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呪われた王子は婚約破棄をしたくない!  作者: 万月月子


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sideマリア4

王立学園に無事入学し、驚いたことは本当に王子様がいたことではなく、王子様の婚約者が魔女様そっくりの色味だったことだ。

けれども雰囲気は驚く程柔らかく、凄みのある美しい妖艶な魔女様と真逆の清楚で可憐な方だった。

こんなに清らかで美しい人と婚約破棄をして、本当にあたしを選ぶのだろうか?

魔女様に言われた通り、呪文をかけたパンを渡したりしていたけれども、どんな時でも寄り添うように二人は仲睦まじく一緒だった。


そんな様子を見て、ホッとしてしまう。


あたしの魅了は全然上達していないようだったけれども、学園でいろんな人にパンを配ったりしていたので、貴族クラスの方まで、我が家のパンを買ってくださったりするようになり、我が家は益々繁盛していた。


こんなに繁盛しているのなら、王子に選ばれなくても良いのではないか?

だって、あのお二人はあんなにもお似合いだもの。

そんな風につらつらと考えながら、あたしは今日もこっそり意地悪フレッドが工房で働いているのを盗み見していた。


汗をぼとぼと垂らしながら、フレッドは炉と向き合っていた。

あぁ、フレッドったら、良い顔してるじゃない。

これを見たくて、二日と開けずここに通っているのだ。

ガラス工房の裏手の窓からフレッドを、見ているのは少しも飽きなかった。

フレッドにもう来るなと言われたけれど、それは一週間ももたなかった。おばさんにパンだけ渡して逃げ帰ろうとして、訳を聞かれ、まぁ、でも、せっかくだからフレッドの顔だけでも見ていってあげて、とここに連れて来られたのだ。


そして、はまった。


虫を持って追いかけて泣かす意地悪フレッドはそこにはいなくて。

泥の付いた手で、追い掛けて泣かす意地悪フレッドでもなかった。

嫌って言っても怖い話しをして泣かす意地悪フレッドでもなくて。


あれだけ意地悪なのに、兄妹みたいにいつも側にいたのは。

フレッドがいたら、寂しくなかったから。

いつも一緒にいるだけで、寂しくなかったから。

それなのに。

もう、来るなとか、本当に意地悪の天才だよね。


あんなに真面目な顔して、ガラスを慎重に炉に入れて。


学園で剣技の授業に、皆、カッコいいって声をあげていたけれども、あたしはこっちの方が良いな。

汗水垂らして真剣に仕事している、そういう姿のがカッコいいって思うな。

別に、フレッドがカッコいいじゃなくて、働く職人が好きだってだけなんだから。


おっと、夕方の鐘だ。

フレッドが帰ってくる前にここから、逃げ出さなければ。

慌てて家に帰ろうと身を翻した。

「フレッドー、今晩来るでしょ?」

聞き覚えのある高い声がして、足が止まる。

これは、二才年上の酒場のカトレア。

「あぁ、後で行くよ」

え?嘘でしょ。

どういうことよ?

思わず窓に顔を擦り付けてのぞき込む。

勢いが殺せず、ぶつかるようになってしまった為、激しい音がした。


フレッドはびっくりした顔でこっちを見て。


そして、吹き出した。


え?どういうことよ?


ひとしきり笑った後、こちらに近寄り、窓を開けた。


「なにやってんの?もう来るなって言っただろ」

「べ、べ、別に通りかかっただけだもの」

「へー、人っちの裏庭を?」

「あ、あれ?ここ、フレッドの家だったの?考え事して気づかなかったわ」

そう言った瞬間鼻をつままれる。

「ちょっ、痛っ」

「嘘つくと鼻が伸びるぞ」

「やめてよ!意地悪フレッド!」

フレッドの手を振り払う。

ふっ、と笑った後、顔を引き締めて、もう一度フレッドが言った。

「ここには来るな。母さんにパンもいらないから」

静かな目で冷たく突き放す。

「なんでそんな意地悪なこと言うのよ。自分はカトレアの店に後で行くとか!おばさんに言いつけるからね!」

「俺もう16だし。飲酒OKなんだけど。学生さんから見たらどうか知らないけど。住む世界が違うから」

「フ、フレッドのばかっ」

走ってその場を飛び出す。


フレッドは追いかけて来てくれなかった。


その事で涙がポロポロ溢れ落ちる。

いつもの丘の上。大きな木の下で。

追い掛けて来ないフレッドを待つ。


もう迎えに来てくれないだろうとわかっていたけれど。


あたしが、家に帰って学園の宿題を夜やる間、フレッドは他の人達と酒場で酒を飲む。

そう、世界が違うのだ。


「お前はまた、泣いているのかい」

「魔女様!」

不意に現れた魔女様にびっくりして涙が止まる。

「王子はどうだい?魅了でメロメロにさせられたかい?」

「そ、それは…」

「いつまで経っても上達しないみたいだね。特別に私特製クッキーをあげよう」

それは、毒々しいピンクのクッキーだった。

「これを王子に食べさせるんだよ」

あたしは、渡されたクッキーの袋を震える手で持つ。

「何にも悪いことじゃないよ。ただ、お前を好きになる魔法がかかっているクッキーなだけさ」

「で、でも。王子様と婚約者さんは、すっごく仲良しで」

「マリア。わかっているね?これをやらなかったら、どうなるか」

あたしは、カタカタと音が出る程震えて魔女様を見た。

「これで、もう泣かなくてすむ。幸せになれるんだよ」

慈しみの、こもった瞳で語られて。

あたしは、頷くことしかできなかった。


「マリア、お前は本当に」

フレッドの呆れた声にはっとして顔をあげる。


魔女様は、もうそこにいなかった。


けれども手のひらで、クッキーの袋が揺れている。


「ほら、いくぞ」

フレッドがあたしの手を引く。

「なんで、迎えに来たのよ」

鼻声でフレッドに文句を言う。

「お前を家に送らないと母さんに怒られるんだよ」

こっちを見もせずに手を引き歩くフレッド。

「おそいのよ」

「え?」

歩みを止めたあたしを少し心配そうに見つめてくる。

「もう、遅いんだわ」

「マリア?」


あぁ、このクッキーを王子様じゃなく、フレッドに食べさせたい。

あたしを、好きにならずにいられなくなるように。

カトレアなんかの所に行きたくならないくらい、あたしを好きにさせられたらいいのに。



けれども、あたしは、これを王子に捧げるのだ。

魔女様に魅入られてしまったのだから。











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