竜の試練
ファンタジーならドラゴン出さないとね!
翌朝、俺達は長老の案内で里を出た。案内役の守り人が一人護衛のためについてきている。まあ、俺とかミリアムの守りを抜いて長老に危害を加えられるのは人外だ。そもそもシリウスもいる。中途半端な強さの魔獣は寄り付きもしないだろう。などと益体もないことを考えつつ歩を進める。以前も歩き回っていた山中で、俺達の足にはよどみはない。程なくしてあの時の祠にたどり着く。そこは、いっそ不気味なほどにあの時のままだった。草木が生い茂るということもなく、崩れた石畳や崩れ落ちた壁もそのままのように見える。
「ここってあの時のまんまに見えるんだけども?」
「そうね、と言うか、草一本生えてないのっておかしい」
「そうじゃの、ここに立ち入ったからといって特になにか起きるわけでもない。だがの、あの穴を埋めようとして瓦礫を放り込む、穴を塞いだと思ったら次の日には元通りじゃ。放り込んだ瓦礫さえな」
「時の流れが歪んでいるのか」
「よくわからないけど、封印の影響かも?」
「ってことは、封印されてたご神体を持ち込めばなにかわかるかもしれないか」
「わしもそう思う。まあ、俺等は足手まといじゃろうからな、ここから見守らせてもらうよ」
護衛の守り人の青年も無言で頷く。それを合図に俺とミリアムは祠の敷地に足を踏み入れた。即座に頭上からすさまじいまでの魔力と重圧がのしかかる。
「このプレッシャーは!?」
「なにか来る」
「っておい、伝説じゃないんかい」
「古龍種・・・」
巨大な龍がこちらに向かって降りてきた。陽の光を固めたような白銀の鱗を煌めかせ、真円に開かれた目には知性の輝きを伺わせる。そして何よりシリウスが平然としている。これほどの力を持つものが迫れば、何らかの反応がある、にも関わらず俺の頭上であくびしてやがった。ってことは危害を加える気がないってことだ。
「定めに抗いし者よ。天地の理、人の営みを体現するものよ」
「私はティル・ナ・ノグのエレス。これなるは妻のミリアム、汝が名を聞かせ賜いたい」
「我が名はリンドブルム。西方の地を統べる竜王なり。人の子よ定めに抗いし小さきものよ。西に悪しき者あり、汝それに抗うすべを求めるか」
「そうだ、竜王よ。闇を統べしものが蘇りつつある。そして私自身が闇を力とするもの。私では闇を滅すことができない」
「なれば我が試練を受け我が眷属となれ」
「承知した。命を賭してその試練を越えよう」
「よき覚悟である。では行くぞ」
竜王は光とともに人の姿をとった。そこにはエレスと瓜二つの青年が立っている。
「汝が剣を振るう理由はなにか?汝が向ける刃の先はなにか?」
言葉ともに突きつけられた剣先から光に変化した魔力がたたきつけられる。奔流となった魔力の流れに耐え、抗う。剣を抜き放ちまとわせた魔力をこめて防ぐ。
「闇は全てを覆い尽くす。光はすべてを照らす。人の王よ、あまねく世を照らす光であれ」
たたきつけられる光の力に意識が遠ざかる。自分の中の力が光に満たされる、塗り替えられる。そして・・俺が俺じゃなくなる。消えそうになる意識の片隅に見つけたもの。ミリアムが泣いている。幼い子供ころの顔、子供を産み落とした時の慈愛に満ちた涙、そして今。俺を見守りながら静かに涙を流す。何故泣いている?なにがあった?ふざけるな!
