閑話 学園編外伝 ロレンス卿の転変
本編のネタがまとまらず、思いついたのを書いたらこうなりました。
時系列は学園編直前の本編に準じます
騎士ロレンス。実家も騎士爵である。騎士学校を優秀な成績で卒業し、1年前の軍階級制度の導入により、現在大尉である。学生時代に2回ばかりエレスと対戦することになり、2回ともコテンパンにされたことで彼の評価は高くなかった。しかしながら通常ならば首席クラスの実力者である。問題は同期に綺羅星のごとく英雄が輩出されたためかけらほども目立たなかった。実に不運な男である。
「良いか、本日の訓練は陛下がご覧になる。腑抜けた姿を見せぬように。わかったか!」
サヴォイ伯の声が響き渡る。フリード・ブートキャンプをやりきった兵はそれだけで一段高く見られるのは既に伝統となりつつある。まあ今日の訓練は模擬戦が主であり、そこまでやたら厳しいものではないはずである。とある要塞で訓練を見てただけのはずだったどっかの辺境伯はいきなり兵の中に飛び込んできたが。
あの時は3回攻撃を持ちこたえたことを賞賛されたが、褒められた気にならなかったのはなんでだろう?常識はずれの武力というのはこの世にあるのだ。
などと一人モノローグを垂れ流していると、我らが主君が壇上に上がった。威風というものが目に見えるならばそれを人型にして具現化したらこうなるのだろうか?思えば遠くに来たものである。学生時代を懐かしんでいると、陛下と目があった気がした。陛下もあの頃を懐かしんでくれたのだろうか?
配属されて5年も経つと俺も一端の士官である。自分の小隊を率いて陣列の左翼を構成していた。横陣同士の陣立てでペイント剣を手に敵陣を睨む。中隊同士の小規模な遭遇戦という設定であり、押しこめば勝ちではある。他の部隊と足並みを揃えて前進し、前列の盾兵の影から矢と魔法弾を放ち、自分の前の敵兵を攻撃する。訓練ながら実践さながらの形相だ。敵も、味方も。押し合いは続いたが双方決定打がなくいったん兵を分けようとしていたように見えた。だが少しの違和感を感じた。陣列の下げ方が不自然な気がしたのだ。盾兵に防御姿勢を取らせると、案の定一斉射撃が飛んできた。防御姿勢を取りそこねた前衛部隊が被害を受け、後列の兵との入れ替えに混乱をきたす。指揮官の中隊長が前線側に出てきて陣頭指揮を執る。そこを狙われた。中隊長に集中砲火を受け、隊長が戦死判定を受けたのだ。俺は隣の部隊と協力して防戦を行う。そこに伝令が来た。
「中隊の次席指揮官はロレンス大尉となりました。指揮をお願いします!」
「え?」
「先程の集中砲火で隊長と副隊長が戦死判定です。残りの最先任がロレンス大尉となりまして」
「なんてこった。全軍防御態勢をとれ!盾兵は隣と隙間を開けるな、弓箭兵、敵が寄ってきたら一斉射撃だ!」
とりあえず思いつくままに指示を出す。幸いにして全部隊が指揮下に入ってくれた。小隊は副官に指揮を任せ本隊に合流する。中隊長が後方からニヤニヤと俺を見てやがる。その笑いがなんとなく癇に障ったからではないが、一斉射撃で足止めされた敵兵が退くのに合わせて前進攻撃を命じた。それが見事に敵の後背を突く形となり、敵の前衛が乱れる。攻撃隊を迎えるために盾兵の隙間が開く。そこに射撃を集中させた。攻撃に出てきた軽歩兵を中心に損害を与える。密集していない盾兵はただの的である。ここで、軽歩兵の強襲を命じた。なんか面白いように敵の前衛を食い破ってゆく。敵の最前線は崩壊し、軽歩兵も陣列に浸透している。敵本隊が徐々に下がりつつあるのを見て取った俺はそのまま予備を含めた全兵力の突撃を命じた。
「そこまで!」
サヴォイ伯の号令がかかり、戦闘が終了する。
あ、うちの中隊長が呼び出された。怒声がここまで聞こえてくる。おお、スクワットが始まった。鎧着たままのフル装備でスクワットとかまさに罰ゲーム。ん?俺に向かって手招きが・・・やべえ、連帯責任スクワットか?
