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郷愁

ちょいとほのぼのさせてみました

 あの日、誰にも告げず旅だった故郷はあの日のままで、時間が止まったかのような光景だった。あの日のままに美しい自然の中に溶け込むかのように隠れ里はただそこにあった。そして今もあり続ける。


「エレス、何ひとりごとぶつぶつと?」

「ミリィ、一応生まれ故郷なんだからそれなりの感慨をだな」

「そういうもの?まあ、私は貴方が射ればそこが居場所だから」

「まあ、そこは俺もだ。別に王様になりたかったわけじゃない」

「私とエレスの居場所があればそれでいいんだよ」

「そうだな、そのためには国が滅んだら困る。子どもたちの未来を守らんとな」

「そうだね。私の力はそのために授かったと思うの」

「それでいい。そんで、俺のそばにいろ」

「うん・・そう・・だね」


 ふと周りに目をやると俺達は里の人々に囲まれていた。シリウスはいつもどおり頭に乗っかっている。そして長老が息も絶え絶えにへたり込んでいる。んで、いつもどおりの会話をしている俺達をなんかすっごい目つきで見ている人々。なんか顔を隠してクネクネしている女性や顔を真赤にして拳を握りしめる少年。そして壁を殴り続ける守り人の男性。


「エレス君、お久しぶり。元気そうで何よりだわ」

守り人の家で食事の世話とかをしてくれていた女性だ。結構いい年なのだがおばちゃんと呼ぶと飯抜きにされたのはいい思い出である。

「お姉さん、久しぶりです。ちょっと野暮用で帰ってきました」

「ミリィちゃんも元気そうで、エレスくんをモノにしたのね?」

「お姉さんに教わった既成事実?うまく出来た」

「ああ、それは良かったねえ。あとでお話きかせてね」

「うん、ありがとう」

二人は微笑み合ってサムズアップを交わしている。と言うかあんたか、ミリアムに変なこと吹きこんだのは。人里に着くまで毎晩俺の寝袋に潜り込もうとしてくるし、なんか俺の嫁宣言を所構わずするし、最後は風呂場で・・・まあ良いんだけどな。

なんか女連中がミリアムの周辺に集まっている。なんかきゃーとかいやーんとか聞こえてくる。あ、鼻血噴いた。ナニを話してんだおい・・・。


「とりあえずじゃ、おかえり、エレス」

「ああ、只今戻りました、長老」

 

 その夜は、俺達を囲んで話をすることになった。村を出て何があったか、どういうことをしたか、そして村の現状を聞いた。そもそも人払いの結界があったらしいので、この村に外部の人が辿りつけないようになっていたはずだ。だがあの日、盗掘者がたどり着き魔剣の封印を解き放った。魔の眷属が現れ、村は滅亡の危機に瀕した。まあ、あの時は運良く退けることができたのだが、その後、迷いこむ人間が増えており、結局外部との交流を持つことになったのだという。そして聞こえてくる噂。やたら腕のたつ黒髪の青年が成し遂げた武勇譚。

 強大な魔獣を倒し、王都で騎士に任じられ、王女の命を救って貴族になった。貴族となった青年は部下と協力して領土の発展を成し遂げ、内乱から滅亡の危機に陥った国を幾度の戦闘全てに勝利して救う。そして攻め込んできた隣国の軍を見事な知略で追い返す。王女と結ばれ、王から国を譲られる。

 自分のやってきたことではあるがお伽話を聞いているようだった。なんか、いろいろと美化されて、俺そんなこと言ったっけとかそんなことしたっけとかいろいろと疑問符が出てくる。なんか熱っぽい視線で俺を見る少女もいたが、ミリアムの視線に怖気づいたのか目線をそらしてゆく。まあ、正直これ以上嫁とか妾はいらん。無理。色んな意味で無理。

 そういえばシリウスは子犬モードで里の子どもたちになつかれていた。癒やされる光景だ。ってか子どもたちは元気だろうか?平和になったら思い切り遊んでやろうとか思っていると、

「どうしたの?」

ミリアムが俺の顔を覗き込んでいた。うん、美人だ。

「いや、子どもたちのことを思い出してた」

「お義父様がいるから大丈夫よ」

「あー、ルドルフのおっさん見事にジジバカになりやがって」

「うん、おやつの分量超えたら毟るって伝えてきた」

「あー、なんだ、それはやめて差し上げろ」

「容赦はしない。子供のことは」

「まあ、育児放棄してる父親のセリフじゃないか」

「しょうがない、王様は忙しいからね」

「もっと部下を信頼して、どんどん仕事を任せていこう!」

「物は言いよう・・・ね」

「そう言うな、俺も我が子は可愛い」

「そうね、じゃあ、落ち着いたら・・・3人目よろしくね」

「ごふっ!?まて、もうちょっと睡眠時間をとるのは大事だと思うんだ」

「若いから大丈夫。いざってなったらリズがなんか薬を調合してくれるって」

「あんにゃろう、裏切りの魔女の知識、しっかりものにしてんじゃねーか」

「うん、だから疫病の死者が劇的に減ったよ」

「ああ、そうだな。そう・・だな」

「だから3人目よろしく」

「まて、それとこれは話が違う」

「また・・・あの時のようにしちゃおうかな」

ミリアムのそのセリフで鼻血噴いた少年少女が数名。教育上よろしくないのでこの話は切り上げさせた。のだが、聞き耳を立てる子供が多いのは、もうなんというか・・・もうね。まあ、娯楽のないど田舎ならそんなもんかと諦めた。その後寝落ちする子供が出だした頃合いで宴は切り上げられた。

 ミリアムは当然のように俺の寝床に潜り込んできて、俺の睡眠時間を奪うのであった。あ、なんかいろいろ教育上よろしくないので、遮音結界を張り巡らせたのは内緒である。

翌朝、長老と守り人の青年を案内役に森を進む。あの日、魔剣を封じた祠を訪れた。

そこに封印を管理していた強大な存在が現れる。伝説の存在となっていた竜族だった。

巨大なドラゴンは問う。「汝、光の試練を受けるや否やと」


次回 試練 

このタイトルは作者の気まぐれで変わる可能性があります。

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