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竜王降臨

英雄は一番絶望的な場面で現れるのです

 シレジエンの戦況は悪化の一途をたどっていた。十重二十重に包囲され間断なく攻撃を受ける。補給も望めず、死傷者も増える一方で、兵員の交代や補充もない。魔力弾は魔力が続く限り打てるが魔法兵も人間、いつかは魔力が尽きる。矢も無限にあるわけではない。うん、詰んでるな。執務室でフェルナン卿はため息を漏らした。分の悪い賭けであった。それは自覚している。だがここまで多くの兵を巻き込むことになるとは流石に思っていなかった。ウォルトの子はアルフェンスに残っているので、家系は途絶えることはない。だが、まだ若い長子を巻き込んだことに軽い後悔のため息を漏らす。


「父上、敵が攻め寄せてまいりました」

「ウォルト、すまんな」

「父上?いきなりなにを」

「この籠城戦に先はない、お前を巻き込んでしまった」

「なにをおっしゃられる。陛下が今に軍を率いて来援してくださります」

「む、そうだな」

「弱気は父上には似合いませんぞ。冷静沈着なアルフェンス辺境伯のままでいてください。兵が弱気になります」

「ふふ、わしも老いたな。まさか子に諭される日が来るとは」

「なればこの一番が終わりましたら隠居されるがよろしい。後は私が何とでもします」

「ふ、まだそこまで耄碌しておらん。だがわしが後ろ盾になれるうちに家督を譲っておいたほうが良いかの」

「おやおや、そんな弱気な父上は初めてですな。まず我らが主君を信じましょう。さすれば兵たちもついてきてくれます」

「ふふ、そうだの。お前も頼もしくなったものだ」

「お褒めにあずかり恐悦。なればなおさら彼奴らを蹴散らしましょう」

「うむ、頼りにしているぞ」

「はっ!」


 前線ではルドルフ卿が怒声を張り上げつつも矢継ぎ早の妙技を見せ、空から飛来する鳥の魔物を撃ち落としていた。奴らは大きな石を降らせ、亜人軍の攻撃を支援してくる。矢の攻撃も自然分散して敵の攻撃を防ぐことを困難にしていた。オルレアンの兵は騎射の名手が多い。一般の弓兵とは別にやぐらに登って警戒態勢をとっていた。前線で白兵戦の指揮はライエル卿が執っており、城壁上への侵入を見事に防いでいた。城門は事前に強化しており、大型魔獣の体当たりも防いでいたが、大型の魔獣には普通の矢ではダメージを与えられない。魔法兵の集中砲火で退けるが、大型だけに生命力が強く、なかなかとどめを刺せない。それで一晩経つとケロッとして襲ってくる。それで士気が崩壊しないあたり兵たちの指揮官と追うに対する信頼というか信仰は筋金が入っていた。


 その日もなんとか敵の攻勢を凌ぎ切った。一部の見張りを残して兵に休息を取らせる。兵糧を使い英気を養わせる。だがジリ貧の現状は戦いの合間の時ほど兵の心をむしばむのだった。戦ってさえいれば目の前のことに集中できる。だが考えることができるこういった合間ができることで、生と死の間を行き来することで心をすり減らす。シレジエン籠城軍は日に日に危地に追い込まれていった。


 そしてフェルナン卿はかなり頭を抱えていた。補給も脱出も望めない。降伏など論外だろう。何より情報が遮断されている。そして食料の残りがあと3日。食料が尽きればもう持ちこたえることはdけいないだろう。支給量を減らすことも考えたが、戦えなくなる兵が増え、結局は延命にもならない。脱出を試みるとなると、兵に体力を残さねばならない。決断は今日がリミットであろうか。とりあえず軍議を召集した。


「皆、よく集まってくれた。まず、食料が後3日分しかない。今後の方針を決めたい」

「ふむ、脱出するなら明日までだな。オルレアン騎兵が先陣を切ろう」

「その時はお願いする。やはり撤退しか無いか」

「そうじゃのう。援軍が来ているかもわからぬ。兵の士気も引っ張っては来たがそろそろ限界じゃの」

「ふむ、では、殿軍はわしが引き受けよう」

「いえ、お待ち下さい」

「イアン卿?」

「ええ、私がここに残ります。そもそも私はここの領主ですからな」

「なればこそ脱出を。無駄死は陛下も喜びますまい」

「私は陛下に拾っていただいた身。命をかけるは当然でしょう」

「それを言うなら我ら全て陛下に恩と義理があるのです」

「むむ・・・」

議論が堂々巡りになり始めた頃、伝令が敵の襲撃を伝えてきた。今まで投入されていなかった巨人族が攻勢に加わっているとの報告があり、血相を変えて飛び出していった。


 攻撃は今までにない激しさで加えられた。空を覆わんばかりに飛来する鳥の魔物を撃ち落とさんと矢が中天を覆う。巨人に向け、魔法の集中砲火が加えられ、地を覆う亜人の軍にも矢が降り注いだ。

