01 37歳元ラノベ作家、お金がなくなる
ラノベを書いていた頃は、都度、銀行に100万円ぐらい振り込まれていた俺だが、今、65円しか持っていない。多分、あと五日間ほどは所持金に変化はないだろう。
しかし、今の状況はここ数年の日常茶飯事で、ことさら強調するほどでもない。
去年の俺の年収は37万円で、一日平均千円の収入があった計算になるが、お金が入るタイミングはばらばらで、一年の三分の一は今のように財布の中に百円も入っていなかった。
こういった貧乏自慢はよく芸人もしているが、俺から言わせれば彼らはぬるい。
というのは、彼らには相方だとか芸人仲間、マネージャー、師匠、先輩、彼女といった潤沢な人間関係があるからだ。
彼らは、『あの頃、オレらはどうしようもないほど貧乏だったけど、なぜか毎日楽しかった』みたいなベタコピーの青春物語の中にいて救いがある。
しかし、俺の場合、相方なんていないし、同じレーベルで本を書いていた人も、今、どこでなにやってんだかわかんない人だらけ、仕事がなくなってから彼女も友達もいなくなり、経済的困窮と社会的孤立がセットになっている。しかも一度に世に出て見限られているので妄想でも未来が広がっていかない。ATGが復活したら是非取り上げてほしいような暗い世界の中にいる。
芸人のマネージャーにあたる担当編集者はいた。だけど今更連絡なんてできるわけねーよな。
何年も前に仕事上の関係がなくなって、今、なにをやっているのかわからない奴から連絡があったらどう思う? しかも、そいつは本が売れなかった、ようは、仕事が出来なくて契約を打ち切られたやつだ。俺が編集者なら面倒ごとに巻き込まれたくないから即行で上司に相談するわ。
ま、そうなるとわかっていて連絡できる厚顔無恥な行動力があれば、年収37万円ってことはないけど。
お金がない時によく思うことがある。
ラノベ作家だった頃、「家の中じゃいまいち気分が乗らないから、ファミレスでアイデア考えよう」とか言って、お気楽に深夜のファミレスに行って、深夜料金払ってポテトとか食べていた。
あの頃の自分に、
「『アイデアを考えている自分』を人に見せたいだけだろーが! アイデアなんか微塵も出なかったわ。だいたい、てめえのことなんざ誰も見てねえわ! てめえが無駄に払った深夜料金で五割引の菓子パン二個ぐらい買えんだぞ。もっと金の使い方考えろや! 今の俺は、それをわざわざ指摘したくなるぐらい困窮してんだ、バカヤロー!」
って全力で首締めながら言えたらすっきりするだろうなって。
ま、そういう反省があるから、今はあの頃と比べれば活きたお金の使い方をしていると思うよ。