1&2話目の楽屋ネタ
NTR小説ばかり書いていた作家が恋愛小説が書けなくなって苦悩していた。
これは渾身の気合で書き始めた純愛ラブラブ、恋愛キュートな小説の筈だった。
「この新作小説なんだけど、なぜこうなったの……? クロネコがそんなにタイミングよく出てくるかしら? 更に失恋した直後に妹ちゃんが待っていて告白されるだなんて、ないない。あなた、NTR小説ばかり書いていたせいで恋愛小説が書けないから苦悩してると言ってたのに、前作の『眠り男』より、もっと酷くなってるわよ」
隣に座る女子大生アシスタントの早乙女恋(20)が俺に言う。顔を見た瞬間、呼吸が止まった。
目のハイライト……が消えてる。
「NTRばかりだと……、小説家としてダメになっちゃうよ? 妹ちゃんも可愛そうだわ」
にこりともしない、感情を抑えた声、俺はごくりと喉を鳴らした。
「いや、ほら、俺(39)って姉しか居なくて妹が欲しかったんだよね。だから、どうしても妹を登場させたくてさ。恋愛小説にするためには仕方がなかったんだ。お姉ちゃんが登場したら直ぐにNTRの渦に巻き込まれちゃうし」
「ねぇ、私って貴女の奥さんよ。歳の離れた妻。妹よりもずっと若いの。あなたが小説家デビューした時二十歳でしょ。私ほぼ産まれてないからね」
「いや妹属性でなく娘属性は別物なんだよ……全然違うんだ……」
俺のIQが下がった瞬間の言い訳だった。
「クロネコだって、ホテルに入るのを主人公が目撃してしまったら即座にNTR小説にジョブチェンジしちゃうだろ? クロネコやお爺さんや郵便屋さんに目撃を阻止させるという苦肉の策、というかソレしか思いつかなかったんだよ」
「駄目じゃん。結局、彼女は身体の関係はなかったのだから、キーホルダーを取るのはやりすぎじゃない? 許してあげようよ。可哀想だよ」
「でもさ、恋人つなぎしながらホテルに入ったら、流石に彼女を信じるのは無理だよね? それに妹ちゃんと付き合う形にしちゃったし」
「恋人つなぎさせなきゃいいじゃないの」
「……というより、どうしてホテルに入る場面が要るのよ、恋愛小説を書こうとしていたんでしょ? ホテルの描写もくどいし、恋愛小説のクライマックスでも普通はホテル描写すら出ないよ? 片想いの相手が他の人と手を繋いでいるのを目撃するだけで充分、疑心暗鬼(通称ギシアン)を掘り下げればいいのだから。それにNTR評論家の西之原くんまで出してるし」
「う~ん。クライマックスまでの鈍感主人公やジレジレが書けないんだよ。恋愛小説の連載五十ページ目ぐらいで起きるクライマックスが、NTR小説だと一~二ページで起きるのだから、癖で書いちゃんだよね。だから俺は恋愛小説が書けなくなってしまっているんだ。これでも苦悩してるんだよ」
「待ってよ、それにさ、私達だってラブホに行っても何もせずに映画観て食事を堪能して帰ることがいつもじゃない? どうして他の人なら必ずエッチしてるって思うのよ」
「いや俺たちは夫婦だから別にラブホテルで泊まっても常に欲情しているわけじゃないからなぁ。シティホテルと同じ感覚。寧ろセックスレスになってるし一般カップルと違って特別だって」
「それ、笑い事じゃないからね。言っておくけど」
この小説家はNTR縛りを脱却できるのか。恋愛小説を書けるのか。
誰にも分からない。光明が見えてこなかった。
今日も苦悩し、足掻き続ける小説家だった。




