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王不在の戦場

ほぼ説明回です。

「退け、退却だ!」

 東部戦線は押し寄せた大量の魔物に苦戦を強いられていた。早急な撃破は諦め、野戦築城で防御力を底上げし、まずは住民の退避を支援していた。ここで避難完了の知らせを受け徐々にシレジエン城に向け軍を退かせ始めた。全軍を連携させ徐々に戦線を下げてゆく。相互に魔法兵による火力支援を行い、孤立する部隊が出ないように、騎兵の突撃を仕掛け、敵を押し下げてから歩兵を下げる。大きな犠牲もなく城内への撤収を完了した後、不眠不休で指揮を執ったフェルナン卿は崩れ落ちて眠ったという。

 城は十重二十重に包囲された。援軍を呼ぶ使者も出せず、それでも王が援軍を送ってくれることを信じて兵は防戦している。常勝の伝説を信じているのか、士気は悪くなかった。

「良いか、陛下が援軍を連れて来てくださる。我らはそれまで持ちこたえるのだ!」

「「おう!」」

 声を張り上げたウォルト卿が自ら矢を放って城壁に迫る敵兵を倒す。亜人の軍は軍の体をなしておらず、集団というか、塊で押し寄せる。人間の軍よりも防御施設や投射兵器の効率が良い。だが数があまりに多すぎることと、士気崩壊による退却が望めず、戦闘はより凄惨なものになっていた。

いつ果てるともわからず、戦闘が続いていった。


 北部戦線、こちらに魔物は現れていないが、魔戦士が猛威を振るっていた。魔戦士たちに倍する魔法兵を集中的に運用し結界と集中砲火を浴びせ徐々に相手の戦力を削ることに成功していた。カイル卿の防衛戦術の技量が存分に発揮された形となる。不敗の指揮官は何故か領都からやってきた妻二人を前に仏頂面を見せていた。


「なぜ前線に来た?」

「夫の危機だけなら来ませんでした。ですがこの国の危機です」

「だって、カイル様は狂戦士モードになりますと周りが見えないでしょう?」

「いやあの・・・どういうことだ?」

「この膠着した戦況をひっくり返す一手として考えていた。そうでしょう?」

「ぐぬ・・・だとしたら?」

「みすみす貴方を討たせる訳にはいかないということです」

「そうとは限らんだろう。敵の前衛を抜くことができれば一気に叩くことができる」

「貴方と魔戦士共では釣り合わないのですよ」

「まあ、この世の全ての人と天秤にかけても私の中ではカイル様がぶっち切りで重いですが」

「あら、奇遇ですね。私もそうなのですよ。同率首位で息子たちですね」

「うーん、それは羨ましいです」

おいメイ、なんか潤んだ目でこっちを見るんじゃない。手がわきわきしてるのは何だ。

「まあ、それは凱陣してからにしましょうか」

「そうですね、子供は3人くらいほしいです」

「あのな・・・お前らはなにを言いたいんだ?」

「えっと・・・貴方が死んだら私も死にます」

「重っ! 重いよ! 愛が重い!? つーか、俺が命をかけるのはお前らの為だ!」

「あら、嬉しいですわね。そういえば陛下もミリアム様が死んだと勘違いされてその場で号泣されたとか」

 うっわ、エレスよ、このことは一生ネタにされるぞ・・・南無。

「まあ、そんなわけで、私達が来た理由ですが。無論旦那様を勝たせるためです」

「ほえ?」

「私達がいたら無謀な突撃はしないでしょう?」

「まあ、そりゃ・・・」

「そうして粘ってるうちに貴方は必ず勝機を見出します」

「そうですね、そうなったらお父さんと二人で全力でそれをこじ開けます」

「だから焦らないでください」

「貴方の二つ名は鉄壁のカイル、そうでしょう?」

 もはや言葉も無い。相当煮詰まっていたらしい。思わず溜息をつくと、陣幕の入り口からアーサーくんが無言でサムズアップをしていた。そうかお前の差金か。あとでお礼をたっぷりとしてやろう。ふふふふふふふ・・・


 それから3日後、アーサー卿の指揮で陣を凹型に変形させ、敵前衛を誘い込み十字砲火で魔戦士隊にこれまでの戦闘期間の全てを上回る打撃を与えた。主力を喪ったことで敵軍の士気は崩壊しベシェール将軍の突撃で敵の中央突破に成功、追撃を行いフレスブルグ前に陣を張った。

 一気に包囲にかからなかったのは、南方から魔物の軍が迫っていると斥候から報告があったためである。挟撃を避けるため魔物の部隊とフレスベルグ城からも一定の距離をとって布陣した。北方戦線は新たな場面を迎えていたのである。

シレジエンの籠城戦は熾烈を極めていた。魔物の海に浮かぶ孤島のごとくびっしりと隙間もなく取り囲まれている。前回の籠城戦から防備の手当はされていたがそれ以上の戦力に包囲され、退却もほぼ不可能な状況だった。そんな彼らの頭上に大きな影がよぎる。交戦が降り注ぎ、魔物の群れを蹴散らしていった。


次回 竜王降臨

なんか一生懸命みんなで防戦したけど一人で全部蹴散らすとか俺の苦労は何だったんだ?

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