第2話 出会い
少女にはもう家族がいなかった。幼い頃に両親を亡くし、身寄りもなく育った彼女は、誰かに守られることも、居場所を持つこともなく生きてきた。彼女の中には、まだ目覚めていない力が眠っていた。彼女の血と肉には、命を治す力が宿る――その存在を嗅ぎつけた者たちは、彼女を狙っていた。村の片隅で、時に人に助けられ、時に疎まれながら、ただ「生き延びる」ことだけが日々の目標だった。
けれど、その心の底にはずっと、消えない渇きがあった。
──ただ生きるだけじゃなく、強くなりたい。
──自分の居場所を見つけたい。
その答えを、彼女はまもなく突きつけられることになる。
嵐の夜、街外れの薄暗い路地。若い娘が一人、息を切らして走っていた。振り返ると、黒衣の追手たちが迫ってくる。石に足を取られ、娘が転ぶ。
その時、闇の中から一人の男が現れた。長身で背筋は伸び、目は冷静に周囲を見渡している。
その瞳はただの瞳ではない。男の目は、相手の体力、筋肉の緊張、呼吸や心拍の微細な変化まで瞬時に読み取り、体の限界や精神状態まで把握する能力を持っていた。
さらに、男は超能力の持ち主だった。自身の傷を癒せるだけでなく、必要とあらば他者の傷をも癒やし、命さえ繋ぐことができる――その冷静さの裏に潜む超常の力が、彼の動作の全てを計算させていた。彼の目は、娘が自分と同じ超能力を体に秘めていることを見抜いていた。
「止まれ」
その声で追手も一瞬動きを止めた。
男は一歩前に出て、娘を庇いながら追手を遠ざける。短時間で追手は撤退。娘は膝をつき、呼吸を整える。
男は娘をじっと見つめる。恐怖で震える手足の奥に、強い意志と可能性、そして自分と同じ異質の能力が秘められていることを感じ取った。
(この力を放っておけば、いずれ誰かに奪われ、消される。あるいは......)
男の目の奥に何かが走る。守るだけでは足りない。生き延びる力を、心と体に植え付けなければならない。
娘は反射的に体を硬直させ、わずかに後退する。見知らぬ者、しかも力のある男——危険かもしれない。目を逸らさずに、しかし距離を保つ。
(耐えられるか......いや、耐えさせる。)
男はしゃがんで目線を合わせ、娘の目を見つめる。
「覚悟はあるか?」
娘はまだ震えていたが、男の目に宿る冷徹な決意を理解する。黒くて深いその瞳に、説明の付かぬ信頼の芽を見つけ、わずかにうなずく。
「……はい」
男は静かに手を差し伸べる。
「これからは、俺が導く。お前の命だけは保証する。回復できない危害は与えない。だが、訓練では厳しく指導する。
お前の力を守りつつ、生き延びるための術を身につけさせる」
男の声は冷静で言葉は短いが、意味は明確だ。
「訓練中は逃げられない。だが、命は保証する」
男は手を差し出す。娘は目の前の男の手を一瞬見つめ、恐怖と期待の狭間で心臓が早鐘を打つのを感じる。震える手を差し出し、そっと握った。男の手は確かで温かい。
その瞬間、師と弟子の契約が結ばれた。握手の中で交わるのは、師匠の決意と少女の覚悟。外の世界の危険、恐怖、疲労――全てを背負いながら鍛錬し、生き抜くための関係が静かに始まった。




