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ロゼッタの日常 おまけ(エリエールの回顧録から10年後)

『トリス先生たちの日常』最終回です。

 私、ロゼッタ。もうすぐで9歳。四人兄弟の一番上です。


「もう日が暮れるから帰ってきなさい」

 パパが呼んでいる。私は、薬草を踏まないように気をつけて、畑を走った。

 パパ、いつもは優しいけれど、薬草を踏んじゃったり、引っこ抜いたりしたら、すごく怒るんだ。

  

「お邪魔してるよ。ロゼッタちゃん」


 レイス先生だ。王都の偉い学者さん。一ヶ月にいっぺんこの村を訪れて、森に行く。

 緊張した顔でシャム兄ちゃんが、レイス先生を見ている。


「シャムロー君、ご両親の許可はもらえたか?」

「父さんも母さんも行っていいって」

「シャム兄ちゃんどっかいっちゃの?」

「シャムじゃねぇ!」

 私の質問に、緊張した顔を解いてシャム兄ちゃんが怒鳴る。


 パパも「言いにくくても、ちゃんと名前を最後まで呼んであげなさい。・・・今日で最後なんだから」って言う。パパもシャム兄ちゃんを『シャム兄ちゃん』って呼んだら、いつも顔をしかめて注意するけれど、今日はなんか元気が無い感じだ。


 食事を作っていたママは「ロゼッタ、シャムローお兄ちゃんは大事な話しているから、邪魔したら駄目でしょ。それよりかこの子達をお願い」と視線を真下に向けた。


 妹と上の弟は大好きなパパがレイス先生たちと話しているから、ママにくっついている。

 これじゃあ、お食事の準備がしにくい。

 シャム兄ちゃんと先生の話が気になったので、私は二人を連れてとってもゆっくり部屋に向かった。


 部屋に引っ込む直前、チラッと振り返る。


「じゃあ、僕はいつもの通りここに泊まるから、準備を整えて、明日ここに来てくれ」

 レイス先生がそういうとシャム兄ちゃんは「よろしくお願いします」と頭を下げて、我が家から出て行った。



 夕食を摂ったあと、いつも王都の話をしてくれるレイス先生は、明日が早いからと今日はさっさと客間に戻っていった。


「ハンスさんもアイリスさんもさびしく思っているでしょうね」

 

 ママが一番下の弟をあやしている。パパが手を伸ばして私を膝の上に抱き上げてくれる。

 妹と上の弟が寝た後は、パパの膝の上を独り占めできる。 

 

「なに、王都まで、馬で飛ばせば半日もかからないさ」

「そりゃ、アンタの腕ならね」


 パパは、いつもはお仕事で忙しいけれど、休みになったら馬でいろんなところに連れて行ってくれる。


「シャム兄ちゃん、なんで王都に行っちゃうの?」

 聞きたくてうずうずしていたけれど、妹と弟の相手で忙しかったから、


「シャムロー君はね、この土地に合う野菜を作るために、王都にお勉強に行くんだよ」

「お勉強なら、パパとママが教えればいいのに」


 パパとママはこの村の先生をやっている。王都なんてすっごく遠いところなのに・・・そんなところ行ったら、シャム兄ちゃんと遊べない。


 私は、レイス先生に王都の面白い話を聞いているし、パパに王都に連れて行ってもらうとき、いちを見るのが大好きだけれど、なんかごみごみしていて、あんなところにずっと住みたいとは思わない。

 

「シャムロー君は、パパが知っていることよりもずっと難しいことを習いに行くんだ」

「パパでも、知らないことあるの?」

「そりゃ、たくさんあるよ。シャムロー君が最新の農法や育種の方法を学んで帰ってくれば、この村で今まで育てたことが無い野菜を育てられたり、今まで育ててた野菜も、病気に強くなったり、数が増えたり、実が大きくなったり、おいしくなったり・・・するかもしれない」


 『農法』とか『育種』とか知らない言葉が出てくるが、もっとおいしくて大きなトマトが食べられるかもしれない。そう考えるとうれしい。


「失敗しちゃう可能性もあるの?」


 その年の収穫が失敗だと大変なことになる。一昨年おととし、不作だった。

 いつもなら、自分たちが食べる分は小さな畑とみんなの授業料さしいれで十分足りていたのに、その前の年に貯めていた食料までなくなってしまった。

 パパは私よりか身体が大きいのに「もうお腹いっぱいだから」って言って自分のご飯の半分を私たちに渡したし、いつもはあまり売らない薬を王都に何度も売りに行った。


「そうだね。でも、冷害や猛暑に強い野菜ができれば、一昨年のような思いはしなくても済む。シャムロー君が学んだ農法が、この土地に合うかどうかもわからないし、育種には長い年月がかかるけれど、この村は明日、大事な一歩を踏み出すんだ」



 十数年後、『ロゼッタ』という品種のトマトと『アイリス』という名の小麦が市場に出回り始める。

 

 一つの村で生まれたそれらの品種は、気候の変動の影響を受けにくく、徐々にレペンス王国全土に広がって行き、自給自足で精一杯だったこの国が近隣諸国へと農作物を輸出できるきっかけとなった。


 今回を持ちまして『トリス先生たちの日常』を完結とさせていただきます。


 『御伽噺の王子様を悪役にしよう』というひどい思いつきでスタートした『お姫様とスケルトン』から、おまけにおまけを重ね、二百数十年後の話までたどり着きました。


 皆様、最後までお読みいただきありがとうございました。

 少しでも、楽しんでいただけたら嬉しいです。

 

 シャムロー君、ネーミングセンス無かったので、名前付けに困った時にはとりあえず知り合いの名前をつけていました。一部そのまま正式品種名に・・・。

 他の農作物もこの村の住人の名前がたくさん付けられています。


 『ロゼッタ』は冷夏に強く、実が大きい品種ですが、甘みが足りないという設定です。何十年後かには甘みがプラスされた品種も出てくるでしょう。


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