかったのだろう。再び亜人の子が動揺する。
そして亜人の子が動揺して次の動きに迷いが生まれた瞬間、俺は亜人の子の左腕も掴む事に成功していた。
「っ……‼ 放せ……‼」
「誰が放すもんかよ! 放したらまた爪で攻撃すんだろうが‼」
亜人の子は俺の手を振り払おうとするが俺も目一杯の力で抵抗する。
「ぐっ……! だったら……‼」
「んなっ⁉」
俺が意地でも両腕を放さないと理解したのか、亜人の子は力で俺を押し倒す方針に変更したらしい。全体重を乗せて俺を巻き込みながら自分ごと地面に倒れ込んだ。流石に全体重を乗せた力には俺も抵抗しきれない。
俺たちは取っ組み合いながら勢いに任せて地面を転がる。
やがて転がる勢いは落ち着き……。
────くっ……! 上を取られた……‼
両腕を自由にさせないという意識に集中していたからだろう。俺は亜人の子にマウントポジションを取られてしまっていた。形勢は又しても俺の不利だ。
────でも……! これは間違いねぇな……!
俺はこの状況に僅かな光明を見いだしていた。
それは俺が亜人の子の突進を受けても無事でいたこと。
それは俺が亜人の子の爪攻撃の軌道を読めていたこと。
それは俺の腕力で亜人の子の腕力と拮抗できていること。
────小細工無しの勝負じゃ俺に勝ち目なんてないはず……。でもそうなってねぇ。って事は……。
先程から不自然に感じていた点を繋げば一つの結論に落ち着く。
────今のこいつは身体強化をする余裕がねぇんだ……!
亜人の子は催涙風船爆弾の影響で身体強化に集中できていないのだろう。お陰で俺は亜人の子の筋力に抵抗できているという訳だ。
言い換えれば、亜人の子が集中力を取り戻して身体強化をしてしまうと俺に勝ち目はない。
────つっても……! 俺も決め手がねぇ……!
俺は亜人の子の両腕を封じるので精一杯だった。反撃する余裕もない。だが、その甲斐あって亜人の子も両手の爪攻撃を存分に振るえないでいる。
────何にしてもこいつの攻撃手段は爪……! それと……‼
俺は亜人の子が頭を後ろに振り被るタイミングを見極め、振り下ろされた頭突きを辛うじて避けた。
────頭突き……! いや、この噛みつき攻撃だけは絶対に当たるわけにはいかねぇ……‼
腕を封じられ、足はマウントポジションを維持する為に動かせない。そんな状況で亜人の子が繰り出した攻撃手段は牙による噛みつき攻撃だった。
胴体や腕に関してはアーディベル家の特別製使用人服のお陰で多少の防刃耐性があるが、当たり前ながら顔や首といった生身が表出する部分に防刃耐性はない。
頭や首を狙うこの噛みつき攻撃は俺にとってまさに必殺の一撃という訳だ。
────くそ……⁉ もう限界だ……⁉ 腕が痺れて……⁉
身体強化されてない子供だとしても相手は亜人の身体能力だ。俺の筋力で勝る理屈はない。
次第に腕の感覚が麻痺し始めて亜人の子の両腕を抑えきれなくなってきている。
それでもこの手を放す訳にはいかないと意識を強めた時、僅かに噛みつき攻撃から意識を逸らしてしまった。
「しまっ……⁉」
亜人の子の牙が俺に振り下ろされ、俺は防御反応で目をつぶってしまう。
直後、何か硬いものがぶつかったような鈍い音が響いた。
亜人の子の牙が俺の首の骨を折った音だろうか。
即死ではないのだろう。意識はある。
しかし、一向に痛みがやって来ないのはおかしい。
恐る恐る目を開けてみれば、亜人の子の牙は俺の目の前で他の何かに噛み付いていた。
「……すまない。助けに入るのが遅れてしまった」
「っ⁉ フォルグーンさん……⁉」
亜人の子が噛み付いていたのは、俺の前に差し出されたフォルグーンさんの腕だ。
亜人の子の牙はフォルグーンさんの腕に着けられた籠手をひしゃげさせ、籠手の隙間からは血が流れ出ている。それは亜人の子の牙がフォルグーンさんの身体に到達している事を示していた。
「……リーダー格が指揮を取れなくなった時点で相手は総崩れになった。今、クラルテ・フライハイトが散り散りに逃げた彼らの捕縛に動いている」
「いや⁉ そうじゃなくてフォルグーンさん⁉ その腕……⁉」
「……腕? ああ、そうか。君は自分の心配よりこの子の心配をしているのか。そうだな。何はともあれ、先ずはこの子を大人しくさせるとしよう」
俺はフォルグーンさんの腕を心配したのだが、どうやらフォルグーンさんは俺が亜人の子を心配したと思ったらしい。
フォルグーンさんは亜人の子と視線を合わせる。
「……さて、君の仲間は半数以上が戦闘不能になった。逃げた仲間も直ぐに捕縛されるだろう。大人しく捕まるつもりがあるのならゆっくりと私の腕を放すんだ。それでも抵抗するというなら少し痛い思いをしてもらう」
「…………っ‼」
「……交渉決裂のようだな」
噛み付いて離れない亜人の子にフォルグーンさんは軽く目を伏せて断念したような様子を見せると……。
「ぎゃっ⁉」
突如として亜人の子は悲鳴を上げて噛み付いていたフォルグーンさんの腕を解放し、空かさずフォルグーンさんは飛び退こうとした亜人の子の首根っこを押さえて制圧してしまう。
俺には何が起こったのかさっぱり分からない。そして分からないという事は恐らく魔力関係に違いない。
「えっと……。フォルグーンさん? 今のは何を?」
「……身体強化だ。あの子は身体強化をしてないようだからな。身体強化した私の腕に噛み付いて返り討ちにあったという訳だ」
「あ、そういう……。ところでめちゃくちゃ平然としてっけど噛み付かれた腕の怪我は大丈夫なのか……?」
「……腕の怪我? ああ、それなら問題ない。既に身体強化で治りつつある」
「問題ないって……⁉ マジかよ⁉ 籠手とか凄いひしゃげてんのに⁉」
「……籠手? ……確かにひしゃげているな。しかし、これは身体強化をしていないあの子を怪我させない為に私も籠手に魔力を込めず、身体強化もしなかったからだな。支障はない。軽く骨にヒビが入ったかもしれないが数日身体強化に徹していれば自然治癒するくらいの怪我だ」
大したことはないという風に話すフォルグーンさんの言葉に強がっているような素振りは微塵も感じられない。そう言えば鎧を着たまま高所から落下しても無事でいられるのが身体強化だった。本当に大した事のない怪我なのだろう。
「あー……。まぁ、とにかく助かったよ。ありがとう、フォルグーンさん。ってか、また借りを作っちまったな」
「……君がそれを言うのか? リーダー格が指揮を取れなくなったのは君が……。いや、わざわざ口にするのも無粋だな。気にしないでくれ。旅はまだ終わってない。借りを返す機会は幾らでもある、そうだろう?」
「は、はは……。言ってくれるぜ。返せるように努力はするよ」
程なくしてクラルテが散り散りに逃げた亜人の子供たちを捕まえて俺たちと合流し、ハウデム到着目前で突発的に始まった戦闘は収束へと向かうのだった。
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