3 海斗は少女に出会う
閲覧ありがとうございます。
作中でその時、あまり重要ではないスキルはまとめて☆で区切られた後の部分で解説することにしました。
カイは犬の散歩に行った後、夕食を食べ、風呂に入り、再びログインする。
「うーん。ということはまずはMPを増やさないといけないってことか」
『MPアップ』は『攻撃力アップ』ほど容易に獲得できるスキルではない。MPを10%以下にした状態で、町の外で30分間経過することが条件である。どの職業でも必須級のスキルであり、みな優先的にとるスキルだが、2個目以降取ることはほとんどない。好き好んで獲得に30分かかるスキルを大量にとろうとはしないからだ。また、MPが減ったらポーションで回復させるため、『攻撃力アップ』のように偶然取得するということもほとんどない。そのため、市場にほとんど出回らない地味にレアなスキルなのだ。
カイは『MPアップⅢ』を持っている。ステータスアップ系の基本的なスキルはすべて取得しているがランクを上げているのはこれと『HPアップ』だけである。ともにランクは3。カイが売っているスキルはダブったスキルだけのため、ほとんどマナは獲得できていないから、上げられてもせいぜいこれくらいなのである。
また、ランクは売ったときにリセットされる。つまり、『攻撃力アップⅤ』を売っても『攻撃力アップ』と同等のゴールドとマナしか貰えないのだ。
「直接取引するしかないか」
スキルはアイテムと同様、譲渡、交換が可能である。そのため、同じギルドに入った初心者にはある程度、育ったスキルを渡すこともある。
「『攻撃力アップⅥ』を作るのでされ、MPが足りないんだ。『攻撃力アップⅦ』は今じゃどうあがいてもとれないだろうな。それなら『攻撃力アップⅤ』を2つ別のものと交換してもらおう」
狙うは中級者の戦士系。上級者なら『攻撃力アップⅤ』くらい持っているだろうし、初心者じゃあこれに釣り合うものはもらえないだろう。
町の掲示板を利用して、交換してくれる人を探す。欲しいのはMPアップ系のアイテムまたはスキルだ。
広場でうろうろしているとメッセージが届いた。同じく盗賊職の人のようだった。
どうやら、『速さアップ』を育てていたらしく、『攻撃力アップ』のランクは2だった。しかし、パーティメンバーにもう少し火力が欲しいといわれたため、そのようなスキルを探していたらしい。話を聞くと、MP関係のスキルはランクが低く、アイテムも持っていないそうだった。ただ、いらないレアドロップスキルがあるらしく、それと交換ということで落ち着いた。
こうして、カイはレアドロップスキル『雀の涙』を手に入れた。
「これ、意外にみんな持ってるのかなあ」
そう思いながら『雀の涙』を売りに行く。そして売ったマナで、『MPアップ』のランクを4に増やした。
ステータスアップのスキルはランク1の時、一律で5%アップである。そしてランクが上がるごとに1%増えていく。ただし、HPとMPに関してはランクが上がるごとに5%上がる。これが必須級と言われている理由の一つである。また、そのためカイも『HPアップ』と『MPアップ』のランクを優先的に上げていたのである。
「うーんこれで少しはMPが増えたとはいえ、それこそ雀の涙なんだよなあ。装備で上げるのが手っ取り早いんだけど」
と、その時またメッセージが届く。今度は戦士職のようだった。カイは指定された場所へ向かう。
そこには、1人の小柄な少女が立っていた。鎧ではなくただの服、それに武器は戦士系にもかかわらず短剣を装備していた。
「わっ。早いですね。ありがとうございます」
少女は深々と礼をする。
「『攻撃力アップⅤ』を交換してくれるって本当ですか!?」
少女は食い気味に尋ねてくる。
「う、うん。代わりにMPアップ系のアイテムが欲しいんだけど何か持っていない?」
「それでしたら、MPリングでいかがでしょうか」
MPリングは純粋にMPを30増やしてくれる装飾品である。ダンジョンのボスモンスターの通常ドロップアイテムだが、カイはボスモンスターに挑んだことがないため、持っていない。
「ありがたいけど、いいの?貰っちゃって」
「まだまだたくさんありますから」
