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「お兄ちゃんのことが好きなの」
やたらと真剣な顔、でも、不安そうな感じは珍しく混ざってはいない。
服をぐしゃりと握りこんだりもしていないし、すぐに目を逸らしたりすることもなかった。
俺が少しどころかかなり出したことで安心できたのかもしれない。
「おう、ありがとな」
「「円ちゃんおめでとー!」」
「あ、ありが――きゃっ!?」
ああうん、下手をすればカップルよりもくっついているのが女子だ。
「やたらと勢揃いしていると思えばそういうことだったのか」
と言っているが、これは先生なりの冗談だ。
薫子も今城も、何故か弱ってぐったりしている花乃子だってみんな円に呼ばれていまここにいる。
「矢代先生っ、来てくれてありがとうございます!」
「ふっ、我妻に誘われたわけじゃなければいくさ」
「「円ちゃんもその我妻ですね」」
「う、うるさいぞ二人とも。それより生駒の妹さんはどうしたんだ?」
ああ、花乃子は床にうつ伏せで寝転んでいる状態だった――が、いつの間にか円の足に張り付いている。
「年齢イコール彼氏いない歴の味方だった円っちに裏切られて不貞腐れているんです」
「はは、そんな理由でか」
「大事な理由ですよ!」
「これからも仲間だよ」みたいな会話をしていたとしても咄嗟にできて変わってしまうこともある。
昔にいた俺の友達はそうだった、あとは謎にこちらを振って去っていったな……。
「そもそもさー? 花乃子だって前々から円ちゃんからは相談されていたじゃんかー」
「確かに相談はされていたけどさ、それで俊先輩が受け入れるかどうかは半々ぐらいだったでしょ」
この三人と仲良くできる前だったらどうしていたのか。
「そっかなースグなら受け入れると思ったけどなー」
「もー円っちが狙っていなかったら私が俊先輩を貰おうと思ったのにー」
にやにややらしい笑みを浮かべていたりはしないから信じそうになるが、やっぱりこういうのはいまだから口にしているだけだろう。
「わあ……すごい発言だあ」
「って、どうせ裕香先輩だってそうですよね?」
「え? あ、私は我妻君といまのままが一番だよ」
なにもないからこそ気持ちよくいられるのだ。
妹――円が相手だから冷静でいられているだけで、今城や薫子相手に頑張ることになっていたらもっと情けないところを見せることになっていそうだった。
「ぷっ、俊先輩振られていますよ!」
「円を不安にさせたくないし、俺と今城はこの距離感がいいんだよ」
それでも、今度は俺が本を貸すぐらいの気持ちでいないといけない。
「ちぇ……もう少しぐらい慌ててくださいよ」
「スグは強いから無理だよ。なんたってー彼氏がいる私にだって『好き』とか言えちゃうんだからー」
「お姉ちゃん、本当は少し嬉しかったんでしょ」
「そりゃ好きになってもらえたら嬉しくない?」
素直に信じられないかもしれないが、悪い気にはならないことだ。
友達としてでも好きになってもらえたらいいな。
「ま、待て、我妻がそんなことを言ったのか?」
「はい、もう私にメロメロなんで――あ、あれ? なんかどんどんと冷えてきたなー」
「うぅ、いま風邪を引くわけにはいかないから逃げないと」
「後で送るから出ていくのはやめてくれよ?」
「「はあ……」」
先生も送らなければいけないから仕方がない、効率よくやろうとしているだけだ。
「お兄ちゃん、仲良くしたくなる気持ちは分かるけど、いまみたいな距離感でいられると不安になっちゃうよ」
「大丈夫だ、我妻もそこはしっかり線引きできているだろう」
「……矢代先生も危険な存在なんですけどね」
「はは、我妻は便利な働いてくれる生徒というだけだよ」
「それならいいんですけど……」
あれ……あんまりよくないような。
「ま、上手くやれよ我妻」
「はい。あと、先生も遠慮しなくていいですからね」
「元々遠慮をするつもりなんてない。円のことは好きだがそれとこれとは別だ、必要なときは我妻を頼らせてもらうよ」
「任せてくだ――痛い痛い……」
なんかこう……狭い範囲だからこそより辛いというか。
見えないところを狙ってやってくるなんてこともありそうだ。
「ふっ、我妻の手や腕が赤くならない程度には抑えよう」
「そうしてくれた方が俺の手や腕的にはいいみたいです」
「やだなー私はこれ以上はしないよー」
「はは、薫子みたいになったな」
「薫子ちゃんはいい人だから似ているなら嬉しいな」
変なものが混じっていないいい笑みだ。
なるべく攻撃をされないようにしつつ、この笑顔を守っていけるように頑張ろうと決めたのだった。