「ロレンス大尉。見事な指揮だった」
中隊長がジトッと俺を見るが、俺にどうしろと?
「はっ、ありがとうございます!」
「防戦から反撃までの流れといい、戦術の教本にするレベルだな」
「はっ、恐縮です」
そこにいきなり現れた。陛下が。
「大尉、久しぶりだ。向こうの中隊長に策を仕込んだのだが、いっそ見事に打ち破ってくれたな」
「はっ、恐縮です」
朗らかになにをほざいてやがりますか?策?要するにあの不自然な動き、陣頭指揮で混乱を立てなおそうとするところまで織り込んでたと?
「ま、あれだ両中隊長は反省するべき点が多かろう。勝ちかけは勝利にあらずだ。勝ちを焦ってはならぬ。また、安易に身を危険にさらしてもいかん。陣頭指揮に出るとしても盾兵を周囲に配置できたのではないか?」
ふと気づくとあっちの中隊長もスクワットを開始していた。息も絶え絶えに陛下のお説教に返答している。なんというか、地獄の底から見られているような視線が痛かった。
訓練の次の日、俺はベルティエ卿からの出頭命令を受けていた。軍務大臣の執務室にはなぜか敬愛すべき我が主君が執務机に寄りかかっていた。
「ロレンス大尉、ご命令に従い出頭いたしました」
「うん、少佐、ご苦労」
「少佐?」
「ああ、君は明日付で少佐に昇格する。新規で編成される中隊の指揮官への配属が決まっている」
「はっ、ありがとうございます。謹んで拝命いたします」
「辞令は帰りに受け取っていくが良い」
「承知しました」
「私からは以上だ。後は陛下から話があるそうだ」
なんだ?すごく嫌な予感がする。
「さて、まあ、前置き長いの苦手だからさっくりと聞こう。君には確か弟がいたな?」
「はっ、現在士官学校に在籍しております」
「ほう、ベルティエ、その弟君の成績はどうだ?」
「優秀と言って差し支え無いかと」
「それは重畳。ならこの話もし易いな」
「陛下、いったいどのような・・」
「騎士ロレンス。卿を男爵位に叙爵の上、新規で貴族家を立てるとなればどうする?」
「は・・・はあ??」
「まあ、驚くよな。俺も覚えがある」
訳知り顔でウンウン頷くその顔面に渾身のストレートを叩き込まなかったのは総動員された理性のファインプレーだったろう。まあ、放ったとして当たるとは思えないが。
「それはさておき、卿に預ける部隊というのがだな、エルフ、ドワーフ、ヒノモトの混成部隊なのだよ」
「それは一体?」
「エルフの遠距離能力と、ドワーフの前衛能力、ヒノモトの騎兵の突破力。これ組み合わせたらすごくね?ってのがまあ、発端なんだが、指揮官の人選がな、まあ適任者がなかなか・・な」
「はい、それでなぜ私を?」
「カンだ」
「・・・はい??」
「まあ、決め手は昨日の模擬戦だけどな」
「わかりました、陛下の期待を裏切らぬよう、全力で当たらせていただきます」
「うん、よろしく頼む。ああ、それとだ」
「はっ??」
「男爵位に就くのに独り身はまずかろう?」
「え?あの?どういうことでしょうか?」
「入れ」
ドアが開くと、行きつけの食堂の娘が綺麗なドレスを着てもじもじしていた。
「え?リーナ?」
「あの、ロレンスさん、こんにちは」
「我が国の誇るべき騎士、ロレンス卿は酔っ払いに絡まれているこのお嬢さんを助けてご自宅まで送り届けたとか。しかも、そこは評判の食堂で看板娘目当てにそれから通い詰めていると聞いたが?」
「ちょ、ちょちょちょちょおおおお、えええええ?」
