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呪われた王子は婚約破棄をしたくない!  作者: 万月月子


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sideリリベル5

ひょんなことから、アドナルド殿下の呪いがわかってしまった。


ルイス様と三人でお茶を楽しんでいた時、リンゴの香ばしい匂いを漂わせたアップルパイが運ばれてきた。

それまでは、隙を見せない方だと思っていたのに、ガタッと椅子を軋ませて、テーブルから体を離したのだ。


青ざめるアドナルド殿下に「どうされたのですか?」と訊くと、まるで化け物を見るかのようにアップルパイを指差し、「こ、これを遠くへ」と言うので、急遽、下げてもらうことになった。


(あぁ、リリベルが大好きなアップルパイ。食べさせてあげたかったなぁ。でも、あんなに嫌がるとはりんごにアレルギーでもあるのだろうか。だとしたら申し訳ないことをしたな。けれど、アップルパイを食べるリリベルは本当に可愛いんだよなぁ)


ルイス様が、そんな風に心で思っていると言うことは、アドナルド殿下から、何も聞かされていないと言うこと。


「アドナルド殿下、失礼しましたわ。先程のデザートに何かアレルギーでもおありなのかしら?」

「い、いや。取り乱して悪かった」

自身の弱点になることをおいそれとは知られたくないのかもしれない。

「りんごなのかしら?バターなのかしら?小麦粉?それともシナモン?把握しておかないと。これから先、アドナルド殿下に、不快な思いをさせてしまうかと。教えて頂けないかしら」

アレルギーがあるなら把握しておかないと国際問題になりかねない。

聞かれたくないことでも、あれだけ大袈裟に嫌がったのだ。他の料理に気づかない程度に使われて、口にして何かあったら大事た。

「アレルギーは無い」

「アレルギーは?ということは、他の原因があるのですね」

はっとしたようにこちらを見る。

それから、慌てて息を吸い込んで吐き出し呼吸を整えると共に何もなかったかのような顔をした。


たぶん、それで誤魔化しに入ろうとしたのだと思う。

けれどもそのタイミングでルイス様が人払いをした。


話を聞くよ、という体勢を整えられてアドナルド殿下は溜め息を吐いてぽつりと言った。


「呪いなんだ」

「え?」


私とルイス様は声を合わせて驚き、アドナルド殿下は前髪をくしゅっと掴むと不機嫌な顔で、もう一度言った。


「呪いなんだ」


「それはどんな?」


「りんごが食べられないという呪いだ」


私とルイス様は顔を見合わせた。

呪いなのに、なんかしょぼい。


そんな私達の顔を見ずに俯いたままぽつりぽつりとアドナルド殿下は語った。


「我が国最古の神殿に御神木と言われているりんごの木が植わっている」

あー、何か妃教育で習ったわね。

あちらの国では、その御神木のリンゴの実を祭事で精霊神に捧げるのよね。


「幼少の頃はりんごが大好きだった。あの香ばしい香り。瑞々しい甘味。シャリシャリとする食感」

うっとりと、りんごを語る。


「大好きだったんだ。だから。食べたかったんだ。御神木のりんごを。ダメだとわかっていた。だけれども他のりんごとどう違うのか我慢できずに御神木によじ登り、りんごを取ろうとして枝が折れそのまま枝ごと落下した。それから三日三晩高熱が出た。その虚ろな中で夢を見たんだ。精霊神が大事にしていたりんごの木を折った罰として、二度とりんごを食べられない体にしてやる、と告げる夢を。目が覚めるとその言葉の通り大好きなりんごが食べられない体になっていた。りんごを食べようとしてもどうしても口が開かないんだ。食べたくて食べたくて仕方ないのに、口が開かねばりんごを味わうことが出来ないという絶望。他の人が美味しそうに食べるそれを歯をくいしばり眺めなければいけない地獄」


そんな絶望みたいな感じに語られても…と私が思っていると、ルイス様が涙を流して、「アドナルド辛かったね」と同情を寄せていた。


「本来なら王族の身分を剥奪されても仕方がなかったのだが、僕の母が神殿の巫女姫だったこと、乳兄弟が神殿に身を捧げることを誓ったことが考慮され、王子のまま生きてこれたんだ。まぁ、こんなことが民に知れたら暴 

動が起きるだろうから、国家機密としていた話なんだが。他国まで響き渡る呪いの王子の君に僕も呪われていると言いたかったのさ。本当は」

王子二人は手を取り合って、呪い友だね!と、笑いだした。


アドナルド殿下はどうしてもりんごが食べたくて、他の人に口をこじ開けさせようとしてもダメだった話や、わからないように料理に混ぜてもらったものを知らないままなら食べられるのじゃないかと試したが、少しでも入っている物は口に入れられないと絶望した話をした。


「あれから誰よりも王族らしくなろうと剣も勉学も頑張ってきた。そうして留学して更なる高みを目指そうと思っているんだ」

とも語った。

神殿の乳兄弟の為にも善き王となりたいのだと。



「今日、隣国の王子に会ったわ」

ダークに報告すると、「おー、ついにか」と喜んでいた。


「ほらな。魔女様のいう通り」

「ええ、そうなのね。きっと」

私が溜め息を溢すと心配そうに見上げてくる。

「あんまり嬉しそうじゃないな」

「そうかしら?どこの国に行くのかわかって嬉しいわ。そこの勉強を多めにやっていけるし」

「…。王子はどうだったのさ」

「素敵な方よ。キリッとして。でも、りんごを食べられない呪いにかかってるんですって。御神木のりんごの枝を折って」

それって自業自得よね、とも思ってしまうけれども。


「ルイス様の呪いはルイス様生誕百日祝いの席で、魔女ねえ様に赤ではなく白ワインを出してしまったから呪われたのよね」

それってルイス様に非があるのかしら?


「リリベル」

「ええ、ええ。わかってるわ。何でもないの」

ルイス様をきらいではないの。

きらいではないから、こんなにモヤモヤしてしまうんだわ。

ルイス様とは結ばれない運命。

ずっと、ずっとわかっている。

好きになってはいけないと。

だから、ずっと心に言い聞かせているもの。

好きにならないわ、嫌いではないけれど、と。

決して好きにはなら無いのだと。

それ以上の感情には蓋をして過ごすしか無いのだと。









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