流言飛語は時に万の兵に優る
腹黒親子爆誕!?
セヴァストポリ要塞を一兵も損なわずに1日で抜いた。むしろ蹂躙した。どうも魔力を集約するクリスタルの魔導器がありそこに魔力がたっぷり詰まった弾丸が直撃したことで暴走、のち大爆発となったらしい。中央司令部は当然全滅し、上級指揮官が軒並み戦死というか消息不明となる。そりゃ降伏するわな。
この戦果を好機に喧伝し敵を自壊させる手法を提案してきたのは軍師たる義兄上だった。まあ、要塞を超遠距離から一撃で消滅させる正体不明の攻撃手段がある相手と戦いたいかというと俺でも相手にしたくない。ぶっちゃけ尻尾巻いて逃げる。周辺の城塞や都市に降伏を促すとともに、後方から物資の補給を受ける。要塞前での野戦もどうもこの国ではかなり高名な将軍だったらしい。それが鎧袖一触にされ、要塞が消滅。うん、俺でも寝返る。
「陛下、密偵を放ち情報をばらまきましょう」
「流言か?」
「そうです。要塞の有様を大々的に喧伝するのです」
「ふむ?」
「要塞は竜に潰された、フェンリルに蹂躙された、エレス王が建国王の魔法を復活させた、などなど」
「おいおい、最後のは何なんだ?」
「民衆を味方につけるのです。建国王の後継者と言う肩書はこの国では大きな力を持ちます」
「そういうものか」
「ふふ、面白い小童じゃ」
「おお、これはヒノモト公。お初にお目にかかります。アーサー・ウェズリーと申します」
「おぬしが北の軍師か。今の策、見事」
「いえ、先の戦の采配、とても私ごとき若輩者には及びもつきませぬ」
「それは経験が追いつけば自分にも同じようにできるとも聞こえるぞ?」
「わたしはまだ成長の余地がありますからね」
「ほう、わし相手にそのような放言。面白い」
なんかいきなり二人で腹黒スマイルを浮かべて盛り上がりだす。なんか娘を嫁にやろうとか言い出した。おいおい、諸侯の婚姻は王家を通す決まりになってたよな?あ、横でノブタダくんがため息ついてる。あんなの義弟にしたらうち乗っ取られますよ・・・って笑えない。とりあえず彼の肩を叩き、無言で頷いておいた。
南方戦線と足並みをそろえる意味もあり、周辺の平定を行いつつ情報を集める。マグデブルグ周辺に集っていた諸侯軍は今更逃げられないとかいろいろしがらみがありそうだ。こちらに降った都市や諸侯で、首都方面に出陣している部隊と関わりがあるものを調べあげ、調略してゆく。理由をつけて撤退し、こちらへの降伏を促す。戦場で反旗を翻す。というか、議長がトチ狂っている。亜人が集まり群れをなしているが、それに対して対処しない。そもそも政庁から黒い魔力が吹き上がっている。その魔力に充てられ不調を訴える市民たち。いつ内部崩壊してもおかしくない。頃合いを見て混乱に巻き込まれるのを防ぐため、徐々に軍を進める事になるだろうが、現状は静観だ。
さて、南方戦線の報告が上がってきた。オルレアンの後継者ライエル卿が先鋒を率いて軍を進める。シレジエン大公イアンは軍人としての才能こそなかったが軍政と内政に才能を示した。軍の根拠地としてのシレジエンを統治、管理し軍の遠征を支える後方支援を担い、その任を全うしていた。
さて、フリード東部方面軍は順調に進軍していた。経路の城塞や都市も自落してゆく有様で、首都アンスバッハまで無人の野を行くような状態だった。首都の西に城塞を築き、迎撃の体制を整えているようだが、より規模の大きなセヴァストポリ要塞が1日で落ちたこと。それも正体不明な戦略級魔法で消滅させられたとの情報が一切統制されずにばらまかれていた。ここでこの情報操作のあくどいところは、結果のみを流し、過程や原因に一切触れていないことだ。発案アーサーくん、監修ノブナガ公とうちの誇る腹黒・・・もとい知略の持ち主の策、ぱねえ。相手が可哀想になってきたとかアホな考えがよぎるが、俺とてこいつらを敵に回したくない。まあ、向こうは向こうで盤上を詰みに持って行ったとたん戦場ごとひっくり返すようなデタラメな武勇の持ち主を相手にしたくないと面と向かって言われた。面と向かってだ。人を化物みたいに言いやがって。
さて、アンスバッハを包囲したとの報告もあり、こっちの情勢は腹黒コンビに任せることにした。どうせ俺は頭脳労働に向きませんよ。てことで委任である、丸投げにあらず。そう自己完結し俺はリリに乗って南へと飛び立つのだった。
フェルナン卿と合流を果たし城攻めにとりかかる。というか、竜の宣伝効果が凄まじく、なかば自落寸前であった。イーストファリア王国の歴史が目の前で終焉を迎えようとしている。
次回 王都陥落す
大陸の歴史がまた1ページ・・(CV:ほりかわりょう