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第34話 絶望の支配者

 冥桜学園1軍、背番号9――相羽猛の登場から、試合は完全に一変した。 投入直後の後半25分、ボールを足元に収めた相羽は、黄金台DF2人を難なく抜き去り、キーパーの動きをも嘲笑うかのようなフェイント一閃でゴール。 それが、地獄の始まりだった。 相羽は走らない。 ただ、歩くようにして相手DFの間に入り込み、ボールを受け、止まり、抜き、撃つ。 1分後、また1点。 さらにその1分後にも1点。 その得点は機械のように正確で、冷酷だった。


後半26分:スコア 3-6

27分:3-7

28分:3-8

29分:3-9

30分:3-10

 止まらない。 たった一人で、戦局を覆すどころか“支配”してしまっていた。 黄金台のDFたちは、すでに身体ではなく心が追いつかなくなっていた。 パスコースを塞いでも意味がない。マークしても振り切られる。戦術が無力化されていく。 気づけば香織の指示も、誰の耳にも届かなくなっていた。 彼女は唇を噛みしめながら、立ち尽くしていた。 (……私の読みも、戦術も、まるで効かない……) その隣で、紫乃監督も深く息を吐く。 「このままでは……サッカーを、嫌になってしまう者が出るかもしれない……」 強者の中で学ぶはずの試合が、ただの蹂躙に変わっていた。 ピッチの中の選手たちも、もはや目の焦点が合っていない。 3軍の他の選手たちはすでに観客席に戻り、静まり返った観客席からただ、数を数える声だけが聞こえてくる。


後半31分:3-11

32分:3-12

33分:3-13

34分:3-14

35分:3-15

36分:3-16

37分:3-17

38分:3-18


(……止められない。相羽猛を……) 黄金台の選手たちは、ただひたすらに耐えるしかなかった。 誰一人、彼の前では「自分がサッカー選手である」と名乗ることすら、許されない。 そして――後半終了のホイッスルが近づく。 アディショナルタイム、2分。 「……このまま……終わるのか……?」 観客も、ベンチも、選手も。誰もが口を閉ざしていた。 だが、ただ一人。 その絶望の渦中で、諦めなかった男がいた。

 葵玲央――黄金台1年。サッカー歴わずか半年。 それでも彼は、拳を握りしめ、前を向いていた。 (俺たちは、ただ負けるためにここに来たんじゃない――!) そして、吼えた。 「みんなッ!! このままで、いいのかよッ!!」 声が響いた。 沈黙していた仲間たちの身体が、ピクリと動いた。 「たしかに相羽は強いよ! 一人で全部持ってってる! けど、だからって、サッカーってそういうもんかよッ! 俺たちのサッカー、俺たちの想いは、どこ行ったんだよ!!」 「このまま何もせず終わるのが悔しくねぇのか!? せめて1点! 意地の1点、奪ってやろうぜ!!」 玲央の目が赤く燃えていた。 立ち尽くしていた仲間たちが、少しずつ顔を上げる。 目に再び、光が灯る。 諦めかけていた希望が、わずかに蘇る。 玲央がボールを手に、センターサークルへと向かう。 (相羽猛……あんたがどれだけすごくても、俺たちは、俺たちのやり方で“抗う”!) アディショナルタイム、残り90秒。 反撃の狼煙が、静かに、しかし確かに上がった。

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