そういうと、その少女はアイテムのインベントリを開く。そこにはMPリング×57と書いてあった。
「レアドロップアイテムの周回で溜まっちゃって。売ってもあまり高くないですし、どうぞあげます」
話を聞くと、欲しいアイテムが全然ドロップしないため、気分転換にスキル獲得のクエストに挑戦するそうだ。そのクエストを受ける条件に『攻撃力アップⅤ』以上を所持していないといけなかったため、探していたそうだ。
「アイテムは売ってもマナを獲得できませんからね……」
そういうと少女は再び深々とお辞儀をしてその場から去っていった。
カイはMPリングを装備すると再び路地裏にやってきた。
「よし、今度こそ」
カイは残った『攻撃力アップⅤ』を2つ選択する。すると、MP不足メッセージに阻まれることなく、新たなスキル『攻撃力アップⅥ』を獲得した通知が来た。MPを確認すると5しか残っていなかった。
「よしよし、上手くいったみたいだな」
特性スキル『攻撃力アップⅥ』
・『攻撃力アップⅤ』をランクアップさせる。
《攻撃力が10%増加する》
「これだけやって10%じゃ、確かに獲得する人は少ないだろうなあ」
とくにすべてのステータスのバランスがいい、悪く言えば器用貧乏なカイにとって攻撃力が10%上がったところで、ほとんど変化はない。カイは自分のステータスを眺めると、よし、と別の面白いスキルが作れないかとりあえず試してみることにした。
カイが所持しているスキルは500を超える。特性スキルは持っているだけで効果があるため、合成には使わず、使うために必要な武器が固定される技スキルを優先的に合成してみることにした。
カイはとりあえず、狙ったスキルを合成できないかと考えてみた。
「『火炎剣』とかいいな。あれ地味に難しいからまだ持ってないんだよな」
『火炎剣』は取得に必要なモンスター、トレントの湧きが悪く、獲得するのに時間がかかる。
そこでカイは常時購入できる『斬撃』と、再び買ってきた『ファイア』を合成してみることにした。
すると、『火炎剣』を手に入れたという通知が来た。
技スキル『火炎剣』
・炎属性の剣で、一日の間にトレントを20体討伐する。
《火をまとった剣で攻撃》
「よしよし、この辺は意外に簡単だな」
同様にして、『氷結剣』も獲得する。
「使わない技スキルはたくさんあるから、いろいろ試してみようか」
そうして、カイは技スキルを消費しながらどんどん合成を進める。すでに持っているスキルや、『スキル廃棄物』を出しながら。
そして、『スキル廃棄物』の個数が30を超えたとき、とあるスキルが合成された。
技スキル『獄炎の一撃』
・装備が剣のみの状態で、ジャイアントトレントを『獄炎剣』でとどめを刺す。
《すべてを焼く炎の斬撃》
これは『火炎剣』と『木の祈り』を合成した際にできた、『獄炎剣』、これを『岩石拳』と『パンチ』を合成してできた『破砕撃』に合成すると、完成した。
「まったく、こんなに合成が難しいとは思わなかった。でも……これで、トッププレイヤーのスキルを獲得できたぞ」
『獄炎の一撃』は固有スキルではないが破格の威力を誇る。しかし、一方でその取得条件の高さから、保有しているプレイヤーは片手で数えられるだけである。ジャイアントトレントはソロで挑まなければならないボスモンスターで、トレントからまれにドロップするアイテムを10個集めることで挑戦できる。それを剣だけでしかもとどめは『獄炎剣』で刺さなければならないのだから、難易度の高さは計り知れない。
「よしよし、もうちょっとだけ試してみようと」
カイはこうしてスキル合成に没頭するのであった。
☆☆☆☆☆☆
魔法スキル『木の祈り』
・トレントのレアドロップスキル。
《フィールドの木の量に応じてHPが自動回復》
技スキル『岩石拳』
・素手でモンスターを連続5回倒す。
《威力の高い拳で攻撃》
技スキル『パンチ』
・武道家の初期スキル。スキル屋で常時購入可能。
《拳で攻撃》
技スキル『獄炎剣』
・『火炎剣』を所持した状態で受けられるスキル獲得クエストをクリア。
《火炎剣よりも威力の高い炎をまとった剣で攻撃》
技スキル『破砕撃』
・防御力が100を超えるモンスターを素手でとどめを刺す。
《相手の防御力を50%減らして攻撃》