24.お茶会
フローフィリィアは、エントールと同じ時に学校を卒業することになった。
事情を知って、友人たちは喜んでくれた。一方で、あと1年ご一緒できるはずなのに寂しい、と、2か月後の別れを惜しんでくれる。
フローフィリィアを特別気に入っている宝石学の教師などは、心から嘆いた。フローフィリィアは教師にとって生きる宝石らしい。
少し身の危険を感じたフローフィリィアは、別れを惜しみながらも、『お約束を果たせそうですわ、先生のお陰です!』とポジティブさも印象付けた。
寂しがってくれる人たちに心が揺れたのも事実。
しかし、エントールの気持ちがまた離れる方が怖い。
だから予定を変える意思は無い。例え、フローフィリィアには分からなように配慮しながら、トルーティアが不安そうに落ち込んでいるのに気付いても。
ただ、いなくなる1年間で令嬢の中の勢力が変わり、フローフィリィアが軽視されてはたまらない。
令嬢方はフローフィリィアを支える力だから、残りの2か月を有意義に過ごさなければ。
つまり、フローフィリィアは友人関係にこそ力を注ぐことにした。
変らない財産や美貌や魅力などより、すぐに移り変わる人間関係の方が、フローフィリィアには重要だと判断したから。
というわけで。
今日は、エントールはモーリスを。フローフィリィアはトルーティアを連れ、偶然の流れで中庭でお茶会、に持ち込むことに成功した。
ちなみに、モーリスはギョッとしてエントールを見やり、トルーティアは単純に驚いて少し顔を赤らめた。知らぬ顔をして、エントールとフローフィリィアで偶然を喜ぶような顔を作って微笑み合う。
***
「皆様、もうすぐご卒業ですわね」
とトルーティアが少し寂しさを含ませながら穏やかに話した。
フローフィリィアは心を痛めた。トルーティアがフローフィリィアに特別な友情を感じてくれていると知っている。
「こんなにフローフィリィアが人気者だとは思わなかった」
申し訳ない、と宥めるように優しくエントールがトルーティアに声をかける。
「私も、トルーティア様と過ごす時間は大切ですの。・・・ねぇ、どうか、私の卒業後も、変わらず仲良くしてくださいませ」
フローフィリィアの本心からの願いに、トルーティアは顔を上げて嬉しそうに微笑む。
「はい。喜んで。私からもお願いいたします」
モーリスは、どこか居心地が悪そうだ。
平民だから、学校内の様々な建物から眺めることのできるこの中庭で皆が注目しているのに耐えられないのかもしれない。
フローフィリィアはモーリスに問いかけた。
「私、モーリスにも感謝しておりますわ。私とエントール様の間を取り持ってくださったのだもの。モーリスはこれからどのようになさるの? 学校では独特の立場でしたけれど、この後は?」
「あー・・・」
とモーリスは答えながら、不満そうにフローフィリィアを見た。すでにトルーティアとの話が届いているようだ。
トルーティアが目を伏せた。己を恥じるように落ち込むのが分かって、フローフィリィアはトルーティアのためにムッとした。
ムッとしたのを、エントールが気が付く。困ったように肩をすくめて見せて、
「モーリスさえよければ、もう1年学校に残っても良いのでは。ここはきみにとって、色々良い場所のようだから」
「・・・あぁ。確かにそれは有難いお話です」
モーリスが丁寧に返事をする。少し困った探るような目を向けてはいるが。
トルーティアが驚いたようで、そっと顔を上げた。
フローフィリィアは尋ねた。
「あと1年学校というのは良案ですけれど、それでも卒業後はどうなさるおつもり? お商売を継がれるのでしょうか。モーリスは貴族の位に魅力はお持ちなのかしら」
モーリスは呆れるように口を開いた。
「あのなぁ・・・あ、いや失礼」
気まずそうに口に手を遣る。
フローフィリィアはジィッと見つめた。
「モーリス、あなた、私の前でだけ口調が乱暴でしたの?」
「いや、そんな事は」
両手を軽く上げるような降参のポーズを取ってくる。
エントールが不快気にモーリスを見た。眉をしかめているのは本気だ。
トルーティアは瞬いている。困ったように不思議そうにフローフィリィアを見る。
フローフィリィアはあえて肩をすくめてみせた。
「私、そんなに粗野でしたかしら」
モーリスが呆れたような顔をした。
だけど、モーリスは商人だ。きっとフローフィリィアには乱雑な口調が良いと判断したのだ。
ひょっとして、本物の貴族令嬢ではないからモーリスが親しみを感じてしまったのか。
または、モーリスの素が出るほどに、フローフィリィアを気に入ったのか。
フローフィリィアはニコリと挑むように笑った。
「ご友人として、長くお付き合いいただけたら嬉しいですわ」
「当然だ」
「当然?」
エントールが疑問のように言葉を拾い上げる。モーリスのフローフィリィアへの態度を警戒したようだ。
妙な空気に皆が少し黙ってしまったので、話題転換のように口を開いたのはトルーティアだった。
「その・・・それで、モーリスは、これからどうなさるの? お聞きしても、宜しいかしら」
「・・・別に」
不貞腐れたようにそっけなく、モーリスは答えた。耳の端が赤くなっているのは、先ほどのやり取りのせいだろうか。
「私、フローフィリィア様もエントール様もご卒業ですから・・・せめてモーリスが残られたら、少し心強いですわ」
「俺なんかいてもいなくても同じでしょう」
少し躊躇ったように、トルーティアは言った。
「・・・寂しくなりますわ」
本心からの言葉で、エントールとフローフィリィアも居心地が悪い。エントールはフローフィリィアを連れていくし、フローフィリィアもその誘いに乗るから。
モーリスは困ったようにトルーティアを見た。
「・・・俺みたいなのが紛れていても構わないなら、いても良いですが。ここは色んな人と顔つなぎできてかなりいい場所ですから」
ポツリと言った言葉に、エントールとフローフィリィアで顔を見合わせた。
「決まりだね」
「えぇ」
と頷いたエントールにフローフィリィアも身を乗り出す。
トルーティアがフローフィリィアの様子を見つめている。
「私、トルーティア様や皆様を残してしまうのがとても寂しかったのです。モーリスが残って下さって色々教えて下さったらとても嬉しいです」
まるで無邪気を装ってフローフィリィアは笑った。
「フローフィリィアがこんなに喜ぶなら、私もモーリスには残ってもらいたい。そのように手配しよう」
「ありがとうございます、エントール様」
両手を少女のように組み合わせてエントールに笑いかける。
モーリスが驚いているが、受け入れたようで黙ってエントールを見つめている。
トルーティアも驚きながら、思いがけない事態に少し浮かれたようだった。




