第1話 サッカー部がない高校に入学してしまった
「フットサル女子の青春ストーリーです!」
桜が満開のこの季節。
暖かくなり始めた朝の日差しの中、新しい制服に身を包んだ二人の少女が歩いている。
一人の少女は狭い歩道をせわしなく動き回り、もう一人の眼鏡をかけた少女は小説を読んでいた。
「ねえ、今日から高校生だよ。嬉しくないの? もう大人だよ」
「その子供っぽい行動をやめてから言ってくれるか。学校に着いたら他人のふりをするからな」
「えっ、友達でしょ、親友でしょ? 幼馴染を見捨てるの?」
「なんで私は志保と幼馴染なのかがわからない。志保、本当によく岡家高校に合格したな。同じ制服を着ていることが未だに信じられない」
眼鏡をかけた少女は読んでいた小説を閉じ、目の前を左右に動き回る少女に言った。市内でも有数の進学校、岡家高校に二人の少女は向かっているところだった。
問われた少女は動きを止めて振り返り、眼鏡の少女に向かって言う。
「理沙と一緒の高校に行きたかったから頑張ったんだよ。一緒の高校で嬉しいでしょ?」
「これから三年間、また志保の面倒を見るのかと思うと憂鬱なんだが」
理沙と呼ばれた眼鏡の少女が、眉一つ動かさず冷静に言い放つ。それでも志保は満面の笑みを崩さない。
「大丈夫だよ。理沙には迷惑かけない。私は三年間、部活に打ち込むの。目指せ未来のなでしこジャパン。このサッカーへの情熱を高校生活に捧げるのだ〜」
少し芝居がかった志保の言葉に、理沙は大きくため息をついた。
「志保、それ本気で言っているのか? 岡家高校には女子サッカー部なんてない」
「はっ?」
思わず間の抜けた声を上げる志保。
「もう一度言うか? 岡家高校には女子サッカー部はない。ついでに言えば男子サッカー部もない。入学願書をもらった時に確認していないのか?」
呆れたように理沙が言う。
「えぇぇぇぇぇ~~!」
暖かな日差しの中、志保の絶叫が青空にこだました。
「ほら、いつまで落ち込んでいるんだ。さっさと学校に行くぞ」
そう言って理沙は志保の後ろ襟を掴み、引きずりながら学校へ向かう。
「わ〜ん、私、学校変えるの〜。もう一回入試する〜。転校するの〜」
理沙に引きずられながら志保が駄々をこねる。
「馬鹿なことを言っていないで学校に向かうぞ! 入学式に遅刻なんて、私がそばにいてそんなことは絶対に許さない!」
「私は帰る〜」
「はいはい、早く行くぞ」
志保を引きずる理沙の手が急に重くなる。何事かと思い振り向くと、電柱にしがみついた志保の姿があった。
(こ、この展開は予想できなかった)
まさか漫画のように電柱にしがみつき、駄々をこねる高校生を見るとは夢にも思わなかった。理沙は深くため息をつく。
「嫌だ〜。サッカーのない高校生活なんて、キャベツの千切りがないトンカツみたいじゃん〜」
「意味の分からないことを言っていないで、さっさと離れろ〜」
力を込めて引っ張る理沙に対し、志保は必死に電柱にしがみつく。お互いの力は拮抗し、勝負がつく気配はない。
一度手を止め、理沙は冷静に考えた。
その間も志保は全力で電柱にしがみついている。この状態の志保は力づくでは動かない。保育園でも小学校でも中学校でも、何度も見てきた光景だ。
(こういう時は……)
保育園からの付き合いで、幼馴染である志保の扱いには自信がある。
「じゃあさ、志保。サッカー部がないなら自分で作ればいい」
「そんなこと、できるわけない〜」
首が取れそうなほど横に振り、さらに力を込めて電柱にしがみつく志保。
「でもさ、できたら志保は初代部長だぞ」
理沙の悪魔の囁きに、志保がピクリと反応する。
(相変わらず分かりやすいな)
理沙は心の中でほくそ笑み、続けた。
「私の親友が初代部長。そんなことになったら自慢できるな。入学早々偉業を達成して、そのまま全国へ。岡家高校の伝説になる。うん、間違いなく」
言い終わるより早く、志保は立ち上がり、ダッシュで学校へ駆け出した。
「ほら、理沙! 行くよ! 入学式に遅れちゃうよ! 伝説を作る私が、こんなところで汚名は残したくない! 汚名挽回〜!」
「それ、違っているぞ!」
理沙がツッコむ間もなく、志保の姿はどんどん遠ざかっていく。
理沙も後を追って走り出した。
前を走る志保のポニーテールが大きく揺れる。元サッカー部のエースだった彼女のスピードとスタミナは圧倒的で、距離はみるみるうちに開いていった。
いつも元気いっぱいで天然な志保を、理沙は大好きだった。
トレードマークのポニーテール。大きな瞳。裏表のない性格で、誰とでもすぐに仲良くなれる。
サッカーが大好きで、小学生の頃から男子に混ざってボールを追いかけていたその姿は、理沙にとって憧れでもあった。
さっきは照れて言えなかったが、志保と同じ高校に通えることを、理沙は誰よりも喜んでいた。
理沙が息を切らして学校に到着すると、校門の前で志保が両手を挙げ、ピースサインをして待っていた。
「やったよ、理沙〜! 同じクラスだよ〜!」
満面の笑みで迎えられ、理沙は思わず駆け寄り、志保を抱きしめる。
こんなふうに感情を行動で表すことは、理沙にはほとんどない。
志保は驚いたが、すぐに笑顔になり、
「これからまた一年、よろしく」
と抱き返した。
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