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フローフィリィアは、グッとトルーティアを見つめて打ち明けた。

「秘密の話ですわ。私、エントール様に、屈辱的な求婚をされましたの。私を生涯愛する事を、努めるから、などという言葉でしたの。酷いと思われませんか」


意味をすぐに飲み込めなかった様子のトルーティアは妙な顔をして、数秒経ってから驚いた。

「え、あの、失礼ですが、どのような話の流れで・・・」

「大丈夫です。とにかくそう言う事ですの。それで、今お話したいのは、トルーティア様の事ですわ」

「私の事ですか?」

トルーティアが動揺している。

フローフィリィアは、そんなトルーティアの手をぎゅっと握った。

「モーリスに責任を取ってもらいましょう。私はそう訴えます。少なくともエントール様に」


「え、責任と言われましても、そんな」

「モーリスの親は一代限りだけれど貴族になると言われていますわ。その時に婿にできませんの?」

「無理です、そんな・・・それに・・・」

「お心を盗ったのです。モーリスは責任を取るべきです」

トルーティアはオロオロしながら、少し期待するような顔をして、しかし困惑して目を潤ませる。


フローフィリィアはトルーティアを誘った。

「私は、エントール様のお心を得るために励み続けます。トルーティア様もいかがでしょう。モーリスの心をつかんでやるのですわ。結婚後に愛が育つご夫婦も多いらしいですもの!」

フローフィリィアの本気の企みに、トルーティアはのまれたようになって表情を見つめてから、ふと表情を和らげた。少し嬉しそうに笑んだのだ。


***


今日も、エントールとフローフィリィア、二人で過ごす時間を持つ。

二人掛けのソファに二人で並んでお茶を飲んでいる。


「そろそろ、トールは卒業されてしまいますわね」

寂しく思うので、フローフィリィアはそっと隣のエントールに寄りかかってみる。

エントールは慣れてしまったようで、淡々と返事をするだけだ。

「そうだね」


フローフィリィアはパッと身を起こした。

「なんてつれない会話ですの、トール。私を愛する努力をしてくださるのでしょう?」

「きみは、私を惚れさせる努力をしてくれるんだよね?」

ニコニコとエントールが笑う。からかっている。


「お言葉ですけれど、トールが、『フローフィリィアは疑いようもなくトールを愛している』とご自覚なさるほどに私を惚れさせてくださらなくてはなりませんの!」

「うん。そうだね。努力しているよ」

「私には伝わってまいりませんわ!」

「困ったな。気が合わないのかな」

しれっとそんな返答をするので、フローフィリィアはがっかりする。気が抜けてしまう。


「トール。あなたのお好みの女性のタイプを教えてくださいませ。私、努力いたしますわ」

エントールが吹き出しそうになって肩を震わせた。

信じられない反応に、フローフィリィアが顔を上げる。

エントールはゆっくりカップをソーサに戻し、それから口に含んだ紅茶を飲みこんでから、やっと声を上げて愉快そうにした。

「きみだよ、リィア。きみが私の理想の人だ」


「嘘ばかり! 私に全然恋しておられないと言ったのはトールですわ!」

「ごめん。きみはとても可愛いよ。美人で健気で、私に一生懸命で」


「では、何をこれ以上お求めですの!?」

「なんだろうね?」


「酷いですわ!」

「ごめんね」


「泣きそうですわ」

本気でそう零すと、エントールが真顔になってくつろいでいた姿勢を起こして表情を確認してきた。

「ごめん。調子に乗ってしまうんだ」

「・・・」

少し悲しそうな顔を作ったエントールに、ムスッと子どもみたいに無言で拗ねて見せる。このような表情でさえ可愛い事をフローフィリィアは知っている。


「私、浮気なんてしませんけれど。万が一、そうね、モーリスと私が良い関係になったらトールはどう思っていたのです」

フローフィリィアは申し出てみた。

エントールは眉を寄せた。

「それは・・・とても、かなり、不快な気分だね」

「そうなのですか?」

「そうだね」

「モーリスを、スパイに使いましたわよね」

「きみだってモーリスと取引きしたのだろう。あいつは上手い。私からもきみからも二重取りだ」


「・・・私自身は、感謝しているところもあるのです」

「そうだろうね。あいつに随分、きみの長所を聞かされた。あいつ、きみに惚れたのかと疑ったぐらいだ」

「私の心は揺らぎませんでしたけれど」

「そのようだね。良かったよ」


エントールの言葉に、クスリとフローフィリィアは笑みを漏らした。

エントールは一番の相手をフローフィリィアに決めている。そう分かったからだ。

嬉しさを表すために、エントールの手を両手で取り上げてキュッと握ってみたりする。

エントールはまんざらでもなさそうだ。


「話は変わってしまいますけれど、そのモーリスの事は、どうなりましたか?」

「トルーティア嬢との話かな」

「えぇ」


「うーん。少し難しい。主に、トルーティア嬢の御父上が嫌がっているからね」

「そこを、王家の威光で何とかできませんの」


「王家だけではね。リィアが根回しをすればなんとかなるかな?」

「私ですか? 宜しいのですか?」


「良いも何も、リィアが願う事だろう? そうするといい。ローレン殿が受け入れざるを得ない状況に追い詰めてみれば良い」

ローレンがトルーティアの父親だ。

「分かりました。努力しますわ!」


意気込んだフローフィリィアを、少し首を傾げるエントールが笑みながらフローフィリィアを観察している。

「リィアは、変ったね」

「・・・」

またその言葉? 何度でも確認して来るので、本日のフローフィリィアは少し困惑を表した。


「でも、好きだよ。とても好きになりそうだ」

少し目を伏せるように微笑みながらエントールが呟く。

フローフィリィアは不思議な気持ちに襲われる。自分もエントールを大切にしたい、気持ちを育てていきたいと思うのだ。


フローフィリィアは勇気を持って口を開く。

「私も、エントール様の事が、とても、好きだと思いますわ。こんな風に、過ごせるようになってから、穏やかに、好きですの」

「・・・そう。私もだ」

エントールとフローフィリィアで、微笑み合う。どこか嬉し気に。


きっと、傍から見たら、幸せな空気にでも包まれているはず。


「リィア、学校は卒業したい?」

「え? 勿論・・・」

キョトンと答えると、少し残念そうにエントールは目を伏せた。

「そう」


「え、どうなさいましたの?」

少し焦りを覚えて尋ねると、エントールはまるで捨てられた犬のような表情をして見せた。

「私はもう卒業だ。きみと離れてしまうなら、きみも同時に卒業してしまって、一緒に過ごすことができれば良いのにと思ったんだ」


少し、内容が掴みきれずにフローフィリィアは瞬いた。


「言い直そう」

エントールが身を起こし、ソファに座るフローフィリィアにひざまづいてみせた。

「私の卒業後、すぐに結婚していただけませんか。フローフィリィア嬢。学校からきみを攫い出したい」

「まぁ」

驚きのあまり、フローフィリィアの頬が赤く染まった。

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