第68話 一進一退
試合序盤、主導権を握り始めたのは黄金台高校だった。
右サイドを駆け上がるテル(神田照真)。かつてフットサルで磨き上げたドリブルテクニックが、ついにサッカーボールと噛み合い始めていた。
足裏を使った細やかなタッチ、左右に刻むステップ。一気に抜き去るのではなく、「ズラす」「外す」「止める」を繰り返す独特の間合いに、湯ノ澤銀山のサイドDFは簡単に踏み込めない。
「……っ、やりにくいぞ、あいつ」
だが、すぐに統率の声が飛ぶ。
5バックの中央を任される烏丸翔(2年)。
「慌てるな!距離を保て!」
「中に切らせるな、サイドに誘導だ!」
「クロスは上げさせていい!」
烏丸、帆坂望、須賀大伍――中央の3人はいずれも180cm超えの大型DF。
空中戦では絶対的な自信を誇る壁だった。
テルは無理に突破を狙わない。
一度、中央のミッツ(赤江光陽)へとボールを戻す。
そして、その瞬間だった。
ペナルティエリアとセンターサークルの中間。
ミッツは迷いなく左足を振り抜いた。
――ロングシュート。
利き足ではない左。
だが、レオの家での泊まり込み特訓で鍛え上げた体幹と脚力が、その一撃に乗る。
「なっ……!」
湯ノ澤銀山GK、雲井嵐士(1年)の反応が一瞬遅れる。
ボールは鋭い弾道でゴールへ――
しかし。
ガンッ、と鈍い音を立て、シュートはゴールポストの外側を掠めてラインの外へ。
スタジアムがどよめく。
得点にはならなかったが、その一撃は確実に印象を刻みつけた。
(――こいつら、強い)
だが、湯ノ澤銀山は慌てない。
GK雲井はすぐにゴールキックをセットし、中盤を完全に飛ばして前線へと蹴り込む。
狙いは一点。
1トップのFW、矢尻登也(2年)。
矢尻は絶妙なポジション取りでDFを背負い、難なくボールを収める。
それを合図に、MF陣4人が一斉に黄金台陣地へと雪崩れ込む。
「来るぞ!」
黄金台ゴール前、一気に混戦。
だがGKバル(田浦昴)は動じない。
低く構え、視線を切らさず、DFリーダーのムウ(有屋夢生)が声を張り上げる。
「ライン上げろ! 1枚余ってる!」
「無理に行くな、コース切れ!」
人数は少ない。
それでも、合宿で叩き込まれた守備戦術と、身体を張る覚悟が噛み合う。
なかなかシュートを打てない湯ノ澤。
その中で、トップ下の光岡真琴(2年)が一瞬の隙を突いた。
右足一閃――低いミドルシュート。
だが、
「――もらった!」
バルが余裕を持って正面でキャッチ。
会場から拍手が起こる。
こうして試合は、序盤から完全な一進一退。
黄金台はドリブルとミドルで揺さぶり、
湯ノ澤銀山は堅守からの速攻で応じる。
互いに譲らぬまま、時計の針だけが進んでいく。
果たして、前半に試合は動くのか――。




