不帰の樹海⑭
生存者四十八名。
夜は静かだった。
森にしては珍しく。
誰も死ななかった。
それだけで十分だった。
二つの焚火。
王女側。
不能部隊側。
距離は保たれている。
マルグリットは夜警の交代を終えたところだった。
焚火の向こう。
男達の野営地が見える。
不能部隊。
その名は知っていた。
噂も聞いていた。
種なし部隊。
不能者隊。
捨て石隊。
王都では好き勝手なことを言う者もいた。
だが。
実際に見るのは初めてだった。
騒がない。
喧嘩もしない。
誰も酒など飲んでいない。
むしろ。
妙なほど静かだった。
その時。
向こうで一人の男が立ち上がった。
先ほど先頭にいた男だった。
名は。
ユーリイ・シーゲルだったか。
不能部隊の下士官。
現時点における最先任者。
見張りの交代らしい。
疲労は彼も同じはずだった。
だが。
歩き方に無駄がない。
周囲への視線も切れない。
マルグリットは無意識に観察していた。
隣ではアデルハイトも同じ方向を見ている。
「強いですね」
小さな声。
マルグリットは頷いた。
「そうだな」
短く答える。
兵士として。
強い。
それだけは分かった。
その時だった。
少し離れた場所で。
不能部隊の男達が何かを取り出している。
焚火の明かりに照らされた。
短剣。
いや。
ダガーだった。
何人もが持っている。
同じ形。
同じ刻印。
アデルハイトが眉をひそめた。
「揃いの装備ですか」
「らしいな」
マルグリットも目を細める。
支給品には見えなかった。
使い込まれている。
だが。
手入れもされている。
単なる武器ではないのだろう。
その様子を見ながら。
ふと疑問が浮かぶ。
不能部隊。
使い捨ての部隊。
王都ではそう聞いていた。
ならば。
なぜ。
あれほど武器を大事にする。
なぜ。
あれほど統率が取れている。
なぜ。
あれほど生き残っている。
噂と現実が一致しない。
その時。
隣のオーレリアが小さく笑った。
「思っていた方達と違いますね」
マルグリットは否定しなかった。
違う。
確かに違う。
少なくとも。
王都で語られるような存在には見えなかった。
森の向こう。
別の焚火。
別の人生。
だが。
明日からは同じ道を進むことになる。
不帰の樹海。
生存者四十八名。
その数字だけが。
今は少しだけ心強かった。




