王女からの招集
「で、我々は何でここにいるんですか?」
ユーリイは隣に座るポリーナ・イワノワ准尉に尋ねた
「仕方がないではないか……殿下直々に今回の件について話がしたいと仰っていたのだ」
「だったら、お一人で来ればいいじゃないですか?」
「君も連れてこいとのご指示だ。私はこれでも上の指示には従順なんだよ」
「……」
「君もいい加減、長いものにはうまく巻かれたまえ」
「……」
明後日には東部地区へ現地調査に出発するという段になって、ポリーナから一緒に来てもらいたい場所があると告げられた
行き先もろくに聞かされず連れてこられたのが、王城の一室だった
何の用件なのかと尋ねても、ポリーナは面倒くさそうに肩をすくめるばかりだった
やがて扉が開き、二人の近衛を伴ったメローペ第四王女が入室した
二人は直ちに立ち上がり、姿勢を正す
メローペが近衛の一人、オーレリアに何事かを告げると、オーレリアは一歩前へ進み出た
「此度は、メローペ第四王女殿下の招集に応じてもらい感謝する。これより殿下から、今回の依頼内容ならびに指示をお伝えする。謹んで拝聴するように」
オーレリアが一礼して下がると、メローペが口を開いた
「メローペです。イワノワ准尉、ならびに元王国軍准尉ユーリイ・シーゲル。此度の招集に応じてもらい、感謝しています」
「両名には先の色街における麻薬取引の捜査、ならびにその撲滅に向けて尽力してもらいました。そのことについても、王室を代表して感謝します」
「「勿体なきお言葉です」」
二人は揃って頭を下げた
「さて、今回の件ですが、すでに詳しい話は聞いていると思います」
メローペは机上に広げられた地図へ視線を落とした
「今回、あなた方に調査してもらいたいのは、東部地区を中心に出没している盗賊団についてです」
近年、王国東部では商会や商隊を狙った襲撃事件が相次いでいた
犯人たちは大斧、ライフル、爆発物を使用し、護衛を伴う商隊すら襲撃しているという
その手口から、同一の盗賊団による犯行が疑われていた
一方で、襲撃を受けたと届け出た商会の中には、被害の実態が確認できないものもあった
盗賊団の名を利用した虚偽の被害申告が行われている可能性もあり、事件の全容はいまだ明らかになっていなかった
「当然、最大の目的は盗賊団の逮捕、そして壊滅です」
メローペは二人を見渡した
「ただし、もう一つ調べてもらいたいことがあります」
「近年、襲撃された商会や商隊のいくつかは、先日あなた方が関わった麻薬事件との関連が疑われ、調査の対象となっていました」
ユーリイとポリーナは顔を見合わせた
「盗賊団と麻薬事件に直接の関係があるかどうかは、まだ分かっていません。しかし、無関係と判断するには早いでしょう」
「盗賊団の捜査と併せて、こちらについても調べてもらいたいのです」
「「殿下のご意志のままに」」
二人は深く頭を下げた
その後、現地での調査方針について簡単な確認が行われ、招集は終了となった
ユーリイが一礼して退出しようとしたときだった
「シーゲル、ちょっと」
「は!」
足を止め、改めてメローペに向き直る
「先日行われた戦の乙女では、たくさんの人命救助をしてくれたそうですね」
「当然のことをしたまでです」
メローペはふっと笑った
「あなたは相変わらずのようですね」
そして、何気ない調子で続けた
「ところで、その際にエルザ・ハーゲンからロイエンベルク侯爵領へ誘われたそうですね」
「は!確かに侯爵騎士団へのお誘いをいただきましたが、自分は陛下の騎士ですので、丁重に辞退いたしました」
「婿候補としても誘われたと聞きましたけど」
「……私は不能者ですので」
メローペはじっとユーリイを見つめた
「そうでしたね」
その視線を受けながら、ユーリイは姿勢を崩さなかった
「でも、もしあなたにとって最善と思える誘いがあった場合は、遠慮なく言いなさい」
メローペは静かに続けた
「あなたは私たちの命を助けてくれた恩人です。あなた自身の将来を、私たちへの義理だけで決める必要はありません」
「いえ!自分たちは……」
「遠慮なく言いなさいね」
言いかけた言葉を遮られ、ユーリイは一瞬口を閉じた
「……分かりました」
メローペは小さく頷いた
「それでは、今回の調査もよろしくお願いします」
「は!」
ユーリイは敬礼し、ポリーナとともに部屋を後にした
王城の廊下を歩きながら、ポリーナが口を開いた
「何だい、ロイエンベルク侯爵領からスカウトがあったのかい?」
「ええ」
「行けばよかったのに。侯爵騎士団なら待遇も悪くないだろう」
「俺は今の仕事が合っています」
「そうかい?王室騎士なのに?」
「ええ」
「……」
ポリーナは何とも言えない顔でユーリイを見た
王室から騎士爵を授かりながら、本人は便利屋の仕事を気に入っているという
どうにも理解しがたい男だった
「それにしても……」
「うん?」
「仕事をしているときは、普通にできる人っぽいですね」
「失礼だな」
ポリーナは眉をひそめた
「私はいつだって仕事はきちんとしているぞ」
「そうでしたっけ?」
「仕事をしたくないだけだ」
「……」
「仕事をしないことと、仕事ができないことは別なんだよ、シーゲル君」
「なるほど」
「分かってくれたかね?」
「ええ。よく分かりました」
「それは結構」
満足げに頷くポリーナを横目に、ユーリイは小さく笑った
「では、明後日からもよろしくお願いします。イワノワ准尉」
「……ああ」
ポリーナは深いため息をついた
「仕事をしたくないなぁ……」