怒りが体を満たす。憤怒は俺の中の黒い力と融合する。ただそれをそのまま叩きつけるのではない。光と闇、それは表裏一体。どちらかだけはありえない。光が届かぬ場所に闇はあるのだ。そう、表裏一体で不可分のもの。それに気がつくと湧き上がる力を光に変えて解き放った。お互いの力は相殺され、その場は静寂を取り戻す。
「ぐ、ぬぬ、なにがおきた?」
「竜王よ、これが我が力だ。光と闇は表裏一体。要するに放つ時の方向だけの話だ」
「なんだと?どういうことだ??」
「俺の中に光と闇と双方の力が有る。それは全ての人間に言えることだ」
「え?そういおうものなの?」
「っておい、なんかいきなり口調が変わったな?」
「むう、だって我ずっと光の力しか使えんし、それしかわからぬ」
「つーかよ、あんたと対になる存在がいて、それが今回の発端じゃないのか?」
「おう、よくわかったな。我と対を成す闇の竜王、ニーズヘッグがおってだな」
「てことはあれか、光の魔道書とかなんかがあってそれを復活させたらニーズヘッグの力が下がるとか?」
「や、我ずっと完全体。もともとあっちのほうが強い」
「そこに闇の眷属とか魔獣とかがくっついてるんかい!?」
「そう、ただ、今回おぬしのおかげで理解した」
「ん?なにをだ?」
「人間の強さ。というかそなたの今の力、我を超えてるぞな」
「はい??」
「光の力と闇の力の共存、なんかちょっと前にもそんな力を持った人間いた。我より強いのあんたで二人目だな」
「それどこの建国王だよ・・」
「クロって我呼んでた。クロいいやつだった」
「あー、本名はクロ-ヴィスだよなー?」
「そう、たしかそんなの」
「俺のご先祖さまだ」
「そうなのか、まあ、あれだ。今後とも宜しく」
「え?」
「我、白き竜リンドブルム、汝の友となり力を貸そう」
「で、本音は?」
「うう、ニーズヘッグこわいの」
「ニーズヘッグを止めるか倒すには俺とともに戦うと?」
「んー、我もニーズヘッグも多分死なない」
「どういうこった?」
「創世のときに分かたれた力のかけらだから」
「まあ、よくわからんが、リンドブルムじゃ長いな・・・」
「クロは我のことリリって呼んでた」
「んじゃ俺もご先祖様にあやかってそう呼ぶわ」
「分かった、エレス、よろしく!」
「ところで、ここははっきりさせとくが、お前ペット2号な」
「へ?」
「なんかさっきオレを眷属にしようとするみたいなこと言ってたが、俺のほうが強いんだよな?」
「うう、わかった。フェンリルを従えてるほどだし、我、エレスに従う」
「おっしゃ、よろしくな、リリ」
そして祠から出ると、ミリアムが固まっていた。目を見開きポカーンとしている。
「エレス、どうやって竜の咆哮を押し戻したの?」
「んー?なんだそれ」
「エレスが消滅しかかってたの。光の力に塗りつぶされて」
「ああ、たしかに」
「だけど、黒い力が渦巻いて、その後光って、エレスがエレスに戻ってた」
「ん-よくわからんが、俺はお前が泣いてるのが死ぬよりも嫌みたいだ」
「え?」
「お前の泣き顔が見えたら自分に腹が立ってな。力が湧いてきてそれで押し返した」
「えっと・・・ばか?」
「自覚してるぞ」
「大丈夫、わたしはもっと・・・馬鹿だから」
「そうか、だけどお前が良い」
「うん」
【フェンリル殿、いつもエレス殿はああなのですか?】
【シリウスだ。まーあんなもんだ。なれるしか無いぞ】
【左様ですか、まあ、わかりました。しかしながらながら難儀な主を持ったものですなあ】
【ま、そうかもしれないが良い主だ】
【そうですな。あの暖かい魔力、すばらしい】
【あんま吸いとるなよ】
【承知しましたぞシリウス殿】
なんていうやり取りがあったとか露も知らずミリアムを抱きしめていた。長老が声をかけてくるまで。つーか邪魔すんなクソジジイ。
一方その頃、フリードの軍は各地で苦戦を強いられていた。闇の眷属となった亜人種が倒しても倒しても湧き出てくる戦況に防戦一方となっている。
「王が来るまで持ちこたえるのだ!」
指揮官が張り上げる声も虚しく、野戦で敗れ城塞にこもってなんとか時をつなぐ。
次回 苦戦と光明
ヒーロ-は遅れてやってくるもの?




