第29話 見えてきた景色
今回は柚季、理沙にスポットを当ててみました。
後半開始のブザーが鳴り響き、志保たちはゴール前を固めた。
しかし、オレンジマジックも前半の危ない場面を警戒してか、自陣に一人を残す布陣で試合に入ってくる。
(さすがなの。試合経験がこういうところで出るの。でも――今の亜紀ちゃんなら大丈夫なの)
柚季は冷静に状況を見つめていた。
(きっと私たちを頼ってくれるの。相手が一人マークに付いている分、攻撃は鈍るの)
前半に見せていた鋭い攻撃は影を潜めている。
その理由は明白だった。
亜紀が、相手ゴール前に居続けているからだ。
(これなら、なんとかなるの)
自分の立てた作戦が機能している。
その手応えに、柚季は小さく胸をなで下ろした。
オレンジの攻撃が単調になれば、守備は安定する。
そして今の亜紀なら、きっと味方を活かしてくれる。
志保の技術は、この場でも群を抜いている。
自分もスピードでは負けていない。
(僕も、きっと役に立てるの)
そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった。
――昔の自分は違った。
人と話すのが苦手で、うまく気持ちを伝えられない。
「だって、あの子まともにしゃべれないじゃん」
「一緒にいても楽しくないよね」
そんな言葉に囲まれて、いつしか一人でいることが当たり前になっていた。
部屋で一人、動画を見ながら会話の練習をする日々。
友達ができたら――そんな想像ばかりしていた。
それでも現実は変わらず、気づけば高校生になっていた。
そんな自分が、今ここにいる。
(フローラルに入って、本当に良かったの)
志保。理沙。亜紀。舞。
初めて出来た「仲間」。
(だから、みんなの力になりたいの)
自分には特別な技術はない。
身体能力も、他のメンバーに比べれば劣る。
それでも――考えることはできる。
戦術を学び、動きを覚え、スペースを作る。
それが今、試合の中で結果として現れている。
(まずは1点……このメンバーで結果が欲しいの!)
柚季は強く拳を握った。
(亜紀がカウンターを狙っているおかげで、オレンジのパスワークが崩れてきている……これなら耐えられる)
理沙は相手の動きを読みながら、インターセプトのタイミングを探る。
自分のやるべきことはシンプルだった。
視線を走らせる。
志保、亜紀、柚季――全員の位置を把握する。
すると――
(なにこれ……すごく見える)
コート全体が、頭の中に立体的に浮かび上がる。
まるで上から見下ろしているような感覚。
舞の指示も重なり、状況はさらに鮮明になる。
(私、こんなこと出来たんだ……)
自分の中に眠っていた感覚に、理沙は驚愕した。
(志保はいつも、私の知らない自分を見つけてくれる)
思い出すのは、これまでの時間。
幼い頃から、ずっと隣にいた存在。
志保がいたから、自分はここまで来れた。
でも――
(今度は私が支える番だ)
志保の本気を、誰よりも知っている。
本当は誰よりも才能があるのに、周囲に合わせて力を抑えてしまう。
その姿を、ずっと見てきた。
(なら、私が支える)
(志保が本気で戦えるように)
「志保、縦を切って! フォローする!」
声を飛ばすと、志保は振り返ることなく動きを変える。
(読めた……!)
ドリブルコースを封じられた相手が、苦し紛れにパスを出す。
その瞬間――
理沙は迷いなく飛び込んだ。
ボールを奪い、そのまま前線へ。
亜紀へパスを送り、さらに志保が全力で走り出す。
(いいよ、志保)
(本気でやっていい)
(私が、全部フォローする)
走り去る背中を見つめながら、理沙は強く思った。
読んでいただきありがとうございます!
この試合、書いていてめちゃくちゃ熱が入りました。
フローラルの成長や想いが少しでも伝わっていたら嬉しいです。
次回も全力で書くので、ぜひ楽しみにしていてください!




