第69話 変化
前半も残り10分。試合は依然として一進一退。だが、その中でも特に際立っていたのは、両チームの守備の完成度だった。
湯ノ澤銀山は徹底したブロック守備。
黄金台は人数不足を感じさせない連携と粘り。
どちらも、あと一歩のところでゴールを許さない。
そんな均衡を破ろうとしたのは黄金台だった。
湯ノ澤のカウンターを何度も凌ぎ切った直後。
ボールを受けたのは、ボランチの位置まで下がってきていたミッツ(赤江光陽)。
これまでならサイドへ展開していた場面。
しかし、この時ミッツは違った。
(――ここだ。)
ボールを足元に収め、あえてタメを作る。
その瞬間だった。
一人の男が――爆発した。
レオ(葵玲央)。
それまで守備で走り続けていたとは思えない加速。
一気にトップスピードに乗り、中央を突き抜ける。
「来るぞっ!!」
湯ノ澤のディフェンスが気付いた時には、もう遅い。
これまでのサイド攻撃への警戒が、わずかな判断の遅れを生んでいた。
ミッツの右足が振り抜かれる。
ロングボール――!
一直線に、ゴール前へ。
「レオォ!!」
そのボールに、レオが飛び込む。
完全に抜け出した。誰もいない。
――決定機。
スタジアムの空気が一瞬で張り詰める。
だが、その裏で――湯ノ澤ディフェンス陣でただ一人、反応していた男がいた。
楯岡侑嗣(1年)。
右サイドバックの位置でこれまで目立つことなく、黙々と守備をこなしていた。
だがその本質は、“危機察知”。
(中央……来る!)
ディフェンスラインを崩すリスクを承知で、一直線に駆け出す。
ゴール前。
レオは迷わない。
トラップすらしない。
そのまま――ダイレクトボレー。
鋭い一撃がゴールへ突き刺さる。
「もらった――!!」
GK雲井嵐士も反応する。
だが、届かない。
誰もがそう思った、その瞬間。
――ドンッ!!
ゴールライン上に、飛び込む影。
楯岡だった。
身体を投げ出し、足を伸ばし――
ダイビングボレーで、ボールを弾き出す。
「なにぃっ!?」
スタジアムがどよめく。
歓声と驚愕が入り混じる中、ボールはゴールラインを割ることなく弾き返された。
そして――
ピィィィィィィッ!!
前半終了のホイッスル。
スコアは――0-0。
あと一歩で決まっていたはずの先制点。
だが、それを許さなかった湯ノ澤銀山の執念。
そして、あと一歩まで迫った黄金台の攻撃力。
互いの意地がぶつかり合った前半は、スコアレスのまま幕を閉じた。
――そして勝負は、怒涛の後半へと続いていく。




