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第35話 抗う者たち


アディショナルタイム、残り90秒。

冥桜学園1軍――相羽猛。

すでに14得点を叩き出している怪物が、静かにペナルティエリアへと迫る。

(……容赦しない。どうせならトドメも、俺がやる)

その視線には一片の情も無く、ただ静かに、冷たく、獲物を見据える獣のような威圧感があった。


――そのとき。


有屋夢生が、玲央の言葉を噛み締めるように考えを巡らせていた。

(せめて……1点……)

全身から力が抜けそうになる中で、夢生の目が鋭く光る。

「……そうだ。フィニッシュは必ず、相羽が打つ」

この流れ、この時間、そしてあのプライド。

どんなに味方に預けても、最後の一撃だけは――必ず自分で決める。

「なら……シュートコースを、絞らせる……!」

夢生はとっさに、氷見翔弥と早乙女咲哉を呼び寄せ、耳打ちをする。

「今から言う通りに動いてくれ。決まれば、止められるかもしれない」

ふたりの顔に緊張が走る。

「……了解」「やってみるさ」


そしてその時、相羽がペナルティエリアに入る。

全員が叫んだ。

「戻れッ!!」

神田照真、魚住大輔、柳沼主良――全員が死力を尽くし、自陣へ戻ってくる。

もはやポジションは関係ない。これは“守りたい”という意志だけの壁だ。

しかし、それでも相羽は異常だった。

一人、また一人を強引に剥がし、バランスを崩されながらも前へ出る。

そして――振りかぶる!

「来るぞ……!」

夢生の読み通り、相羽は右足を振り抜いた。


――ドンッ!!


放たれた弾丸のようなシュート。

鋭く、正確で、重く、速い。

その一瞬、有屋の指示通りに動いていた氷見と咲哉が体を張ってコースを限定し――

それに賭けたGK・田浦昴が、反応した。


「うおおおおおッッ!!」


飛ぶ。


全身が軋む。


もう感覚すら無い中で、指先が――触れた。

シュートはわずかに軌道を逸れ、クロスバーを叩くッ!!


そして跳ね返ったボールを――

「オラァァァッ!!」

赤江光陽がダイレクトで――

クリアッ!!


そのボールが、ピッチ中央で待っていた葵玲央の足元に吸い込まれる。

玲央は、反射的に声をあげる。

「ここしかねぇッ!!」


そして、走り出す。

全身、もう動かないはずの脚が――それでも走る。

冥桜3軍DFが道を塞ぐ。だが――玲央の目には、もう世界が違って見えていた。


(スローモーション……?)


空気の層が薄くなり、音が遠くなり、時間が遅くなる。


「抜ける……!」


一人、また一人。玲央のステップが相手のリズムを狂わせ、抜いていく。


(何かが……乗ってる……)


最後のDFをかわし、キーパーと――1対1。

無心だった。

打つ。

撃つ。

全身全霊の、魂のシュート!!


「っっ……!!」


キーパーの腕が一瞬反応するも――

弾かれる。


ボールが浮き、転がる。

玲央は、倒れ込んでその様子を見つめていた。


(……入る。これで、1点返せる……)


……しかし。


「……っ!」


そのボールを止めたのは――

いつの間にか、自陣ゴールまで戻っていた、相羽猛だった。


ゴールライン、わずか数センチ手前。

冷たい目でボールを見つめ、足元に収めると、そのまま前線へと蹴り出す。

そして――


試合終了のホイッスルが鳴った。

スコア:3-18

衝撃の結果だった。


勝者、冥桜学園1軍。

黄金台サッカー部、惨敗。

ピッチに倒れ込む玲央。

立ち尽くす仲間たち。

その中で、ただひとつ。

止めたはずのゴール前で、相羽猛は呟いた。

「……あと少し、遅かったら……入ってたな」

その口元に、ほんのわずかに浮かぶ、

興味とも、評価ともつかない表情――

それを見逃した者は、誰一人いなかった。


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