死闘の果てに
さっきのボディブローは初見だからこそ当たったに過ぎない。
隻腕になったからと言って、バーガンディのフットワークは簡単には崩れないだろう。
ならば奴に通用しそうな手はこれしかない。
俺は左手に魔術剣を持ち、右手から五割くらいのエミッションを放出した。
変化する軌道を見切って躱すバーガンディに、今の俺に割く意識は残っていない。
隙を見てハーミットを発動させ、姿を隠した。
「なんつー攻撃だよ。魔力量もさることながら、自在に動き過ぎだろ――って、あの野郎どこ行きやがった? 隠れてんのか??」
気配を探ろうとするのは思う壷。
あっさり敵の背後を取った俺は、剣先を背中に向ける。
「そこかぁっ!!!」
「……っ!?」
奇襲が成功したかに思えたその時、振り向きざまに放たれた蹴りが俺の鼻先を掠めた。
位置を特定したわけではないみたいだが、真後ろからの攻撃は安直過ぎたか。
俺は一旦距離を取った後、一気に懐へと飛び込んで行く。
「ぐっ……! なん……だよ、この剣」
「気付かなかったのか? これは魔術剣だ」
「武器までとんでもねぇもん使ってたのか……。こりゃ回復しても勝ち目ねぇな」
正面からの刺突はバーガンディの腹部を貫通し、強化に回される魔力共々、奴の闘争心を粉々に打ち砕いた。
光属性は瘴気に最も有効だと聞くが、この刃が魔族に与えるダメージも相当大きいらしい。
刺さった剣を引き抜くと、バーガンディはその場に膝を着いた。
「あー、どうした人間? 生き埋めか火炙りにするんじゃなかったのか?」
「お前が死んでも、頭の挿げ替えになるだけだと思ってな。それで俺の目的が遠退けば元も子もない」
「解せねぇな。冒険者や魔術師ってのは、俺ら魔人を目の敵にしてんじゃねぇのか?」
俺はセピア救出の本来の意図を四天王に話した。
魔人族との共存。
それを可能とする新たな社会の構築。
夢物語の様なこれらを実現させるには、下手に頭がキレたり使命感が強いリーダーより、こいつみたいな筋肉バカの方が誘導し易い。
段々と冷静さを取り戻した俺は、自身でもやっと目的を思い出せたのだ。
「魔人側の意見はどうだ? 手を取り合える可能性は無いのか?」
「かっはっはっ! てめぇはマジで意味わかんねぇ奴だな! そもそもてめぇらの吐く刺々しい魔力に、俺らがどう適応しろってんだ?」
「刺々しい? 瘴気が無い魔力がか?」
「あぁ。貧弱なのに妙に刺さる感じで、強い魔人ほどあれを嫌う」
「なるほど。気候が肌に合わないみたいなもんか。だが別に一緒に棲む必要は無い。棲み分けして、争わなければいいだけだ」
落ち着いた声で提案すると、奴はまた面倒くさそうに頭を掻き始める。
その目に敵意は滲まず、逆らおうとする意志も見せない。
「そうだな、俺ァ今はボルドーさえ手に入ればそれでいい」
「なんだ? お前ボルドーのことが好きだったのか?」
「あんな強くて器量の好い女はいねぇ。軍門への勧誘は断られてるが、俺の女にするのは諦めねぇよ」
「それでセピアを餌に強引に釣ったのか?」
「チェスナットに任せたらそうなっただけだ。今も城ん中で二人睦まじくやってんぜ」
どうやらこの男、魔人族とその他の人類種の問題に本気で興味が無いらしい。
自陣勢力の拡大の為には、チェスナットみたいな野心家の方が、指導者として相応しいとさえ思えてくる。
こいつ自身はボルドーへの関心ばかりで、戦争にはあまり介入していないのだろう。
俺は残りの疑問を呈した。
「お前はなぜ四天王になった?」
「あー? 魔族でも人類種でも、とにかく強い奴を倒しまくってたら、魔王様に任命されただけだ。その頃ちょうど先代が人間の魔術師にやられて、東が空席だったからな」
「人間の魔術師だと!? それはどんな奴だ?」
「知らん。てめぇじゃないことはたしかだ」
「……まぁいい、んじゃもうひとつ。なぜエルフの村を襲ったんだ?」
「あれは四天王会議で決まったんだよ。エルフやダークエルフを消さない限り、魔人族は脅かされかねないってな」
「それでお前が指示を出したのか」
「まぁ幹部任せだったが、チェスナットがボルドーまで利用したのに、失敗したとは聞いてる」
だいぶ見えてきたな。
オークの大群を動かしたのはボルドーで、その指示者がチェスナット。
手下のクラレットには見張りを続けさせていたわけだ。
ボルドーも山脈を離れない代わりに、色々と強要されていたのだろう。
だからと言ってシャルの家族達にした仕打ちを、許そうとは思えないけど。
しかし俺達が動いている以上、ここで魔人達に制裁を加えれば、エルフ達は今以上に危険視される。
それは避けねば。
あとサラッとダークエルフって単語が出たけど、そんな種族もいるんだな。




