生きる道
適当に読んで下さい。
前回に続きマルの視点です。
私はこの国にある田舎の小さな村で産まれた。人口は100人ちょっと、水と緑に囲まれたとても綺麗な村だった。
産まれた時の記憶はハッキリと覚えていない。それこそ、前世では犬としてご主人に愛されていた事も忘れてしまっていた。
両親にとっては初めての子供だったらしく、それは大きな期待を持って私のことを望んでいた。
しかし、産まれてきた私には人間らしからぬ物が付いていた。獣の耳である。
私の産まれたこの国では獣人族は人族の劣等種族であり、幾度の侵略により狩り続けられ身を奴隷に落とした者達であった。それゆえに、忌み嫌われた存在として扱われ田舎ともなるとそれが顕著に現れていた。
人と人の間に産まれたはずの私に何故、獣の耳が生えていたかは分からないが初めて見た両親は絶句し、産婆さんは災いの元として村長に報告した。
私はそんな事とは露知らずに数年間育てられた。育てられたは少し弊害かもしれない。生かされていたと言った方が正しい。名前も与えてもらえず、いつも"お前"と呼ばれていた。
物心がつく頃には私が他の子たちとは違う存在だと気付かされた。両親も私を部屋からは出してくれず窓越しから見える風景ばかり見ていた。
そして、弟が産まれると同時に私の境遇は一気に変わった。
今まで与えられていたご飯も私には残飯の様な物しか与えられず、体を拭くための桶もくれなくなった。トイレも部屋にあるバケツにするようになり、それの片付けのために外に出る。家の家事のほとんどを私がやり、少しでも母の機嫌を損ねると何度も打たれた。そんな生活が5年程続いた。
この国では5歳になる誕生日を盛大に祝う風習があった。私の家庭はとても裕福と言える様な環境ではなかったため、弟の誕生日をするために少しお金が必要になった。
そんな時に私は聞いてしまった。"あの子を奴隷商人に売ってお金にしてしまおう"と両親が話しているのを。
学がない私でも奴隷と言う言葉は知っている。たまに村に来る商人が私と似たような姿をしている人に暴力を振るって仕事をさせている事。みんな、死んだような顔をしている事。
両親にとって私はいらない子だったのだ。このままだとあの人たちと同じように私も死んでしまうのだろう。死ぬのは怖かった。
この場所から早く逃げないといけない。そんな事を考えているうちに私が奴隷として売られる前夜になった。
この日、覚悟を決めて部屋の窓を破壊して弱った体にムチを打ち近くの森の中へと駆け込んだ。
物音を駆けつけてか、両親を含めて村の大人達が私を探しに森に入ってきた。
高々、8歳の子供の行ける行動範囲は限られている。大人が総出で探したらものの数分で捕えられてしまう。それでも私はできる限りの力を振り絞って走り続けた。
どれくらいの距離を移動したかは分からない。けれどもそれは真っ黒から徐々に白み始めた。
日頃からまともな食事を取らせて貰えなかった私はもう既に限界が近づいていた。そして、私は力尽きてその場に倒れてしまった。
どれくらい眠っていたのだろう。酷く頭が痛く、とても空腹な状態で目が覚めた。小さな暖炉がぱちぱちと音をたてながら暖かく燃えている。
暖炉の前には椅子に腰をかけている1人のお婆さんがいた。彼女は私が起きたのに気がつくとすぐに暖かいミルクとパンを食べさせてくれた。
彼女からの話を聞くと薬草を取りに行った帰りに倒れていた私を見つけて保護してくれたらしい。
とても優しい顔で私の頭を撫でてくれる彼女に私は思わずわんわん泣いてしまった。人から優しくしてもらうことがあまりにも久しぶり過ぎて私には耐えられなかった。
お婆さんに私は自分の今までの生い立ちについて話した。お婆さんは「辛かったね」と言い私の頭を撫で続けてくれる。
一通り私の話を聞くとお婆さんはおもむろに立ち上がり古い本を取ってきた。
何やら、話を伺うと私にはとても古い呪いがかかっていたらしい。それをお婆さんが解いてくれた。
その瞬間に私は前世の記憶をすべて思い出した。優しいご主人と愉快な仲間たちとの楽しかった日々。それを思い出して私はまた1人で咽び泣いた。
それからの日々は前の様な惨めなものでは無くなった。ご主人のことを思い出したことで生きる希望を見つけたのだ。"ご主人を必ず見つける"これが私の目標になった。
そして、お婆さんの弟子になることなった。
なんとお婆さんは魔女であった。50年ほど前にあった魔女狩りの生き残りであり、人々なら見つからないように人里離れた山奥に身を潜めてひっそりと暮らしていたのだった。お婆さんの結界魔法がはられているため、外からはこの家は見えない。
私はお婆さんの元で薬草の知識や少しの魔法を学び、日々を暮らしていた。
神様から与えられていたスキルとやらも12歳の誕生日での洗礼の儀式で明らかになった。『盗賊』それが私の持っているスキルである。
お婆さんの元でスキルや知識を磨く生活を15歳になるまで続けた時にお婆さんが亡くなった。
それはあまりにも突然過ぎる死であった。私は彼女に何も恩返しをしてあげることが出来なかった。「マルがいてくれたお陰で賑やかな日々を過ごすことが出来た」と時々言ってくれた。それがお婆さんにとっての幸せだったらしい。
お婆さんが亡くなったことでこの家にかけられていた魔法がすべて溶けてしまいこの家には住めなくなってしまった。
そして、必要最低限の荷物を持ち都市を目指した。
獣人である私はどこの都市でも受け入れてもらえず、最後にたどり着いたこの街に不法に入り生活を始めた。
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「そして、数ヶ月経った時に偶然外で倒れているご主人を見つけたんだよ」
マルが今まで体験してきた壮絶な人生を聞いて俺は涙を流していた。自分の勝手な願いのせいでマルには何年間もの間辛い目に合わせてしまっていた自責の念にかられた。
「そうか、そんな目にあっていたのに俺のことを探してくれていたんだな。ありがとう」
「当然だよ。ご主人に会うために頑張れて来たんだから」
彼女の可愛らしい笑みを見ると元気が湧いてくる。
「これから、絶対に離れないよ。ずっと一緒にいようね」
こんな世界でもきっといつかはいい事がある。何の能力も持っていないが自分のために待ってていてくれる人がいる。
そうして俺はこの世界で第2の人生を歩んでいくことを決意したのだった。
読んで下さいましてありがとうございます。