第16話 残された二人
蓮が去った後、通路はひどく静かになった。
翔太は壁に手をついたまま、荒い息を繰り返していた。零がその肩を支え、青い魔
力を少しだけ流して痛みを和らげている。
翔太の視線は、壁際に横たえられた葵の亡骸に注がれていた。
「……葵、ごめん。また、守れなかった」
彼はよろよろと近づき、葵の冷たい手に自分の手を重ねた。白いワンピースは血と
埃で汚れ、星型のピアスが鈍く光っている。電車の中で楽しそうに笑っていた顔、遊
園地で「三人でずっと仲良くいたい」と言っていた声——すべてが胸に蘇る。
零が静かに言った。
「葵は……きっと、あなたのことを待っているわ。泉で蘇生できるかどうかはわから
ないけど……彼女のためにも、私たちは前に進まないと」
翔太は葵の亡骸をもう一度背負い直した。体重が以前より重く感じる。体力的に
も、精神的にも。
「零さん……蓮の奴、本気で一人で行っちまったな。あいつ、相当傷ついてた」
零は小さく息を吐いた。
「仮面の男の言葉が、彼の心の奥底を抉ったのでしょう。蓮は昔から、あなたと葵の関係をずっと見つめていたはずよ。明るく振る舞っていたけど……本当は、ずっと苦しかったのかもしれない」
二人はゆっくりと歩き始めた。
翔太は時折、背中の葵に語りかけるように呟いた。
「葵……蓮も、お前のことが好きだったんだよな。俺と同じくらい、いや、それ以上に……。俺、気づいてあげられなかった」
「三人で遊園地に来たあの日のこと、葵が『星の泉で願いを叶えよう』って笑ってた。あの笑顔を、もう一度見たい」
通路はますます深部に入り、魔力の濃度が上がっていく。壁に残された資料の破片が散らばり、「エッセンス抽出」「上層部回収」といった文字が目につくようになった。
零がぽつりと言った。
「蓮……泉に先に着いて、何か願おうとしているのかもしれない。もし彼が泉の力に飲まれたら……」
その先は、言わなくても二人ともわかっていた。
翔太は葵の亡骸の冷たさを背中に感じながら、強く唇を結んだ。
「蓮……待っててくれ。俺たちは、まだ三人だ」
零も静かに頷いた。
しかし、二人の胸には、はっきりとした不安が広がっていた。