死を恐れない彼らは城壁にとりつき、味方の降らせた石にあたって落命するものも出る。だがそんなの関係ないとばかりに、退くことは知らない攻勢に籠城側は疲労と被害を蓄積させてゆく。城門がきしみ閂が悲鳴を上げる。まずい、突破される!?と防衛の指揮をとっていたライエル卿が背中に冷たい汗を書いたその時だった。


 白銀の線が空をひと薙ぎすると、上空を覆わんばかりに飛んでいたとりの魔物たちが焼き払われた。断末魔すら上げずに、燃え尽きてゆく。やぐらの上にいた兵が声を上げる。

「ドラゴンだ!!」

上空から急降下し、城壁の上で反転して急上昇する。その急降下して来た地点に一人の人物が降り立っていた。

「ミリアム様だ!」

「王妃様だ!」

兵が歓呼の声を上げる。武勇と魔術に優れた彼女を兵たちは戦女神のように崇拝していた。疲労も忘れ歓呼の声を上げ、雄叫びが連鎖する。

兵の歓呼に応えるため手を振って周囲を見渡す。なんかヒゲの爺さんが号泣しているがとりあえず放置する。そして城門に拳を振り上げる巨人兵に手をかざしてじゅもんを唱える。


【今、新たなる契りを交わし行使せん レーヴァテインよ 魔神スルトの紅蓮の煌きを今我が手に与えたまう プロミネンス・フレア】


 巨大な火柱が地上から吹きあがり巨人兵を一瞬のうちに焼き払った。骨すら焼き尽くされ灰燼と化す。火柱はそのまま空中に噴き上がり、巨大な火球を敵陣に振らせた。亜人軍は混乱の極みに達し、曲りなりに部隊の体裁をとっていたのが、我先に逃げ始めている。そこに先ほどのドラゴンが急降下してブレスを叩き込む。

 状況は一変した。城壁上から戦術級魔法を叩きこまれ、さらにドラゴンブレスが降り注ぐ。そしてたった二人(と一頭?)に目を奪われているうちに、援軍が殴りこんできていた。ドワーフ族の重装歩兵が戦線を押し込み、エルフの魔法弾が曲射で叩き込まれる。制圧射撃の後ヒノモトの騎兵が突撃を敢行し、戦線を縦横に切り裂く。いつの間にかミリアムは馬上の人となり、オルレアン騎兵の先頭に立って突撃を開始する。というか、乗っているのはシリウスだった。その爪と牙が振るわれ、恐ろしい破壊力で敵陣を切り裂いてゆく。そして高みの見物を決め込んでいたアースガード軍に対して一気に切り込んだ。とりあえず一番偉そうなのという感じで矢を放ち、見事敵指揮官っぽいのを射落とす。実はこの人物は、魔物を制御している魔物使いであった。敵軍の撤退というか潰走でシレジエンはほぼ1ヶ月ぶりに包囲から開放されたのだった。

 そして竜とともに地に降り立つエレス王の姿を目にした兵たちが熱狂的な歓呼の声を上げる。後の世に吟遊詩人が詩にするような伝説の場面に立ち会っているのだと、興奮を抑えきれない様子である。竜から降り立ち手を掲げて兵の歓呼に応える。

「「竜王エレス陛下バンザイ!」」

誰ともなく言い始めた歓呼の声に、まあ他変な呼び名が増えたと密かにエレスはため息を漏らすのだった。

多くの血が流れたシレジエンの地。一人の魔道士が密かに儀式を行っていた。

そして地面の魔法陣から一冊の魔導書が浮かび上がる。ここに第三の書の封印が解かれたのだった。

全ての黒き書が開放されたことで、魔竜王の封印が揺らぐ。解放は時間の問題となっていた。


次回 蠢動

上記の煽り通りに作品が進むと保証できかねます・・

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