「ロレンス、顔が赤いぞ? それはそうと、その看板娘も自分を助けてくれた騎士様を憎からず思っているとかいないとか?そこの食堂の常連の間では架けが成立しているそうだ」
「え、あの?えええええええええ?」
「さて、お膳立てはした。後は男を見せるだけだぞ」
どうしよう、すごく殴りたい、ぶん殴りたい。だがその前に、リーナ嬢をなんとかせねば。
「んんっ! リーナ嬢、私は軍に籍をおいており、いつ死地に赴くかはわからない」
「え、あ、はい」
「だが、ここに誓おう、どんな死地からでも、あなたのもとに帰ってくると。だから、私の帰るべき場所になってはくれぬだろうか?」
「えっと、いつでも食堂に来ていただければ・・」
いかん、噛み合ってない、そして爆笑をこらえる陛下の顔がすげえムカつく。あ、ベルティエ閣下もデスクに突っ伏してる。なんで俺はこんな見せもんを演じてるんだ?あ、手にメモ書きが「もっとストレートに!」だと?ああ、わかったよ、やってやんよ!
「リーナ嬢、私の帰る場所というのは、家庭だ。私の妻となってください」
膝をつき右手を差し出す。いかん、心臓がバクバク言ってる。初陣の時よりひどいかもしれん。
沈黙が怖い。顔を真赤にしている。なんか目がうるうるしている。かわいいな。
「私のようなものでは騎士様の奥方は務まらないのでは?」
「ええい、そんなことはいい!何があろうと私が貴女を守る。というか、もうこの際だから言っておきましょう!貴女に一目惚れしたんですよ!」
「え・・・そう・・なの? 私もロレンスさんが好きです。よろしくお願いします」
拍手の音が響き渡った。陛下は目元に涙を浮かべている。絶対笑いをかみ殺した後だろ?
「ロレンス、よくやった!」って親父?
「兄上、おめでとうございます!」って弟?
お前らずっと覗いてやがったのか!?
「ああ、リーナ嬢・・・改めて名乗ろう。私の名はエレスという。仕事は王様だ」
「え?ロレンスさんの上司じゃなかったんですか?」
「ロレンスは近衛で、近衛の上司を突き詰めると王である俺になるな。嘘ではないぞ」
「は、はあ。わかりました」
「さて、ロレンス卿の男爵位の授与とあなた方の婚約発表をせねばならんな」
「へ?男爵?」
リーナ嬢はそのまま横倒しで倒れて失神した。
どっからともなく現れた女性がリーナ嬢を介抱しているってあれ王妃のミリアム様?
その後のゴタゴタは思い出したくない。その後、俺は軍務卿旗下の法衣貴族として男爵位を与えられた。んで、実家の父と弟が騎士爵の身分でそのまま家臣となった。リーナは男爵夫人の肩書に目を回していたが、基本何も変わってないことを理解すると、実家の食堂でウェイトレスをしている。俸給はかなり高くなったので、問題ないと伝えたが、子供ができるまでと、後護衛を貼り付けておくことを承知させた。
俺は立志伝の人となり、王の忠臣として名声が広がっているそうだ。しかしまあ、ハメられたのは王の学生時代の同期とかまあ、いろいろ理由はあるんだろう。男として出世を果たし、可愛い妻もいる。しかも主君に信任され、実験部隊の指揮官だ。いろいろと大変だが守るべき者ができたので充実はしている。
だから俺は決してどっかの王様のようにはぼやかない。どうしてこうなった?と。
騎士ロレンス
エレス王に従って各地を転戦して功績を残す。いかなる死地からも部隊を生還させ、不死身のロレンスと呼ばれた。非常な愛妻家で5人の子供はそれぞれ功績を上げて別家を立てることを許された。平民の女性と結婚したロマンスは、今も演劇などに残る。
明日は・・・本編の続きを書きたいなー(棒




