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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊
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茶会

王宮の一室。


窓は広い。


柔らかい光が入る。


机の上には茶器。


湯気。


整えられた配置。


無駄がない。


だが、張り詰めてもいない。


メローペは席についている。


背筋は伸びている。


視線は落ち着いている。


その周囲に、五人。


距離は近い。


立場は違う。


だが、同じ場所にいる者たち。


あの森から戻った者たち。


誰もその話をしない。


する必要がない。


共有されている。


それで足りる。


「……揃ったわね」


メローペが言う。


短い。


場が整う。


「はい、殿下」


マルグリット・ヴァレールが応じる。


姿勢は正しい。


手には書類。


だが、開かない。


今は読む場ではない。


クレール・ド・モンテスが静かに茶を注ぐ。


音がほとんどしない。


流れを作る動き。


自然だ。


リュシエンヌ・フォルティエは椅子に深く座っている。


だが崩れてはいない。


目だけが動いている。


エリス・ラフォレは湯気を見ている。


呼吸が安定している。


空気を保つ位置。


アデルハイト・クロイツベルクは何もしていない。


ただ見ている。


全員を。


配置を。


流れを。


「報告が上がっているわ」


メローペ。


短い。


それで十分。


マルグリットが口を開く。


「対象地点三箇所」


「うち一箇所で接触確認」


「その後、全拠点が整理」


言葉は簡潔。


事実のみ。


「早いわね」


メローペ。


確認。


「はい」


マルグリット。


「通常の不正処理としては異常です」


クレールが続ける。


「最初から“消す前提”ですね」


茶を置く。


音はない。


「見られたことを想定していた動きです」


リュシエンヌが笑う。


「やだねぇ、そういうの」


軽い。


だが軽視ではない。


「隠す気満々ってことじゃん」


「隠しきれないから整理するのよ」


アデルハイトが言う。


間がない。


「つまり、見られた」


メローペが引き取る。


誰も否定しない。


エリスが小さく言う。


「……間に合いましたね」


声は柔らかい。


だが意味は重い。


メローペは頷く。


「完全ではない」


一拍。


「でも、十分よ」


何が残ったか。


そこが重要。


リュシエンヌが首を傾げる。


「で、何が残ったの?」


メローペは視線を落とす。


整理する。


言葉にする。


「構造よ」


短い。


アデルハイトが頷く。


「個人ではない」


さらに。


「少なくとも一段上」


マルグリットが補足する。


「資金は分散」


「流れは細い」


「単独での完結は不可能」


クレールが続く。


「複数経路ですね」


「連鎖しています」


エリスが言う。


「……一人を止めても、止まらない」


誰も否定しない。


メローペは静かに言う。


「厄介ね」


その通りだ。


リュシエンヌが肩をすくめる。


「でもさ、それ見つけたのあの人でしょ?」


視線が揃う。


ユーリイ。


エリスが頷く。


「……すごい人です」


素直。


飾らない。


マルグリットが言う。


「能力は高い」


一拍。


「だが、制御は困難」


現実的な評価。


クレールが少し笑う。


「制御、必要ですか?」


言葉は柔らかい。


だが核心。


アデルハイトが即答する。


「不要」


一拍。


「あれは道具ではない」


リュシエンヌが笑う。


「わかるわかる」


少し考える。


「勝手に動いて、勝手に結果持ってくるタイプ」


「それを利用するしかありませんね」


クレール。


穏やかに言う。


だが、本質は同じ。


メローペは黙って聞いている。


評価を重ねる。


エリスがぽつりと言う。


「……優しかったですよ」


一瞬、空気が止まる。


マルグリットが視線を向ける。


「根拠は?」


問いは厳しい。


だが責めてはいない。


エリスは少し考える。


「森で」


短い。


それだけで足りる。


誰もそれ以上聞かない。


聞く必要がない。


共有されている。


アデルハイトが言う。


「だから厄介だ」


視線は動かない。


「合理だけなら切れる」


一拍。


「だが、それが出来ない」


メローペが言う。


「ええ」


短く。


「だから、呼んだの」


全員が理解する。


選択だった。


リュシエンヌがにやりと笑う。


「殿下、趣味いいじゃん」


マルグリットが軽く咳をする。


場が少し揺れる。


クレールが茶を注ぎ直す。


流れを戻す。


メローペは表情を変えない。


だが、ほんのわずかに呼吸が軽い。


「評価は一致しているわね」


確認。


全員が頷く。


同じ結論。


違う言葉。


メローペは茶を手に取る。


一口。


温度を確かめる。


置く。


「次に進むわ」


空気が変わる。


「これは個人の不正ではない」


一拍。


「構造よ」


言い切る。


アデルハイトが頷く。


「なら上を見る」


マルグリット。


「だが現時点で特定不可」


クレール。


「段階的に進めるしかありません」


エリスが言う。


「……危険、増えますね」


メローペは視線を上げる。


「ええ」


否定しない。


「でも」


一拍。


「止めないわ」


静かに。


だが揺れない。


誰も止めない。


リュシエンヌが肩をすくめる。


「まあ、そうなるよね」


軽い。


だが受け入れている。


メローペは言う。


「ユーリイには続行してもらう」


決定。


マルグリットが頷く。


「補助は?」


「最小限」


即答。


「見られている可能性がある」


「増やせば露見する」


アデルハイトが言う。


「妥当」


クレールが言う。


「ミラを軸に?」


「ええ」


メローペ。


「任せる」


エリスが小さく息を吐く。


少しだけ安心したように。


リュシエンヌが笑う。


「大変だねぇ、あの子も」


誰も否定しない。


茶は冷めている。


だが、場は崩れていない。


メローペが最後に言う。


「これは、まだ始まりよ」


静かに。


はっきりと。


全員が理解する。


ここからが本番だと。


そして。


その中心にいるのが誰かも。


誰も口にしない。


だが、分かっている。


ユーリイ・シーゲル。


茶会は終わる。


だが。


物語は、ここから動く。

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